ヒストブルグ学園後期組2
その男は所在無げに椅子に座っていた。
村八分にされている男子学生とも思える少年。
メガネをかけた、中性的な顔立ちの学生である。
どうも人付き合いが苦手らしく、どこかの輪に加わりたそうにしながらも誰にも話しかけられずにいる様子。
王利は未だに妄想というか演説を続ける風音から距離を取る様にしてそいつの元へ向った。
王利に気付いた少年は怯えたようにゴクリと喉をならす。
「えっと、初めまして森本です」
「は、はい。海賀 雅巳です。こんにちは」
「さっきからキョロキョロしてるけど、どうした?」
「え? あ、そ、それはその……えっと、情報収集を」
情報収集? 王利は小首を傾げる。
すると、彼はちょっと嬉しげに左手を見せて来る。
そこには王利がしているように腕時計型の機械があった。
右手でその端末を操作すると、端末の前に半透明の緑色をした四角い枠が表示された。
内部には目の前に座る女生徒の立ち姿が表示され、彼女の名前、身長体重、スリーサイズ、さらには最近ダイエットに失敗して1キロ太ったという近況情報まで。
どうやらこの女性こと笹垣 薺は魔法少女系衣装に変身して肉弾戦を得意とするヒーローらしい。
といってもここに来るくらいなので見習いではあるのだが。
「全員のデータベースを作ってるんだ」
「すげぇな。でもこれ何に使うんだ? 正義の味方になりに来たんだよな?」
「別に、情報集めが僕の趣味なだけで……正義の味方候補って言っても、僕はサポート志望だからね。ただ闘うだけがヒーローじゃないんだ怪人さん」
なるほど。と王利は理解した。
彼が目指すのはヒーローたちの情報を精査して適した敵にブチ当てるサポートキャラ。現存勢力でどうやれば敵を圧倒できるのか、それを考える正義の味方の味方である。
こういう奴もいるんだな。と納得していると、
「あああっ。ちょっと笹垣さん、あんたの個人情報洩らされてんじゃんっ!!」
声がして見てみると、うわぁっと引きそうになるほどに焼けた金髪女が居た。
もちろん、黒人では無ければ外人でもない。キンキラキンに染められた髪はアゲアゲに盛られ、ヤマンバになってはいないが焦げ茶色に染まった肌は王利には近づきたくないと思えるギャル系少女だ。
なんでこんなのが正義の味方養成機関に来てるんだ?
そんな思いが湧きあがる。
なにせ着崩したセーラー服にルーズソックス、ネイルアートは当たり前でデコられたスマホのストラップはストラップの方がメインかと思える程に大量にくっついて千羽鶴みたいになっている。
葉奈がこんなファッションに目覚めたら、王利は土下座して彼女に謝り止めて貰おう。
そう決意してしまう程のインパクトだった。
厚ぼったい唇と三白眼じみた目、剃られた眉毛がなんとも周囲を威嚇しているようだ。
「え? あたしの個人情報!?」
ガングロ女に言われて振り向いたのは、ショートカットに外ハネの髪を持つ少女、笹垣薺。
こちらは文句なく可愛いと言える少女だ。
少し背丈が小さいが、元気娘という言葉がしっくりくる。
少し前に同じクラスだったここなを思わせる少女だった。
「おおぅ、何コレ、凄い!」
雅巳が表示している自分の情報を見て驚きながらも感心する薺。
王利は思わず安堵する。
これで彼女が変態とかストーカーとか叫ぶようなら彼が話しかけたせいで雅巳が変態ストーカーにされるところだった。
「ねぇねぇ、これどうやって調べたの?」
「僕のメガネが博士の発明品なんだ。これで見た情報をこっちにインプットしてデータベース化するんです、ただその……うぁ……」
饒舌に話していた雅巳だったが、興味深げに身を乗り出してきた薺を真正面から見てしまい、顔を赤らめ俯いてしまう。
本当に、人と話すの苦手みたいだ。
「ということは、これにクラスメイト全員のデータが載ってるんだ?」
「収集するのは体重や身長などの基本状態ですね。あとはネットのデータベースにアクセスして変身後の名前を自動収集するくらいで、あ、あとSNSとかからも近況情報を収集するらしいです」
「あ~それでダイエットのこと……フェイスブックで書いちゃったからなぁ」
「っていうか、笹垣さん、論点違ぇだろっ。そいつあんたのスリーサイズとか横の怪人にばらしてんだよっ!」
「あっ」
ようやくガングロ女が叫んでる意味を理解した王利たち。
ばっと王利を振り向く薺と雅巳に、王利は気まずげに微笑むしかなかった。
「よし、じゃあ代わりにあなたのデータを見る。それで許そう」
薺がそう言ってふんぞり返る。そう言う問題なのだろうか?
どうも難しいことを考えるのは苦手なようだ。
自分の情報が怪人に漏れることについては全く気にしてないらしい。




