表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
正義 → 激闘
306/314

正義の反撃2

 アラビアン・ハラショーを一言で表すならば何か?

 正義に全てを捧げた男。

 それが彼の人生である。


 もともと正義漢の強かった彼は、当時、独自の正義感を持って周囲の悪を打ち破っていた。

 そんな彼が、とある事件をきっかけに、裏組織を暴きだす。

 それが秘密結社を知り、その施設を壊滅させた男の始まりだった。


 男に特別な力は無い。

 最初の秘密結社を撃退したあと、その施設を探索した。

 悪の結社がどういうものか、そこで見知った知識を元に、似たような衣を被り、闇の底で活動していた別の結社をいぶり出す事にも成功し、これもまた倒した。


 秘密結社の存在が暴かれるごとに、同じように正義を志す者が増え出した。

 しかしアラビアン・ハラショーには全く関係がない。

 彼にとっては悪い事を行う秘密結社たちを見付けだし撃退すること、それのみに尽きる。

 仲間など必要無かったのだ。


 結果、大小合わせて40もの組が彼によって崩壊したと聞く。

 それも正義の味方として名が知られる前の話であり、正義の味方という、本当に秘密結社と闘うヒーローがこの世界に公式に発表された初の人物でもある。


 確かに前々からの正義の味方も居たには居たが、多くの人々に現存する正義の味方として認識されたのは、アラビアン・ハラショーなのである。

 正義の味方の祖とも呼ばれる132歳の御老体である。


 すでに肉体は限界を迎え、骨と皮だけになり、歩くのもやっとの老人となってしまった。

 時折妻に飯はまだかいと聞いていたのはまだ若かった頃のことだ。

 既に妻は他界してしまい、息子や娘も他界したり音信不通になったりしてしまっている。

 今、彼の世話をしてくれているのは孫家族だ。


 それでもスマイリームーンなどが世話を焼きに来てくれているので孫家族の負担はそれ程でもない。

 この学園など様々な場所に出張っているのも負担を減らしている要因であろう。


 そんな彼も、衰えたとはいえ正義の味方なのである。

 生身ながら秘密結社を何度も壊滅させている実力は計り知れないモノがある。

 さすがにピーク時のように素早く動き敵を翻弄ということはできないが、杖一つで闘うくらいは出来るのだ。


 近づく戦闘員をよぼよぼと歩きながら杖で一刺し、あるいは頭上から喝ッとばかりに打ちおろして迎撃していく。

 時折ふらつき歩くだけで危ない場面もあるが、その動きを妨げようとする戦闘員が悉く潰されていた。


「これは素晴らしい。伝説の正義の味方と相まみえることが出来るとは」


「何じゃいお主は?」


 しばらく戦闘員を倒していると、セーラー服を着たインテリ系男が現れた。


「パステルクラッシャー所属、ガクセイスキーですよ。フッ」


 メガネをきらりと光らせ、ニヒルな笑みを浮かべる男。

 女学生用のセーラー服を着て髪を三つ編みにしていなければ様になったのに、毛だらけの足が何とも言えない存在だった。


「世も末じゃなぁ……長生きはするもんじゃないわい。見たくないモノを見せられる」


 呻くように告げるアラビアン・ハラショー。

 恐れを成したとでも勘違いしたのかガクセイスキーはふふっと挑発的に微笑んだ。


「老人には悪いが貴様を倒し、ガクセイスキーここにありと証明しよう。そして女子高生たちに好かれるのです」


「寝言は寝てから言うがいい。若い身空で可哀想にのぅ」


 心底嘆きながら杖をついて前進を始めるアラビアン・ハラショー。

 対するガクセイスキーが走り寄り、得意の攻撃を繰り出そうとしたその刹那、アラビアン・ハラショーがぶれるように二人に分かれた。

 ふらつく足取りで、同じ歩幅で、二人に分かれて幾アラビアン・ハラショー。

 それだけじゃない。

 別れたアラビアン・ハラショーはさらに二体ずつに分かれていく


 え? っと驚く彼のもとへ杖を突きながら徐々に近づく無数のアラビアン・ハラショー。

 人間であるために半ば人間を止めてしまった彼は、不思議な歩法を使うことで相手に別の自分が歩く姿を幻想させる術を手に入れていた。


 もちろん、赤外線感知などで周囲を識別している怪人には効果はないが、人の目を持つ相手であれば、例え怪人であれども有効な歩法である。

 そして気が付けば……


「儂が現役じゃった時代では考えられん怪人じゃ。時代とは、かくも空しきものか」


 背後から、声が聞こえた。

 驚くガクセイスキーが振り向くより先に、無数の衝撃が彼を穿つ。

 再びアラビアン・ハラショーの姿を見た時には、彼の死が確定していた時だった。

 薄れゆく意識の中でガクセイスキーの視界に映ったのはしわくちゃの老人だけだった。


「成仏しろよ若いの。せめて、来世では正常な生を送るが良い」


 混濁として霧散していく意識の中で彼が最後に聞いたのは……


「ところで、儂の昼飯はまだかいの?」


 ボケた老人の戯言だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ