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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
正義 → 激闘
310/314

暗躍する者1

 とある校舎の窓際に、その女は立っていた。

 口元を釣り上げ、左右に侍る女性達と共に戦場と化したヒストブルグ校庭を見つめる。

 混沌の坩堝。

 正義と悪が入り乱れ、さらにラナリアからの援軍も駆け付けた。


 特別ゲストも招待し、敵戦力をかなり減らせたと思う。

 といっても、この程度ではまだまだ致命傷には程遠いのだが。

 少女は哂う。あまりにも滑稽に見える怪人達を笑う。


「見ろP・AそしてA・P秘密結社共が共謀して攻め寄せたヒストブルグ、正義の味方見習いたちが怪人を倒す様、最高だと思わんか?」


「いや、確かに見物としては面白いのだが……ですが、やられる側な私たちは全然最高ではないのだ」


「A・Pのいうとおりです。我が結社が疲弊しないため、やられる前に芽を摘み取るべきでは?」


「否。あまりにも愚問である。我が理想のためには他の秘密結社は不要であるのだよ。つまり、ここで正義の味方共々潰し合ってくれる方が我が為となる」


 既にラナリア所属の正義の味方の大量増援によりヒストブルグ大戦の形勢は完全に正義の味方有利に進んでいる。

 だが、やはり来たようだ。


「ふん。やはりそうくるか。ではA・P、P・Aお前達の任務に向え」


「了解なのだ」


「しかし、こちらに参加せずよろしいのですか?」


「構わん。こちらはレウコに任せるさ。もともと私の目的を持っていたのも奴であることだしな。私はW・Bのもとへでも向うとしようか。そのまま異世界にでも向うとするよ」


「またですか?」


「首領なのによいのか? 怠慢だぞ」


「首領は別にいるだろう。私は異世界に行ってイレギュラー化した存在だよ。本来存在できるはずの無い重複存在。そういう者は別世界を旅する方が気ままで良い。幸いW・Bの近くに恋人も来たようだし、リベルレの奴もいる。アレと鉢合わせぬようついでに連れて行くとするか」


「また……画策してるのですか首領」


 呆れた声が背後からやってくる。

 A・PとP・Aが振り向くと、そこにエルティア近づいて来ていた。


「来たかエルティア。そろそろこちらに戻れ。向こうとの接触も果たせたし後の仕事はレウコに任せればいい。お前は私の右腕なのだからな」


「はぁ……仕方ないですね。まぁ勇者様のその後をまだ見ることが出来るのですから、お付き合い致しましょう」


 クロリの横にエルティアが並ぶ。

 空気を察してかA・P、P・Aはいつの間にか姿を消していた。

 そんな二人のもとへほたるんとハルモネイア、そしてナールが別々の方向からやってくる。


「首領さん、こちらの怪人はほぼ壊滅しました」


「こっちも終わりでる」


「任務、完了」


「よし、では『我が身体とエルティア、空を歩け』」


 そして空を歩行するクロリとエルティア。向かう先はW・B。

 丁度空から黒い蝶型正義の味方が舞い降りているところであった。

 目立つので直ぐに辿りつける。


「ところで首領、エスカンダリオが見えませんが?」


「奴ならレウコのところで四天王に戻ったよ。今頃、嬉々として働いているだろう」


 ククっと笑う首領は黒い笑みをしていた。


「そう、今頃は魔王の元、機械兵団による蹂躙が始まっているだろうさ。ふふ、ククククク」


「良く分かりませんけど、また悪事を働いていることはわかりました」


「おいおいエルティア、見損なわないでくれたまえ。今回の蹂躙対象は、悪の秘密結社なのだからな」


 自分も悪の秘密結社なのでは? そんなことを思ったエルティアだが、良く分からなかったし、聞いても教えてくれそうにないので口を閉じることにした。

 なんにせよ。既に目の前の首領はこの世界にいるのに飽きている。

 次の世界を求めているのだろう。付き合わされる方の迷惑など返りみず、自分の欲望を満たすためだけに動く者、それが悪なのだから。


 不意に、エルティアは思い出す。

 自分を救ってくれた勇者に、勝手について来たのは自分なのである。

 身勝手にやって来て気に入らないからという理由でその元を離れては、やってることは同じ悪ではないだろうかと。

 なるほど、自分も既に悪の道に嵌っているのか。そう気付くと、なぜか心のつかえが取れた気がした。


 逆に失ってはならない何かが消えた気もしたが、悪の一員として行動を始めたエルティアにとっては些細なものでしかなかった。

 だから、自分の欲望赴くままに、首領に願いを告げてみる。


「あの、首領?」


「ん? なんだ?」


「異世界に行って落ちつきましたら、私勇者様の子が産みたいです」


「いや、アレには既に蝶がまとわりついて……ああ成る程。何がきっかけか知らんが、悪に落ちる決意ができたか。ふふ。我が右腕らしくなって来たではないか」


「F・Tさんを見てたら、それもアリかなと思えて来まして。よろしいですか?」


「ふふ。面白そうだ。許可する」


 王利の知らないところである意味危機に陥るフラグが立っていたのだが本人は知る由も無かった。

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