秘密結社の新入生
正義の味方養成機関ヒストブルグ。
ラナリア日本制圧後も正義の味方排出機関として普通に機能している、ある意味治外法権の学園である。
さすがに日本政府とのパイプが太かったためにラナリアとの繋がりも出来てしまったが、この学園はラナリアの支配下にある日本にあって彼らの影響を殆ど受けない独立組織であった。
つい、こないだまでは。
本日、そのラナリアの影響力に屈し、ついに三人の転校生を新入生として迎え入れたのである。
学園長の九重 鳫九郎はなんとか交換条件としてこの学園内ではラナリアの法律は一切通用せず独自の校則が優先されることをもぎ取ったが、それでも悪の怪人を正義の味方候補として迎え入れるのには難があった。
正義の味方のOB連中からも問い合わせの電話が殺到したし、現に今、学園長室には悪夢のような光景が広がっていて、彼の顔を蒼白にさせていた。
学園長室には、鳫九郎の対面に、ラナリアのレウコクロリディウム、左右にはラナとクルナが座り、鳫九郎と同じくらい土気色になっている冴えない男が一人、レウコクロリディウムが座るソファの背後にガチガチに固まった状態で立っている。その肩には小さな小人が座っており、こちらは物珍しそうに鳫九郎の背後を見つめていた。
鳫九郎の背後にはラナリア軍勢を威圧するように睨みつける五人の正義の味方。
いずれもこの学園創設に係わった強力な古参ヒーローである。
右から、地球刑事シブサワ、スマイリームーン、アラビアンハラショー、アトミックマン・ゼロス、そして仮面ダンサー・ドゥ。
渋いハードボイルドな刑事といった容姿のシブサワは煙草を吹かしてラナリアの面々を見る。
その瞳には値踏みする様な視線が惜しげもなく込められ、一番後ろで首領への視線の余波を浴びる王利を青くさせていた。
スマイリームーンはブレザー女子高生姿の女だ。今は既に30代を過ぎているらしいが、それについては何も語るべきことはない。むしろ語ってはいけない。
元々は皆を笑顔にする月の力を扱う存在だと自称していた高校生だったのだが、時を経た今変身すれば、イタいおばさまでしかない。
これに視線を合わせる訳にも行かない王利としては下を向く以外できることはない。
アラビアンハラショーはまさに最古参の変身ヒーロー、否、人間だ。
アラビアあたりのなんか凄い知識に触れた彼は日本に戻るとアラビアかぶれの衣装を着込んで泥棒や暴漢などを懲らしめていた。
そんな折、ついに悪の秘密結社を見つけたのである。
それまでは地下深くで活動していた彼らを正義の味方の目に触れされたのは、このアラビアンハラショーであることは余りにも有名で、歴史の教科書にも出て来る程だ。
アラビアンナイトさながらなルックスのお爺さんで、ただいま齢132歳。そろそろ死ぬんじゃなかろうかと皆に言われつつ既に30年以上過ぎている脅威の御老体である。
たぶん、正義の味方内では一番弱いと思われる。何せただの人間だし。
アトミックマン・ゼロスは真由が好きなアトミックマンの引退ヒーローである。
既にゼロス自身は自分の星に帰ったために日本人であるというだけなのだが、歴戦の猛者としての眼光は健在。
王利はここに来る前トイレで出会ったので真由用にサインを書いて貰ったのは秘密である。
仮面ダンサー・ドゥは噂の仮面ダンサーシリーズ、二号である。
腕力の高さはダンサー内でも一番と言われる程であり、仮面ダンサー・アンと双璧を成す最強の一角である。
おそらく今のラナリアも、仮面ダンサーの二人に狙われればほぼ壊滅に追い込まれるだろう。
ラナとクルナが居れば勝てるかもしれないが、それは卑怯でもある。
彼女たちがラナリアを攻撃していないのは、バグリベルレと交友関係のある仮面ダンサー・スワンから連絡があり、ラナとクルナの境遇を教えられたかららしい。だが、油断大敵、ちょっと気を許した隙にラナリアが日本を占拠してしまったため、彼女からの敵意も半端ない。
王利が一応ダメ元でサインを頼むと威圧しながらも普通に書いてくれたのは秘密である。
「それで、入学希望者は三名でしたね」
「うむ。こちらのラナ、クルナ、そして私の後ろにいる森本王利。怪人名はW・Bだ」
「ラナ君はラナリア首領、正義の味方について知りたいというので入学許可は許そう。クルナ君についても同様だ。仮面ダンサー・ドゥさんから彼女たちがラナリアを立ち上げた経緯を聞いているのでこちらにいる正義に味方がたも了承してくれた。だが、そちらの彼はどういう理由で?」
「うむ。ラナとクルナを救うために奔走していたらしくてな、気付いたら留年が確定したそうだ」
「そんな間抜けな怪人を我が学園に入れろと?」
「一応、これでも勇者として悪を倒したこともあるのだぞ。バグソルジャーに確認を取るがいい」
「ふむ。怪人のクセに勇者?」
「納得いかんのぅ。じゃがまぁ別に問題はない気もするの。ところでばあさんや、飯はまだかい?」
「アラビアンハラショーさん、私はスマイリームーンです。あなたのお婆さんならとっくに死にましたでしょ」
「ボケ老人には聞くだけ無駄だ。多数決を取りたい。俺は反対、他は?」
正義の味方の多数決。
賛成多数で可決されました。
僅差の勝利だったが、シブサワが賛成に回るとは思っていなかったゼロスが驚いていた。
ちなみに、賛成はシブサワ、ハラショー、ドゥの三人であった。




