動き出す悪2
「どしたネ?」
「失敗面がさらに酷いことなってんじゃん?」
「亜衣ちゃんさすがに言いすぎ。でも、なんとなくわかる気はするな。私もなんか今日は憂鬱かも」
「笹垣は鍛錬が足らないだけではないのか? こうやって休憩中も筋トレしておけばそんな不安など吹き飛ぶだろう?」
「後閑住君はやりすぎだと思う」
「でも確かに今日はちょっと嫌な感じだよね。僕もなんとなくな不安感があるよ」
雅巳と薺も同じように不安に感じているようだ。
王利はやっぱり今日は何かあるなと憂鬱な気分になる。
そして、それは現実の物となる。
教室で正義の味方史を教わっている時だった。
突如けたたましいサイレンが鳴り響く。
始めての事に驚く面々。
「学園敷地内に秘密結社多数が侵入、戦闘を行える生徒、先生は迎撃に向え! 繰り返す、戦闘を行える生徒、先生は迎撃に向ってくれ。これは訓練ではない! 訓練じゃないんだよっ!!」
校内放送が始まる。
先生の切羽詰まった声が臨場感を醸しだし、これが訓練ではないことを告げている。
王利はその声を聞きながら、首領であるラナに視線を向けた。
「ご安心を。奴らの狙いはたった一人の正義の味方見習い。冷静に対処すれば皆生還できますよ」
「知ってたんですか?」
「それは首領だもの。事前情報は把握済みです」
そう告げるラナは少し悪戯が成功した様な笑みを浮かべて王利に微笑みかけた。
「なら、具体的にどうすれば?」
「自分に向って来る敵の迎撃。それ以外は不要です」
「不要? なんでまた?」
先生に引率されて教室を出る。
王利はラナの隣を歩きながら会話を続ける。
廊下をぞろぞろと歩いていると、窓の方では先輩正義の味方候補が戦闘員と闘っているのが見えた。
その戦闘員は多種多様。
ノーネイムやらコリントノヴァ、他にも数種類の戦闘員が攻め寄せている。
怪人はまだ居ないらしい。いや、他の場所には既にいるのかもしれないが、窓から見える校庭にはその気配がない。
そんな窓の外の光景に視線をやっていると、ラナが言葉を返してきた。
「敵が目標としているモノを手に入れたところで私たちには問題がないからです」
「えっと、目標って、何をするつもりなんです?」
「相手が欲しているのは、声を遮断する正義の味方」
ああ、あいつか。と王利は不意に思い出す。
エアリアルも思い出したのか、なるほど。と呟いていた。
「確かに言霊が無くなる可能性は否定できません。でも私もクルナちゃんもそれだけの存在じゃないです。私の中には首領さんも居ますしね。それに、エアリアルさんがいるというのが強みです。まだ表に出ていない彼女の存在はラナリアの切り札なんですよ。それに、王利さんは異世界に転移出来る。最悪私とクルナちゃんを連れて異世界に逃げてもらえば問題無しです。期待してますよ」
にこりと笑みを浮かべるラナ。
随分と悪どい笑みになったものだ。
王利は感心半分、嘆き半分でその顔を見つめるのだった。
下足場に辿りつくと下足に履き替える。
悠長なことだとどこかから声が漏れていたが、王利も同意だったので何も言わないでおく。
ヒストブルグもあまり緊急事態だとは思ってないのかもしれない。
外へと辿りつくと、そこには無数の戦闘員。赤青黄色に黒緑。色彩豊かに独特の声を響かせる戦闘員たちは奇妙というかキショイというか。
王利は思わず呻いていた。
「アイヤー。気持ち悪いアル」
「同感」
「えっと、アレがノーネイムの戦闘員であっちがロイド帝国で、あれ? シクタやアンデスローズの戦闘員はいないみたいだね」
「ええ。シクタは既に壊滅。アンデスローズはこの件に関与してないわよ。フォルクスもね」
雅巳の声にラナが答えを返す。
「遅れるな! 先輩に続け!」
「海翔、一人で突っ走るなっ、ほら、皆も急いだ急いだ!」
前期組の面々も既に走り出し戦場へと向っている。
少し遅れたが後期入学組である王利たちも戦場へと出向く。
海翔が一番に先輩ヒーローたちに合流し、戦闘員を相手に剣で切り結ぶ。
ここなは魔法で攻撃らしい。
少し遅れて忍者の様な格好の要が切り込み、カルヴァがバラの花をダーツのように華麗に飛ばして敵を仕留めていた。
魔法部隊の方には女装した肥満体形のおっさん……じゃない、マサシさんだ!
マサシははち切れんばかりの身体に魔法少女服を着込み、華麗に踊る様に杖を敵へと突きつける
すると戦闘員が空中へと浮き上がり、再び杖を振るうと戦闘員が急速で落下。
近くに居た戦闘員たちを巻き込み激突。
「私達も行きましょ。戦闘員だけなら十分勝てるわ」
「まぁ、戦闘員だけなら……な」
そんな訳がないだろう。そう思いながら王利はその言葉を告げるのだった。




