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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
怪人 → 学園
272/314

エルフさん就職する

「え? 仕事ですか?」


 王利が新しい学園に入学する事になったこの日、ラナリア本部に呼び出されたエルティアは、首領の言葉に驚きを露わにしていた。

 今まで副首領はお前だといろいろなことを教わっていた彼女だが、ラナが現れて以来お払い箱のように何の音沙汰も無く王利の家で暮らす毎日だった。


 それが今日、突然ラナリアに来いと一方的に告げられ、日課の家事をほたるんに任せてやって来てみれば、開口一番、お前、教師やってみないか?

 という謎の言葉である。


 正直意味が分からなかったものの、やる事も無いので断る意味がない。

 ただ、自分を仕事に向わせるくらいなのだから何かしらあるだろうとは思っているのだが、さすがに首領の思考を理解するのはエルティアには無謀であった。


「教師……ですか? こちらの世界について疎い私が?」


「何、ちょっとこの装置を使ってくれればそれでいい。記憶野に直接現代知識を焼き付ける機械だ」


 と、頭にかぶるヘッドギアの様な物を渡してくる首領に、エルティアは思わず顔を顰める。


「別に洗脳するわけではない。言霊を使っても本人の知らぬ知識を植え付けることは無理らしくてな。仕方がないので怪人共に知識を植え付ける装置で代用する」


「そこまでしてなぜ私が教師になる必要があるのです? まさかヒストブルグに潜入させる気ですか?」


「いや、W・Bについては心配してないよ。お前に行ってもらいたいのは別の学校さ。どうも生き残りの怪人が居るらしくてな。丁度担任に欠員がでているらしいからねじ込ませて貰う事にした」


「はぁ……」


「様は生き残りの怪人がどんな生活をしているかの監視だ。またラナリアに来たい様であれば引き抜いてくれ。無理そうなら放置で構わない。それに、教師という仕事はお前にとってかなりプラスに成るぞ。特に我が右腕として副首領になるのならば、人を教え導く術を培って来るといい」


「はぁ……拒否権はなさそうですから行きますけど」


 これからは寮暮らしになる王利も帰ってくる事が無くなり、ラナとクルナもいない状況、エルティア以外は王利の父親が深夜に帰宅して早朝に出掛けて行くくらいで、残りはほたるん、ハルモネイア、ナールしかいない。

 つまり、食事を作る意味が無いのだ。

 食事も一人、洗濯も一人、掃除も一人、王利の家なのにエルティアがただただ一人生活しているだけなのである。


 正直暇で、もの寂しい。

 ほたるんやハルモネイアとは会話が出来るが、それだけだ。

 やはり生きている存在が一人は欲しい。


 その代わりとして教師になり、複数の生徒と会話が出来るのならば、エルティアが断る理由など無いに等しい。

 受け取ったヘッドギアを被る。

 顎に来るベルトを締めると、首領がスイッチの様な物を押した。


「っ!!」


 脳裏に流れ込む言葉の羅列、イメージ、焼きつく記憶。

 自分が体験したことのない知識が猛スピードで記録されていく。

 未知の体験と自分の構成が侵されるような感覚に全身が震えだす。目の焦点が合わなくなりそうになったその刹那、突如知識の流入が終わりを告げた。


「っかは……ハァ……ハァ……」


 気が付くと、エルティアは床に倒れて肩で息をしていた。

 そんなエルティアにもういいぞ。と首領の声が掛かる。

 緩慢な動きで固定具を外し、ヘッドギアを外す。


「ふむ。どうだエルティア? ヒトヨヒトヨニ?」


「ヒトミゴロ……え?」


「329+671」


「1000」


「おはよう、こんにちわ、こんばんわ、英語で」


「グッモーニン、ハロー、グッイブニン」


「少し変な覚え方だがよかろう。違和感はないな?」


「はい。凄いですね。知らないはずの知識を普通に知ってます」


「本来は洗脳に使う装置だが、こういう事も出来るのだ。まぁ、インペリアの知識あってのものだがな」


 エルティアは自身の知識を引き出して行く。

 今まで気にもならなかったことへの答えを知っていた。

 日本の歴史を知っていた。世界が辿っている歴史を知っていた。

 外国語を知っていた。数式を知っていた。物理や生物知識を知っていた。


 大学ですら習わない高次元方程式からおばあちゃんの知恵袋並みの雑学まで、幅広く彼女の脳にインプットされていた。

 それも、彼女が知識を引き出したいと思った時だけ表に浮かんでくる不思議な知識で、知識の在り過ぎで頭がおかしくなるといったことにはならない。


 こんな便利機能があるのなら怪人さんたちにも使えばいいのに。

 決して口に出すことなく思ったエルティアは、偽造された教師免許と学校の地図を受け取り、新たな任務へと向うのだった。


「ふふ。エルティアを見たら大騒ぎだろうな。何せこの世界に居るハズが無い長耳族が教師としてやってくるのだから」


 エルティアが向った教室がどんな状況になるかを想像しながら黒い笑みで笑う首領、彼女の目的は、少しづつ、着実に形を成し始めていた。

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