葉奈、真実を知る
最近、王利君が学校に来ない。
葉奈は空いた机を見ながら憂鬱な溜息を吐く。
王利がこの世界へと戻って来た日、彼から連絡を貰った葉奈は即座に家に押しかけ、一日べったりとくっついて過ごした。
まさにもう逃がさないぞと体現するように、トイレも風呂も一緒に行く勢いだった。
さすがにエルティアやほたるんに阻止されたものの、夜中だけは一緒に寝るのを了承させた。
まぁ、何をするでもなく一緒の布団で眠っただけだが、それだけでもようやく王利ニウムが補充できたので葉奈としては満足だった。
そして次の日、王利と共に学校に行き、彼は級友に知らされた。
休み過ぎで留年確定という最悪の事実を。
王利が留年するならあたしもする。
葉奈が担任の先生に、いや校長室にまで直談判したものの、この決定が覆ることはなかった。
そして葉奈が留年することも、真由に止められた。
親友に泣いて頼まれた以上、無理を押して留年する訳にも行かないのだ。
それに王利にお前はちゃんと卒業しろと言われたからには実行しない訳にはいかなかった。
だけど、それ以降、王利は再び休んでしまった。
最初は、留年確定だからもういいやと諦めたのかと思った。
でも、家にまで帰っていないとなると話は別だ。
誰からも王利のその後を教わっていない葉奈は、自分の全身を掻き毟ってしまいたい衝動に駆られる程に追い詰められ始めていた。
王利君、大丈夫なの? 王利君、追い詰められてない? 今、何処でなにしているの? 無事なの? 正義の味方に監禁されたりしてない?
助けを呼んで、あたしは王利君の味方だよ。誰が相手でも王利君の味方だよ。君だけ居れば……
「あ、そう言えば先輩、私王利さんと会いましたよ」
気が付けば、いつの間にか学校が終わっており、バグソルジャーの集会所に皆で集まっていた所だった。
少し遅れて座席に着いた鐶が、そう言えば、といった顔で話を告げる。
他の皆はへぇ。というどうでもいいような感想だったが、葉奈だけは違った。
衝撃的事実と王利の生存を知り、思わず鐶の首を絞める勢いで掴みかかっていた。
「それ、何処で、何処で会ったの!! 王利君無事だった? 元気だった? 誰かにイジメラレテなかった!?」
「ギブ……ばな゛ざ……」
「ちょぉっ!? 葉奈さん、手! 首締まってる! 死ぬ、死ぬから、鐶が死ぬからぁっ!?」
慌てて葉奈の腕にしがみつく真由、さすがにアントと耕太も参加して鐶から葉奈を引きはがす。
葉奈が引き離され、大きく息を吸う鐶。
身から出た錆とはいえ、不用意な発言にさすがのアントも馬鹿かお前と言った顔をしていた。
「そ、その、今日、パステルなんとかっていうのいたじゃないですか、あそこの怪人倒した後でヒストブルグに経過報告しに行ってたんですよ。上手くやれてるかどうか、自己報告して、向こうが本当かどうか調べに来るやつ、アレの定期報告です」
「ああ。そう言えばそんな面倒な事もあったな。また来るのかあいつら」
「ちょっと嫌みったらしいですよねあの人。なんでしたっけ、平成天狗?」
「ヘブンズテールだ真由。確かヘブンズテールの高畑蘭歌といっていたか。あれ程小言の多い、いけすかない女は初めて見たな」
「彼女は理屈屋なんだカブト。そう責めないでやってくれ。まぁ、ウザったいのは認めるがな」
「そんなどうでもいい話はいらないのよ鐶。王利君。王利君を出しなさいっ、早く。一秒遅れるごとに生爪剥いで行くわよッ」
「えええええっ!? えと、あの、その、だ、だからですね、ヒストブルグで、見ました。王利さん、入学したって」
「そう、ヒストブルグに居たのね……はぁ!? 入学!!?」
「なんだと、奴は悪の怪人だろう!?」
「はぁ。でもラナちゃんとクルナちゃんと共に入学したって学園長がOBの五人と会議してましたし。確定だと思いますけど」
「な、なんで? 王利君、どうして別の学校に? あ、あたしと距離おきたかったの?」
「いや、それはないです葉奈さん。多分留年の方でしょう。悪の怪人が留年とかぷぷぷ」
愕然とする葉奈と真実に辿りつき含み笑いする真由。
二人を見た鐶は何とも言えない表情でカブトとアントに視線を送る。
どうしたらいいですか? そんな新人の願いを、先輩二人は素知らぬ顔でスルーするのだった。
「よし、決めた! あたしヒストブルグに入学する」
「いや待て、そこのバカ娘」
「何よアント、あんたに止める理由はないでしょ!」
「いやな。お前既に正義の味方だろうが、あそこは正義の味方候補養成機関。正義の味方は、入れんぞ」
葉奈は再び絶望した。
そう、正義の味方として活動して数年、インセクトワールド社を陥落させ、既にベテランの域に達しているバグソルジャーは、臨時教師として向う事は出来ても、生徒になる事は学園の性質上無理であった。
とはいえ、一応正義の味方ならいつでも門戸を開いているので、会いたい時にいつでも会えるというのは正義の味方特権であるとも言えた。
つまり、会いに行くのは自由なのだ。
真由がそう言って慰めたが、葉奈が復活するにはしばらくの時間を要したのだった。




