ヒストブルグ学園後期組4
「藍染亜衣子。最近よく見る変身系ヒロインですね。しかも今時珍しい一匹オオカミ系」
雅巳がデータベースにアクセスして亜衣子のデータを表示する。
王利と薺が覗き込むのを見て亜衣子もようやく気付いた、が、遅かった。
既に彼女の身長体重スリーサイズは二人に知れ渡った後だ。
「あ、ちょっ、何見てんだお前らっ」
慌てて雅巳のデータを自分の身体で隠す亜衣子、周囲のクラスメイトに見られることはなかったが、既に彼女のデータは王利が見終わった後である。
デコメ携帯を使って変身を行うギャル系ヒロイン。
その容姿は決してヒロインとして人気が出る方ではなさそうではある。
赤色セーラー服っぽい服装で、必殺技が付け爪の弾丸やらつけまつげのブーメラン、エクステソードなどなどよくわからない武器も使うらしい。
正直これでよく闘えるなと王利は感心してしまう。
「データベースアルか、私の情報もはいてるか?」
「お、丁度良いや、俺も自分の見てみてぇ」
「李 蘭爛さんですね。そっちは後閑住 空也君。ありますよデータ。見せますから、藍染さんちょっとそこどいてください」
「はぁっ!?」
せっかくデータを自分の身体で隠した亜衣子だったが、邪魔だというように蘭爛に押し出される。
「おお、出たアル出たアル。あいやー。私の胸またおきくなたか」
「へぇ。同時表示もできんのか。見ろよ怪人。俺変身ヒーローなんだぜ! 強そうだろ」
へへっと笑う筋肉質の男。
彼の変身ヒーローはパンツ一丁のボディビル系。
顔は一般人に認識できなくなるらしい。空も飛べるらしい。
フライングヒューマノイドだ。こんなのが笑顔で歯を光らせながら飛んで来ると思うと嫌な気分になる王利だった。
正直これでヒーローなのだから相対したくないとしか思えない。
目の前にぴくつく大胸筋とか、願い下げだ。
できるなら正義の味方になる前に消えてほしいなと思ってしまう王利だった。
ちなみに蘭爛は格闘系少女。兄が神隠しに遭ったらしいことと、その兄の影響で片言の日本語を話すようになったくらいだ。
ただ、バリバリの日本人なせいか口調が片言にすらなっていない。
どうやら兄による口調矯正が完全になる前に兄が蒸発してしまったようだ。
そんな兄のせいで幼い頃から武術を習い始め、肉体だけで正義の味方を志すようになったそうだ。
正義の味方になるのも、兄の影響らしい。
ついでにアニメオタクにもされたようだ。
「格闘の入った美少女ヒーローが闘うアニメ好きアルよ。じゃなかた、格闘の入たび、ひしょうじょ……しょうしょ……んー、やっぱだくてんや小さいつ抜かすの難しいアルね」
「多分、その口調にするのは向いてないと思うぞ」
「ても女ならこの言葉づかいしろ言われたネ。兄はばりっばりのリーファンだたアル。アニメも大好きだけど。中華被れの頭イカれた人だたアルよ。おしい人無くしたネ。ナムナム」
全然惜しんで居ないようすで呟く蘭爛。ちなみに本名は椎堂聡子とか言うらしい。
兄のせいでお団子頭とチャイナ服を着用し、両腕両足には棘付きリストバンドを常時着用義務があるらしい。
ちなみに、今は学校なのでチャイナ服ではなく学校指定のセーラー服である。
「つーこたぁ何か、お前さんは変身ヒーローでもなけりゃ魔法少女でもない?」
「生身の人間ネ! 私が目指すのはアラビアンハラショーさんアル」
そういえば、あの老人は生身で闘ったヒーローだったな。と王利はふと思い出す。
今の老人の容姿ではどう見ても怪人と戦える感じではないが、ヒーロー引退を宣言する70歳ごろまでは普通に怪人とも闘っていたらしいツワモノだ。人間でもここまでできるという実績を残したスーパーマンであろう。
というか、むしろ引退宣言してからもたしか気に食わんとかいう理由で組織一つ潰してたな。
あの肉体からは想像がつかない機敏さで秘密結社のメンバーを翻弄し、いつの間にか辿りついた首領に背後から奇襲して倒したとか、聞いたことがある。結局引退宣言しながらも今でも現役で活躍するお爺さんなのである。
王利はインセクトワールドの先輩方からちょっとだけ聞いた裏話的なモノを思い出してうんうんと頷く。
「あ、そう言えば。アラビアンハラショーさん今この学校居る噂ネ。サイン貰って来たいよ」
「ああ、それだったら多分学園長室に居ると思うよ」
「そうアルか? ならいてくるよ!」
いや待て、いきなり行くな。王利が思わず止めようとしたが、その手は虚空を掴むしか出来なかった。
以外に素早い。
既に彼女の姿は遥か遠くに消え去った後だったのだ。
「とりあえず、情報は大切だからね。皆も出来るだけ集めといた方が良いよ」
纏めるように雅巳が告げる。
いや、解ってるけどさ。
王利はそう思ったモノの、情報を得る方法の一つが彼に尋ねることなので、頷くだけ頷いてご機嫌とりをしておく。
海賀雅巳、情報を握る恐ろしい男か。
ラナリアの参謀辺りに欲しいなぁ。と、ラナが呟いていたけど王利は気付かないことにしておいた。




