ヒストブルグ案内3
新堂桃香は怪人が嫌いだ。
何故かと言えば倒すべき存在だから。
悪い事を行うのが怪人だから。
悪の組織に従事し、悪行の限りを尽くすから。
親しい友達の友達とかが被害にあったから。
数え上げればキリが無い。
当然のように、正義を志す者にとって怪人は倒すべき悪であることに変わりなく、目の前にいる森本王利はその怪人の一人なのである。
もちろん、正義の味方を志すためこの機関に入ってくる逸れ怪人は何人もいる。
しかし、悪の組織所属でありながら正義の養成機関にやって来たのは王利が初めてだった。
自分が年長の正義見習いである以上、何時かは闘う怪人。その実力の一端を見るうえでも、憂さ晴らしをすることでも、ぜひとも一戦闘っておきたかった相手である。
そのため、この学校案内に指名された時は絶対にここに誘導しようと彼女は最初から決めていたのだ。
巫女服でやって来たのも、これが彼女の戦闘服であるというその一点だけである。
即座に闘いが出来るよう、相手に逃げの時間を与えないよう、敢えて戦闘服を着たまま案内していたのだ。
決闘場の一角で手招きする桃香に、王利は呆れた顔をする。
周囲から何事かと正義の味方見習い達が集まりだす。
我関せずのラナとクルナは応援に即座に回ってしまった。
まさに四面楚歌。衆人環視の中で模擬とはいえ怪人が闘うことになるのだ。
王利としては歓迎できない状況であった。
「さぁ、退路は断たれたようですよ?」
「はぁ……なぁ、これでもう誰からも決闘受けるの無しにとかできないかな?」
「さて、私の一存ではなんとも、止められないでしょうね。で? どうします?」
「はいはい。やるよ。やりますよっ。flexiоn!」
どうせこうなる事は予想済みだったのだ。
王利としても適当に闘って適当に終わろう。
そんなつもりで変身のキーワードを口にした。
「か、怪人だ!?」
「おい、嘘だろ!?」
事情を知らないらしい何人かが驚いた声をあげる。
「静まりなさいっ。紹介するわ。明日より一年として入学するラナリアの怪人さんよ」
桃香の紹介で一気に殺気が膨れ上がる。
ラナリアに対する彼らの苛立ちが見て取れた。
何せ自分たちが正義として巣立つ前に日本を席巻した秘密結社の怪人が、堂々と自分たちの学園に入学して来たというのだ。
彼らからすればまさにふざけるな! お前が、お前ら悪が正義を騙るな! と言ったところだろう。
「さぁ、始めましょう怪人さん。勝敗方法は基本形。自分たちの実力をコンピューター解析して割りだしたHPバーをレッドまで削った方の勝利よ」
よくよく見れば、自分たちの頭上に電光掲示板の様に黄色のバーが存在していた。
どうやらこれが自分たちの体力の目安らしい。
自分の耐久値と相手の攻撃力をコンピューターが解析してダメージ量を算出、黄色いバーが減って行って赤くなったらそこで終了。
「格闘ゲームかよ!?」
「開発のヒントはそこかららしいわよ。ヒストブルグでしか使われてないのよ。器材や扱う設備が大きすぎて使い勝手が悪いらしいの」
さて、と桃香は裾から数枚の紙を取り出す。否、それは紙というよりは札と言った方が良いかもしれない。
「さて、全力で行かせてもらうけど、ダメージが高すぎて自爆装置が作動したら御免なさい」
あなたを殺します。宣言をした桃香は即座に札を一枚抜き取り王利に投げる。
黒き装甲を持つクマムシ男を見た彼女が選んだのは装甲を持つ怪人に有効な熱波による攻撃だった。
まずは小手調べ。
自分の扱える中でもそれなりに強く相手の力量を知ることのできそうな一撃だ。
100度近い熱波を浴びせ火傷状態になるかどうか。
その結果を踏まえて次の一手に繋げる。
結果、クマムシ男は熱波の影響を全く受けず、受け身体勢でその場に留まっていた。
一瞬吹きつけた熱波に驚いた様子だが、ダメージを負った形跡はない。
ついでに言えばHPバーも全く減っている様子が見られない。
「なら次は……これです!」
再び札の一枚を取り、王利へ飛ばす桃香。
風が吹きあがり烈風となって王利を襲う。
普通は相手を切り裂き無数の裂傷を負わせる呪符なのだが、これも効果が無いらしい。
桃香は王利のHPバーを見ながら次の一手を投げる。
氷結弾と変化した札の一撃。
しかし王利の表面が多少凍っただけで普通に立っている。
しかも、王利が呆れた顔でどうしたものかと無防備に立っているので、桃香は少しムッと来た。
まるで子供の正義ごっこの相手をさせられて困惑する青年のようだ。
ワザと倒されるのが良いのか、まだまだ効かぬわと不敵に微笑むのが良いのか迷っているように見える。
「なら、少し強めに行きますッ」
と、いいながら、桃香は自分の攻撃札で、一番威力の高い爆裂札を手に取った。




