ヒストブルグ案内2
「ヒストブルグでは一階に予備生教室が三組、二階に一年生教室が三組、三階に二年生教室二組と三年生教室が一組ございます」
「え? 少なくなってるんですか?」
「ええ。正義の味方というのは過酷なものですから。様々な振るいに掛けられ、一人、二人と辞めてしまうんです。ですから年数が上がるほど粒のそろった正義の味方であり、精鋭ぞろいとも言えます。卒業後は正義の味方に欠員が出たりしたら補充として入ったり出来ますし、新たな組織を立ち上げるのもありです。最近でしたらバグソルジャーに新人デビューした先輩がいたはずですね」
「ああ、バグワスプさんでしたっけ」
情報は把握していますといった顔でラナが呟く。
その表情は少し不敵さが見え隠れしていて、彼女も悪の首領になったのだなぁと思わずにはいられなかった。
王利は感心したような悪い事をしてしまったような複雑な気持ちでラナを見る。
「バグソルジャー内ではなかなか優秀だそうですよ。バグシャークと違い空中機動を行えるので偵察任務もこなしますし。第一女性同士なのでバグパピヨンとバグリベルレとの仲が……」
「いや、本人の前でそういう説明止めてください」
噂をすればなんとやら。なぜか向いからやってきたバグワスプこと、奉禅寺鐶と鉢合わせていた。
「奉禅寺先輩、どうしてここに!?」
「定期報告だよ。卒業後一年は自分の活動記録を報告する義務が発生するから。あ、でもでも別に直接来る必要はないんだよ。たまたま今日は近くで仕事だったから寄っただけで」
「あんたがバグソルジャーの新人さんか。初めまして森本王利。葉奈さんの彼氏やらせて貰ってます」
「あ、はい。これはご丁寧に……って、あなたが噂の! へぇ……というか……え。ほんとに?」
まじまじと王利を見つめる鐶。その顔からは微妙な様子が窺える。
「なんか……いえ、悪い意味という訳ではないんですけど……葉奈さんの話。随分美化されてません?」
「俺は聞いたことないから知らないけどな、真由から聞いた話じゃどこの王族だってぐらいには美化されてるらしいな。悪いな冴えない容姿で」
「い、いえいえ、別に悪いと言う訳では。ただ……葉奈さんとは似合わないというか……」
随分とはっきりと言ってくれる娘だ。初対面でこれは相当キツイ。
「あ、あの、そろそろ次の説明に向いましょうか」
さすがに察した桃香が引き攣った笑みで話題を切り裂き歩きだす。
「ああ、ごめんね呼びとめて」
察したわけではないようだが、鐶も自分の報告を済ませるべく歩きだす。
桃香が次に案内してくれたのは、特別教室だった。
音楽室のようにも見えるその部屋には、ピアノが一台置かれている。
「正義の味方も普通の学校みたいに音楽あるんすか?」
「いいえ。ここは自分たちの自己紹介を決めたり、主題歌を考える授業に使われるの」
「え゛?」
王利たちは思わず目を点にする。
まさかの自分の登場時に流す主題歌を作詞作曲する授業まであるのかと感心するような呆れるような。首領辺りが悪ふざけで行いそうな授業である。
「ここは選択授業になるので、戦隊ヒーローを目指す人や、新しく組織型ヒーローを立ち上げる、あるいは自己主張の強いヒーローになりたい人が主に授業を受けるの。一応、一般教養授業でも使うから紹介しておいただけよ」
一般教養というのは、折角正義のヒーローになったのに、世間ずれした知識で人を助けるなど無理だろうということで強制選択授業として盛り込まれている授業らしい。
王利としては普通の学校生活と変わらないようで少し安心する。
次に案内されたのは視聴覚室。
ここでは現役の正義の味方と悪の闘いを鑑賞して闘い方を見たりする事が出来るらしい。
先生に告げれば休み時間などに自分の見たい正義の味方の闘いも見れるそうだ。
次は図書室。静かにするというのは普通の図書室と変わらないが、置いている書物が曲者だった。
思わず見つけて手に取った秘密結社解体新書のインセクトワールド編には、首領が謎の存在として書かれてあり、数年前まで分かっている怪人の名前とか全体写真、使って来る必殺技などが書かれてたりする。
こんなモノまで作られているのだからそりゃあ対策取られて討ち取られる怪人が多いわけだと納得する王利だった。
そして、幾つかの説明すべき場所へと赴き、体育館もとい闘技場へとやって来る。
通常の体育館とは違い、コロッセオの内部みたいな作りのそこは、白線で四つに区切られており、
同時に四つの対戦が出来るようになっていた。
今はそのうちの一角を学生が使っていてにぎやかである。
「さて、ここでの説明もいろいろとあるのですが、実践するのが一番でしょう? そこの怪人さん、一手、お願いできますか?」
初めからそのつもりだったとでも言うように桃香は王利に不敵に微笑む。
怪人への正義の洗礼が今、始まろうとしていた。




