蜘蛛娘は眠らない2
午前九時、武藤風音は教室に居た。
本日もラナリア勢で固まる四人は阻害されたように授業を受けている。
休憩が終わるたびに森本王利だけは無駄な努力で友人を作ろうと必死だが、空回り気味のようだ。
正義の味方と仲間になるにはちょっとしたコツがいるのだよ。
ふふんと風音は心の中で優位に立った気分で席を立つ。
時刻は昼休憩だ。
学食に向う彼女は今日は誰と食べようかなと思案する。
学食に着いた時、彼女の視界に映ったのは、一人の女性だった。
メイド服に身を包んだ清楚なお嬢様といった様子の彼女は、優雅なティータイムでもするかのようにほぅと息を吐きながら紅茶をすすっている。
喧騒渦巻く学食の一角にある丸テーブルの椅子の一つなのだが、どうにもそこだけバラかユリでも咲き乱れているかのようだ。
ソレを確認した風音は本日のおススメ定食を買って彼女の元へと向う。
雰囲気が雰囲気なせいか周囲には人が近寄っていないのだが、風音は無遠慮に彼女の隣へと座った。
「おひさっ」と告げると、あら? とティーカップを置いたメイドが風音を見る。
一瞬冷めた視線の険しい顔だった彼女は、風音を認識した途端ほわっと警戒を解いた。
「お久しぶりですね風音さん。また無断侵入ですか?」
「違う違う。少し前から入学したのだよチリカさん」
あら? とチリカは大げさに驚いて見せる。
「ライドレンジャーさんの勧めもあったからね」
「成る程、何時かは来るんじゃないかと思っておりましたが、そうですか。ついに正義の味方への道を歩み出したのですね。感心です」
「あーいや~、むしろラナリアに所属しなおしちゃいまして」
「むぅ。いけません風音さん。正義の味方への憧れがあるのなら悪との付き合いは断っておくべきです」
「でもねぇ、そうすると私に皆さん群がって来てくれないじゃないですかぁ」
「その考えは捨てるべきです。ほら、正義仲間でアドレス交換すれば密に連絡取れますよ。知り合いの知り合い紹介でまだ見ぬ正義の味方とも連絡できます!」
「うーん。でもラナリアの情報網使った方が早いんだよね。今朝もほら、タイガーファイブのサイン貰って来たのだよえっへん」
「うそっ!? こんな正義の味方いつの間に出来たの!? あ、いやいや、知ってましたわ。私たち正義の味方同士の連絡網ですでに掴んでおりますよ」
「いや、今素で驚いたよね……」
ジト目で見ると視線を逸らすチリカ。
「そ、それより、放課後はどうなさるので? 私はメイド修行があるので遊びに出かけることはできませんが、やはり正義の味方に会いに行かれるとか?」
「えへへ。心配してくれますか? 大丈夫です。ボッチじゃないですからね。放課後はライドブルーさんのバイクに乗せてもらいます。それで千葉で活動中の正義の味方に会わせてくれるらしいんです。写真撮って来ますよ!」
「写真っていうと、あの図鑑に貼るのね?」
「ええ。正義の味方図鑑風音監修版は既に50冊目に到達しました。惜しむらくは数日留守にしていたせいで知り合える正義の味方をみすみす逃したことですかね」
その後、昼休憩終了までチリカとお茶会を楽しんだ風音は、放課後、自分で言っていたようにライドブルーのバイクに二尻して千葉へと向った。
正義の味方が交通規範無視していいのかという倫理観を損なう場面も多々あったが、ライドブルーはそういうことに頓着しない我を行くタイプなので風音は感謝こそすれ非難する気などなかった。
ネズミな遊園地の入り口で、ライドブルーと待っていると、そのカップルは遊園地を堪能した様子で出口側から現れた。
千葉を中心に活躍中のヒーローの一人、エルムライトランタンとエルムライトフロストのバカップルである。
変身ヒーローなのだが、見た目はジャック・オ・ランタンの顔を持つ怪人みたいな出で立ちであり、フロストの方はソレを白色にした色違いキャラクターといった二人なのだ。
フロストの方が女性なので丸みを帯びた可愛らしい姿ではあるが、炎と氷という属性に似合わず仲睦まじくしている。
正直風音ですら砂糖を吐きだしそうなイチャつきようなのである。これらに倒される怪人を思うとリア充爆死しろと唱えざるを得ない。
そんな二人は、今もキスを繰り返しながら互いに愛を囁き合っている。
ペアルックのハートマークが物凄く痛々しい。
彼らにサインを貰い、握手をして、写真を一緒に撮る。
ここまでやれて初めて風音は満足した顔を浮かべるのだった。
彼らとの邂逅が終われば、東京へと引き返し、寮に戻ると同時にパソコンを起動。
ネットを精査して次に来そうな正義の味方などを次々調べて行く。
特に気になる正義の味方には印を付けて、あとで直接向ってみる気満々だった。




