朝の来訪者
「ふぅ……なんとか、生きてるな」
翌朝、四人部屋で一夜を過ごした王利は無事に生き残れたことに安堵のため息を漏らした。
悪の怪人だと気付かれた瞬間、要とカルヴァに攻撃されそうになったが、マサシが動かないことが王利にとって有利に働いた。
王利に攻撃を加えるより先に、動かなかったマサシに怪訝な顔で詰問する二人に、マサシは溜息を吐いて告げる。
ラナリアの怪人といえどもヒストブルグに来たのなら正義の味方候補、仲間だろう。
仲間同士いがみ合うより友好を築くべきじゃないかね。例え後に殺し殺される間柄なのだとしてもね。そうは思わんかね?
そう言う中年オヤジは、何処となく誇らしく見えた。
王利は思わず親父みたいだ。と思わずに居られなかった。
王利の父親とは違い、理想の親父像を見ている様な、そんな顔をしていた。
が、一瞬後には草臥れた倒産会社の社長みたいに肩をすぼめて溜息を吐いている。
折角見直したのに残念な人だった。
とにかく、昨夜はマサシの一言で矛は収められ、少しぎこちないながらも友好的な会話を行う事が出来たのだ。
新しい学園に来てボッチなどという悪夢は王利としてもしたくなかったのでマサシには借りを作った気分である。何時かは返したいなと思う王利だった。
「おっは~」
と、皆が起き上がり着替えを終えた頃、元気一杯ドアを開いて現れる一人の少女。
ちんちくりんのへちゃむくれ体型。まさにお子様という言葉が似合うアホ毛の少女だ。
なぜかピンク色のストレートヘアなのだが、驚く王利以外は全く気にした様子も無く、皆がおはようと挨拶をし返している。ちなみに毛先は重力に逆らうように上に曲がっている。正確に言うならば彼女の髪はストレートヘア、ではないらしい。
なので、王利も一先ずおはようと言葉を返す。
「あら? ナニナニマサシ兄さん、新しい人入ったの?」
「ああ。彼は森本王利君というらしいよ。王利君、紹介するよ。僕の義妹という役をしている魔法少女、ルクティエ・パルトンノートだ」
「初めまして森本さん。私、元魔法少女のルクティエです。このキモオタ系お兄さんマサシ兄さんに魔力全部取られて普通の女の子化させられたので徹底的に正義の味方として調教してやることにしたんです。毎日ちゃんとやってるかマサシ兄さんの顔見に来てますんで、これからよろしくです」
「ああよろし……」
「居たあぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
折角の自己紹介による挨拶は、新たな乱入者により中断された。
そいつは部屋に駆け込むなり、ルクティエの脇をすり抜け、王利向ってダイブイン!
どこぞの三代目怪盗よろしく空中で泳ぎながら王利に抱きついて来た。
「おっうりきゅ~~~~んっ、会いたかったよぉぉぉっ」
そして周囲の驚き我関せずと頬ずり決め込んでいるのは、何を隠そう王利の彼女その人だ。
「は、葉奈さん?」
「王利君学校止めてヒストブルグに入ったって鐶ちゃんから聞いたから。来ちゃった」
てへっと可愛らしく微笑んで、ギュッと抱きしめて来る葉奈。
突然の乱入者に唖然としていた一同だったが、最初に再起動したのは要だった。
葉奈を振るえる指で指示し、壊れたラジオの如くとぎれとぎれに声を出す。
「ば……バグ……ソルジャー……の、霧島……さん?」
「ば、莫迦な!? バグソルジャーと言えば現役で活躍中の正義の味方じゃあないかい。なぜそんな先輩がここにっ!?」
「うぐぅ、怪人は、怪人はまさかのリア充!? オノレ、オノレ爆死しろ、モゲロ、弾け飛べえぇぇぇぇっ!!」
邪念が一部噴き上がったが、王利はただただされるがままに成り行きを見守るしかできなかった。
しかもマサシの方からだ。王利としては同棲しているだけ充分リア充だと思うのだが、確かに彼女が居る自分はリア充な方かもしれない。
そう思うと、ちょっと嬉しい王利が居た。
思わず頬ずりしている葉奈の頭を撫でる。
「素晴らしい。ナデポというものを始めて見たよ僕は! これが世界を彩る愛の祝福!」
「いや、祝福なのかな? むしろ悪が一人生まれた気がするんだけど?」
要が見つめるのはマサシだ。
目がうつろになって呪詛を吐きだす40代のおじさんに、ルクティエが引いた顔をしている。
女の子がする様な顔じゃないくらいの引き顔だ。アレはヤバい。彼氏も出来そうにない顔だった。
「それで、なんでバグソルジャーのバグパピヨンさんがここに?」
「えっと……葉奈さんとは付き合ってて……」
「「「はぁ!!?」」」
三人から驚きの声が上がった。
唯一驚かなかったのはカルヴァ。むしろ恍惚とした表情で日差しを浴びて上半身のシャツを半裸に着こなしている。ああ。素晴らしきかなこの世界。そして僕。みたいな台詞を喋っていた。
現実逃避しているらしい。
「え? 何、王利君、君、悪の怪人なんだよね? せ、正義の味方と、それもバグパピヨンと……出来てる?」
「爆死しろ爆死しろ爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死爆死……」
「ひえ~、こういうのって本当にあるんだ。アニメの世界とかだけじゃないんだねぇ。っていうかお兄さん大丈夫? 魂出てるよ?」
この日、魔法中年マサシに宿敵が生まれた。




