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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
怪人 → 学園
284/314

蜘蛛娘は眠らない1

 武藤風音の朝は早い。

 朝2時、同じラナリア所属という理由から部屋割が一新され、同室となったラナとクルナを起こさないように起き出し、あくびを噛み殺しながらノートパソコンの電源を入れる。

 電源プラグを差し込み充電開始。


 枕を横に避け、枕のあった場所に耐熱ボードを設置するとそこにパソコンを鎮座。

 無線RANによりネット通信を開始する。

 キーボードをカタタタタ。と動かせば、画面上に乱立する幾つものウインドウ。

 四つが正義の味方のブログ。三つが正義の味方機関の公式ホームページ。残り二つは本日のニュー速と自身のブログコーナーである。


 合計九つの窓枠が高速で展開されては消え、更新されては新たにポップアップして来る。

 時折風音から妖しげな笑みが漏れる。

 やはり、いくら音を押さえていても、キーボードを叩く音は耳触りだったらしい。

 クルナがムクリと起き上がり、目を擦りながらベットから這いだす。


「お母さんおしっこいってくる」


 誰にともなく呟き動き出すクルナ。

 ソレを横目で流し見ながら風音はさらに手を動かす。クルナが戻って寝入ってしばらく、彼女はようやく満足したのかパソコンの電源を切るとパタンと閉じた。


 後始末を終えてベットから這いだすと、洗面所へとやって来る。

 顔を洗い歯を磨き。ペッと口を濯いで洗面所を後にする。

 暗がりの中、服を着かえて準備完了。


 手にしていたリュックサックを背負い、そぉっと部屋を後にした。

 音が鳴らないように閉め、非常灯しか付いていない廊下を歩いて女子寮を出て行く。

 本来この時間に出て行く生徒がいないからだろう。

 鍵が閉まっていたが風音は気にせず鍵を回して中から開けると、何事も無かった様に外に出る。

 彼女の指には一本の白い糸。

 ソレをきゅっと引っ張ったその刹那、ドアは勝手に閉まり、鍵がかけられた。


「大阪か……時間はぎりぎりね」


 東京、大阪間を1時間弱で行き来するリニアモーターに乗り込む。

 始発が5時ちょっとというこの乗り物には初めて乗る。

 数年前にようやく完成した乗り物だ。磁力で浮いて移動するのだという。


 そして6時過ぎ、彼女は道頓堀に姿を露わした。

 そこでは今、まさに怪人と正義の味方が闘っている所だった。

 ただし、既に佳境に突入している。


 この戦いの可能性を察知して、彼女はここまでやって来たのだ。

 この日結成された新たな正義の味方タイガーファイブ。

 大阪生まれのコテコテ関西人。タイガースファンの五人組。

 縞模様のスーツが特徴的なタイガーレッドを始め、ブルー、イエロー、ホワイト、グリーンという珍しい取り合わせである。


 おもな武器はメガホンガンにハリセンソード。ツッコミやボケも間に入れて、トドメは食い倒れ人形砲による五人の一撃必殺。

 さらに、巨大ロボット・オメデタイガーまで持っている正義の味方なのである。


 彼らの初戦闘をテレビ局が撮影している。

 その一角に、風音の姿があった。

 集まった五人が、敵を圧倒して倒す。

 すると巨大化する怪人。

 オメデタイガーが召喚され、彼らが乗り込み闘いが始まる。


「いつ見ても、新たな戦士の産声は素敵です」


 鼻血でも噴き出しそうな笑顔で見上げる風音。

 心のメモ帳に記載しながら、サイン色紙を五枚取り出す。

 サインペンは常備済みだ。

 右手に五つの色紙、左手に五つのサインペンを構え、前面で腕をクロス。

 さぁ、準備は万端ですよ! とばかりに空を見上げた。


 間もなく決着が付くのだろう。

 剣を構えたロボが左から右へと剣を振る。その一撃で巨大化した怪人から火花が散った。

 そしてトドメの必殺技。

 風音は慌ててサインペンと色紙をしまってカメラを構える。


 オメデタイガーの必殺……はなんと相手を剣で斬ることなく真上に持ち上げての放り投げ。

 まるで優勝した野球チームのために川に人形を放り込む様な鮮やかな一撃だった。

 そして、周囲のビルを巻き込み怪人は爆散。


 周囲ではラナリアの怪人たちが避難民誘導やら事後処理を始め出す。

 崩れるビルに怪人の一撃が飛んで破砕。ビルの真下に押し潰されそうだったご家族を救いだしたりしていた。


 敵怪人が倒れたのを見届け、オメデタイガーが帰還して行く。

 ロボから降りたタイガーファイブに突撃する風音。

 声援やら罵声が飛び交う野次馬から飛び出すと、五人のヒーローに向けてサインペンと色紙を差し出した。


「ぜひ、ぜひともサイン下さい!」


「「「「「え?」」」」」


 いや、今それ言う? みたいな感じで驚いていたタイガーファイブ。しかし、野次馬の多いここでファンらしい少女を無碍には出来ない。

 困った顔をしながらサインを行い、風音を中心にして写真を一枚。

 そして全員と握手を交わした風音は、ホクホク顔で道頓堀を後にするのだった。

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