そして首領が増えていく
「ふむ。素晴らしい」
エルフの魔法により肉体的には回復したトリルトトスの死骸が目の前にあった。
その横には彼の遺骸が氷漬けになっている。
使われてるのは氷獣フィルメリオンの身体だった氷らしい。
ちなみにフィルメリオンの身体は氷室内の室温を下げるのに使われているようだ。
バラバラの氷だが、部屋のいたるところにその残骸が転がっている。
彼は回復魔法を使っても復活出来なかったらしい。
肉体的にはただの氷の塊なので司令塔である魔法生物のフィルメリオンが死ねばただの氷塊になり回復で身体をくっつけることはできないらしい。
仕方が無いので彼は四天王としては完全に死亡扱いとせざるをえなかったようだ。
「では、トリルトトスの氷を消して貰おうか」
「すごい鳥だなこれ……」
マサシが思わず呟きを洩らす。
こくこくと頷くルクティエと要。
カルヴァは何かしら感動しているらしく無言のままトリルトトスの亡骸を見上げている。
氷が解けていく。
すると首領がトリルトトスに向って飛び上がる。
「『空気よ固まれ、トリルトトスへの足場となり我が道を作れ』」
階段を登るように向う首領。トリルトトスの口元に向うと、なにかを投げ入れた。
その行為が済むと、直ぐに踵を返して戻ってくる。
数十秒後、トリルトトスの目が芋虫のように膨れ上がった。
「う、うわぁ……」
今まで感慨深く魅入っていた要が思わず青い顔で呟く。
王利も何度見てもあの姿は慣れないと思いつつ、首領を見れば、既にもう一体の氷漬けを解いてもらい、その口へと何かを投げ入れているところだった。
「レウコクロリディウムのレウコ、クロリ、ディウムで全部使ってしまったな。W・Bこいつら用のいい名はないか?」
「え? えーっと……」
「区切り方替えてレウとコクロでいいんじゃない?」
ルクティエの言葉にそれだ! と珍しく同意する首領。本当に名前で悩んでいたらしい。
しかも首領だけでなくトリルトトスとバグシャークの姿をした首領までが同意したので見事なハーモニーが奏でられた。
「しかし、凄いモノを見てしまったよ。これがインセクトワールド首領の能力なんだね。まるでゾンビ映画でも見ているようだよ」
引き攣った顔で告げるのはカルヴァ。王利も思わず頷きそうになったが後が怖いので頷くのは止めておいた。
だが、確かにこれは軽くホラーだ。倒した敵を仲間にしていくのではなく首領の分体が寄生して増えていくのだ。
こいつら、一人一人意思があるんだぜ? 凄いだろ。
王利は誰にともなく呟きたくなるのを必死にこらえるのだった。
「さて、これでこちらの用事は……」
「お待ちくださいクロリ様。もう一人、おります」
「ほぅ?」
エルフの一人が首領の目の前で傅き、少し離れた場所にある扉に視線を向ける。
厳重に封印された扉の封印を解いて行くエルフ達。
王利たちがそこへと辿りつくと、重々しい音を立てて扉が開いて行く。
中にあったのは……
「なんだこれは!?」
「も、森本君、この筋肉質なバケモノって……」
「ああ……魔王だ」
王利が真っ二つにしたはずの魔王の遺体が氷漬けにされていた。
それを見た王利は生唾で喉を鳴らし、逆に首領はきょとんとした顔をしてしばらくそれに魅入っていた。
「クク、フフフ、ハーッハッハッハッハッハッハ! これは驚いた。やるではないかエルフ!」
「もしかすればと思いこちらの遺体も捜索し、保存してきました。回復魔法で肉体は繋げておいたので普通に使う事は出来るかと思われますクロリ様」
「良い、実に良いぞ。これはまさにサプライズ! 地球における侵略者としても使える。うむ。実に良い。良いぞ。良い良い。ふふ、ははははははっ」
首領にとっても予想外なプレゼントだったらしい。いつもとは全く違う首領がそこにいた。
嬉しそうに顔をほころばせながら良いという言葉を壊れたように連呼している。
本当に欲しいモノが棚ボタ式に貰えると、首領はここまで喜ぶようだ。
王利としても珍しい首領が見れたなぁ、と少し嬉しくなった。
貰えるモノがなんともアレな感じだが、少なくともエルフたちは首領に好印象を与えることができたらしい。
「惜しむらくは分体がないことか。もう一匹持ってくるべきだったな。仕方ない。こいつはレウコ用に持っていってやろう。ふふ、ふふふふふ……解凍次第直ぐに戻るぞW・B」
「あ、はい」
「あれ? 私達って何しに来たんだっけ……」
ただちょっと異世界を歩いただけ、一部おっさんがナンパしていたが、それぐらいしかせずに元の世界へと戻ることになったルクティエたちは、少し涙目になっていたのは内緒である。
そして、首領たちが現代世界へと舞い戻って来た。新たな三体の戦力を引き連れて。




