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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
改造人間 → 勇者
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初めての指令

 肘を突きながらぼぉっと黒板を見ていた少年のズボンが突然震えた。

 うつらうつらと眠りに入ろうとしていたところだったため、思い切り驚き、「うおっ」と大声で叫んで立ち上がり、クラス中から失笑を買うことになった。


 先生に注意され、遠慮がちな笑みと共に謝罪を吐きながら座ると、即座にズボンのポケットに手を突っ込み、携帯電話を取り出した。

 机に隠して携帯電話を見る。


 黒塗りのコンパクトな折りたたみ式携帯電話で、画面が横にも縦にも変化できるものだった。とはいえ彼の私物ではない。

 インセクトワールド社専用の携帯電話だ。


 自分用のはカバンの中に放り込んである。

 昨日あたりから電気が切れて通話不能状態だ。

 とにかく、専用携帯電話からお呼びが掛かった。

 つまり仕事だ。それも彼にとっては初の任務となる。

 メールの件名には【指令】とだけ書かれていた。


 少年の名は森本王利。

 父からは王のような偉大な人物になって欲しい、母からはどうせ王になるなら利発な人物になって欲しい。

 という思いを込めて名前を与えられた。


 父は厳格で、母は学歴社会に見合った勉強ママというやつだった。

 いい高校、いい大学に入る為に沢山勉強して受験のあるいい中学校に入れ、塾に通え、家庭教師もつけよう。そういう性格だった。


 小学校までは確かに、王利も従っていたし、それでいいと思っていた。

 でも……中学受験に失敗した時、彼の周りは一気に変化した。

 母は父から去り、新たな子を作るため愛人の元に走っていった。


 それから父は丸くなったように優しくなった。

 もう気負う必要はないから好きなように生きなさいと、まるで捨て去るように言い放った。


 幼かった王利には、子を思い言ったであろう父の言葉があまりにも重く圧し掛かる。

 性格はねじれ、正義、規律、正しいことを行うということが嫌になった。自分の存在意味が見つからない。周囲の人間の言う言葉に共感を持てなくなる。


 荒れることはなかったが、中学時代は路地裏や夜の街など危険な場所に積極的に向かうようになった。

 そこで……見つけてしまった。


 高校に上がる最後の春休みのことだった。

 秘密結社、インセクトワールド。

 路地裏の奥まった一角にあるマンホールから行くことができる、その場所を見つけたのは本当に偶然だった。


 目の前を通る黒づくめの奴が気になり、怖いながらも後を付けた。

 マンホールを開けた時点で……後頭部に衝撃が来て意識を失った。

 気がつくと、ビルの一室で謎の医者軍団に囲まれていた。


 彼らは言った。


「入り口を知られたからには君には二つの道しか残されていない。改造手術を受け我らが忠実な僕となるか、それとも死か」


 後者を受け入れる気も考える時間もいらなかった。

 生きることなどどうでも良くなっていた王利は迷わず言っていた。


「改造手術、受けます! よろこんでっ」


 この後より彼の人生は大きく軌道修正された。

 改造手術などというものを受けてしまった以上警察に訴えたところで自分も見世物にされるだけ。


 口封じと同時に手ゴマを手に入れるという戦法を取っていたインセクトワールドの忠実な怪人として、また香湖高校一年生として生きるという二重生活が始まった。


 彼にとってもどうでもいい生を生きるよりは刺激的な人生だ。

 むしろ両手を挙げて喜んで秘密結社に忠誠を誓った。

 そんな思考だったので首領に痛く気に入られ、洗脳はされず、指令一つ受けることも無く、かなり上位の幹部にまで昇進できた。


 未だ任務を受けていないのに戦闘員50人の指揮を取れるのである。

 手術を受けてからインセクトワールドの成立目的ややるべき仕事の説明を受けた時から覚悟はしていたつもりだったが、いざ指令がくると、さすがに腕が震えた。


 手術後に簡単な戦闘訓練や銃器の扱いを教えられたりもしたが、実践で役に立つとも思えない。

 自分の体は銃撃など跳ね返す硬度を持っている。

 それをプラスしても生きて帰れるかが疑問だった。なぜなら……

 相手も人ではないのだから。


 この地域で確認されている相手の名は昆虫戦隊バグソルジャー。

 インセクトワールドや別の組織からでた反逆者で構成された正義のヒーロー、もとい怪人部隊だ。


 五人組の彼らは、生存者の話ではインセクトワールドより抜け出したバグカブト。


 コリントノヴァという表で証券会社を隠れ蓑を持つ秘密結社より抜け出したバグパピヨン。


 アルガースという某国機関から日本にやってきたという噂のバグシャークとバグリベルレ。


 そして情報不足で名前しかわからないバグアント。


 世界にいるとされるヒーローの中でも王利の住む安芸津市周辺によく出没する正義の味方だった。

 とても恐ろしいと説明を受けていたから当て馬にでもされるのかと携帯に届いたメールの先を読む。


(遺跡探索?)


 メールに書かれていた内容は、戦闘員50人を連れて遺跡探索に向かって欲しいというものだった。

 場所は描かれた合流ポイントから戦闘員についていけばいいそうだ。


 やるべき事は遺跡で見つかった物質を引き取り本部に届ける仕事と、遺跡内部調査の進み具合を聞いてくること。

 発掘品があれば本部へ持ち帰る事。

 予想していたものよりいくらかマシな仕事だった。


 すぐにヒーローに殺されるなどといったことも、恐ろしくなって逃げだして体内の爆弾を破裂させられる可能性もなさそうだ。


 少し安心した。

 王利が息を吐いた瞬間、


「それじゃ、森本君と霧島さんに決定でーす」


 壇上にいた女生徒に名前を呼ばれて驚いた。

 顔を上げると、黒板にはいくつかの名前と自分の名前があり、その下には正の字がいくつも書かれていた。

 少し右に視線を向けると、イベント企画委員なる文字が書かれている。


「イベント……企画委員?」


「ではさっきも言いましたけど、これ以後のイベント、修学旅行や体育祭は全てこの二人に企画リーダーを頼みたいと思います。じゃあ次に保健委員を……」


 いつの間にか何かのやり取りがあったらしい。そのせいで王利はイベント企画委員にされていた。


 この役員決め、四月半ばに行うのは先生が面倒くさがっていたかららしい。生徒会から各役員の出席を急かされて仕方なく決めていた。

 役員決めが終わると、クラス委員長たちは席についてしまい、教壇横のパイプイスに座っていた先生が立ち上がる。


「それではさっそくだがイベント企画委員の二人は放課後残ってくれ。春の

遠足について企画してもらう。企画書はここに置いとくからな」


 手短に答えて言葉を切ると、タイミングよくチャイムが鳴って授業の終わりを告げた。


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