学園授業風景
李蘭爛こと椎堂聡子は日本人である。
たまたま格闘家好きのオタクが兄に居たために洗脳まがいの行動を起こされ、格闘好き娘になってしまったが、兄は突如蒸発したため完全な格闘娘になることはなかった。
それでも、闘うのは、身体を動かすのは好きなのだ。
自己研鑽を積み、漫画から知識を得、専門書で武術を学んだ。
とくに漫画の技術を再現するのは萌えた。
蘭爛がヒストブルグにやってきたのも、強い奴に会いに行く。それのみである。
悪の組織と闘う正義の味方になるつもりはないが、悪と闘い悪を挫く、その闘いにおいては相手と対等に闘え、自分の武術を試す事が出来る。
血と汗が乱れ飛び、互いの肉がぶつかり合う。
相手を壊し、自分だけが立ち残り、生を実感する事が出来る。
その嬉しさが、何よりも得難い充実感となる。
だからこそ、李蘭爛は闘うのが好きなのだ。
そして今、彼女はヒストブルグ学園で授業を受けていた。
彼女の一番好きな授業、そう、格闘技術の技能である。
正義の味方には必須の授業であり、変身した姿での複数を相手にする闘いから、生身で怪人を圧倒するための格闘技術。
対戦相手は噂の怪人、W・B。
残念なのは生身同士ということだろう。
生身の状態では彼はちょっと筋力が強いだけの人でしかないのだ。
素人相手に格闘経験者である自分が負けるなどあり得ないのだが、むしろ直ぐに終わってしまっても面白くない。せめてこの怪人を相手取り敵となる怪人との模擬戦としたいところなのだ。
だが、現状はそれは無理に近い。蘭爛が求める強さは彼にはないのだ。
「これは、自ら作りだす必要、ありそうネ」
そう、彼がド素人だというのなら、自分が教え導き、自分並みの強さにすればいい。
今は、まず彼の実力を探ろう。
そして問題点を見付け、自分の技術を教え込む。
そうすれば対等の闘いが出来る怪人が出来上がる。
そいつを、倒す。
蘭爛は思わず舌舐めずりをする。
拳を握り、腰を溜め、静かに闘気を迸らせた。
相手の冴えない男が冷や汗混じりの青い顔をしているが知ったことではない。
「森本王利、私か調教してやるネ、しっかり武術叩き込んでやるアル!」
「ちょ、俺そんなの求めてないんですけど!?」
「問答無用、まずは踏み込みと拳打を見て覚えるヨ!」
教師の始め。という合図と共に一足飛びに距離を詰める蘭爛。
王利の目の前で思い切り足を地面に落とし、体重を掛ける。
体重を乗せた一撃で拳を放つ。
当然、ド素人の王利が避けられるはずもない。
無様に鼻面に一撃喰らい、仰け反る。
それを蘭爛は見逃さない。
「なってないアル! やはり修練が必要アルネ」
「格闘向きじゃないからな俺は」
「だから、直々に調教してやる言ってるネ。喜ぶヨロシ」
王利の言葉は一切聞かず、蘭爛は王利の腕を取り、背後に回すと腕を固める。
完全に決まった関節技に王利が悲鳴をあげるが、蘭爛はさらに逆の腕を固めてギブアップまで王利に激痛を与え続けた。
「ひ、酷過ぎる」
模擬戦が終わると、痛みを発する腕をぷらぷらと振るって不平を言う王利。
しかし蘭爛はそんな王利にどう成長させようかと楽しみにしている笑みを浮かべた。
その顔は王利にとっては悪魔の微笑みだったようで、ひえぇっと怯えていたが、続く模擬戦で、今度は変身しての対戦になると、勝者は完全に入れ替わった。
変身したW・Bの装甲が固すぎ、関節を決めようにも蘭爛の力では曲げられず、てこの原理を応用してもビクともしないのである。
ウォーターベアの関節が強固というわけではない。
王利が改造された怪人が強固過ぎるだけである。
おそらく彼を作った科学者たちは、更なる悪乗りをしたのだろう。
もはや正義の味方であろうとも、W・Bのクチクラ装甲を傷付けられるか不明。
それ程の強度を開発していたのだ。
関節の弱いはずの部分も、固すぎて本当に弱いのかどうかすらわからなくなる。
打撃もほぼ効かない。
唯一効きそうな特技は浸透勁だろうか?
蘭爛としてもそれを放てばダメージを与えられるかもしれないが、模擬戦で相手を殺すような技を使う気はなかった。
だが、ソレを使わなければ攻略法など皆無でしかないわけで、王利の装甲に手も足も出ない蘭爛の方がダメージを受けまくりギブアップ。
なんとか一勝一敗。
蘭爛との対戦になるということで少し緊張したが、王利の怪人形態ならば充分対応できるようだ。
固すぎると関節すらも曲げられないという一つの事実を知り、蘭爛も自分はまだまだなのだと気付かされた。
それにしても、と蘭爛は思う。王利は変身する前と後では強さが余りにも違いすぎる。
確かに攻撃力は大してない王利だが、それを補って余りある変身姿だった。




