怪人、学園デビュー
「というわけで、本日より九月の新入生が入るまで、皆さんと一緒に正義の味方について習って行くことになった森本君、ラナさん、クルナさんの三人です。皆さんよろしくお願いしますね」
女性教師がそんな紹介を行って。王利たちを座席へと促した。
一番後ろの席に三つ取り付けられた席に王利たちが座ると、何事も無かったかのように出欠確認を始める先生。
どうやら自己紹介時間等はないらしい。
学生連中も戸惑った顔をしているが、この学園で転校生が来るのは珍しい様で、一部好機の視線を向けられている。
ただ、彼らはおそらく情報に疎く、王利たちのことを知らない者たちであり、既にラナリアの事情を知っている面々からは殺意を込めた視線を頂戴していた。
「はい、皆さん出席ですね。教師としても嬉しい限りです。本日の報告はなし。それではホームルーム終わります」
と、先生が出て行くと、途端幾人かの生徒が立ちあがる。
その殆どが殺意ある視線を向けていた生徒たちだ。
彼らは王利の元へと近づいて来るとさっそく絡んで来た。
「おいおい貴様、怪人なんだろ? なにこの学校来てるんだい」
最初に声を掛けて来たのはインテリ系メガネのいけすかないイケメンだった。
なんか生徒会とか会長とかで居そうなタイプの嫌みったらしい男だ。
これでも正義の味方候補だというのだからこの学園の質も程度が知れるというものである。
「全くだ、この俺様のように正義を志す者が来るべきだ。狩られに来たのか怪人?」
次にやって来たのはゴリラにしか見えない巨漢の男だ。角刈りで両腕を組んでいる彼は、思い切り王利を見下してきた。
そんな彼を見上げながら、王利は思う。
なぜ、ラナやクルナではなく俺にしか来ないの? と。
そんなラナとクルナはと言えば、二人して互いに笑みを浮かべ合いながら一時間目の授業用意を行っている。
正直自分も混ざりたい。王利は天に願ったが、その願いは聞き届けられなかった。
「まぁ、待てよ皆。こいつだってここに来たってことはそれなりに正義に目覚めたのかもしれないじゃないか」
別な意味でいけすかない男がやってきた。
熱血ヒーローレッドです。を体現するような熱血漢の男である。
頼もしそうに登場した熱血バカは空気を読まずに王利の元へとやって来ると、その肩をポンと叩く。
「そうだろう? 怪人君。悪辣で卑怯な悪に嫌気が差してるんだろ? 君も太陽に向って熱く吼えようじゃないか! 俺と一緒に強くなろう。そして共に悪を打ち砕こうじゃないか!! 十文字海翔だ。よろしくな!」
背中をばしばしたたいて今日から君とは友達だ! と高らかに笑う海翔、正直有難迷惑である。
「待った待った。さすがにあんたの押しつけ力は勘弁したげなよ。あ、初めまして森本君、えーっとW・Bさんだっけ? 僕は坪井ここなっていうの。魔法少女やってます。よろよろ♪」
「あ、はいよろしく」
珍しい。俺に女の子が話しかけて来た。
王利は思わずここなを全身余さず見つめる。
ボーイッシュな髪に小麦色の肌。
顔立ちも雰囲気も姿も、どれもが元気溌剌という四文字を露わすような真夏のイメージしか出て来ない少女だった。
「でねでね、聞きたいんだけど、学校入るまで一緒に居た女の人、バグパピヨンさんだよね?」
「え? ああ葉奈さんで合ってるよ」
「やっぱり! 僕ファンなんだよね。サイン貰ってほしいです!」
サイン用の色紙を背後から取り出し突きつけて来るここな。
それで理解した。自分はモテるイケメンではなく、その友人ポジションだったという事に。
王利は踏み台にされているのだ。意中の男性へラブレターを渡すのは恥ずかしいから王利君から渡してください。と、まぁラブレターではなく色紙ではあるのだが。
王利が色紙を受け取ると、何故かいけすかないイケメン男も色紙を差し出してきた。
思わず受け取る王利が怪訝な顔を向けると、少し赤らめた顔で男が告げる。
「ま、まぁなんだ。バグパピヨンと交友があるのならば、バグアント先輩とも面識はあるだろう。さ、サインを貰って来てはくれないか」
先程絡もうとしていた奴が掌返しました。
そんな男の横から、厳つい角刈り男も色紙を差し出して来る。
「俺はバグカブト先生のサインを! 寅雄君へと最後に付けてほしい!」とか、寅雄、お前もか。
「と、いうわけでだ。俺には真由さんを、バグリベルレさんを紹介してくれ!」
海翔だけなぜか本人と顔合わせさせろという無遠慮極まりない要求だった。
とりあえず伝えるとは言った王利だが、果たして真由とこいつを会わせて大丈夫なのかと不安がよぎる。
なんかそのままくっつきそうで怖い。
何せこいつはバリバリの熱血バカ。そして真由はヒーローオタクなのである。
ほぼ間違いなく、気が合うのは確かである。
少し心配はある王利だが、こうきらきらした目で言われると、断れない小市民だった。




