クルナの決断5
「もう、いいのか?」
首領と王利が連れ立って戻って来ると、既にラナとクルナは離れており、赤い目をしながらも首領たちに視線を向けて来た。
「ええ。ラナと互いに自分たち以外の人からの言霊を聞かないことにするよう命令かけましたし、ありがとう黒の勇者さん」
「いや、俺ただの怪人だし」
「それでも、私とクルナちゃんを救ってくれた勇者様です。W・Bさん、本当に、ありがとうございました。未来の私のわがままにも付き合って貰ったみたいで」
確かに、言われてみれば会っても居ないラナに操られるように彼女たちを救うために奔走していたわけだ。今までの自分は彼女たちのために動いていたのだと思うと、何とも言えない思いが沸き起こる。
まぁ、ハッピーエンドになったなら問題はないか。
「それじゃ、さっそく君等の世界に行こうか。首領がまた悪だくみしないうちに」
「おいW・B。それでは私がいつも悪だくみしているようではないか」
「違うんですか?」
「……違わんな」
ふと考えて、首領は自分で納得していた。
「じゃあ、二人とも送るから俺の身体に触れてくれ」
言われて、クルナが王利に歩み寄る。
王利の身体に手を触れようとして、気付いた。
「どうしたのラナちゃん?」
「うん、その……折角皆を集めてこれからって時に、首領の自分が抜けちゃっていいのかなって」
「でも、ラナちゃんが立ち上げたのは私を助けるためなんだよね? だったら……」
「うん、帰ろうと思う。思うんだけど……このまま首領さんに任せるきりにするのって、いいのかな?」
「この世界のことはこの世界で蹴りをつけるさ。何か問題が?」
「えっと……あの、クルナちゃん」
何かを訴えるように、ラナがクルナに視線を向ける。
クルナはそれを真摯に受け止め……溜息を吐いた。
「全くラナちゃんは……折角帰れるのに、お人好しすぎるよ」
「そうかもしれないけど、でも、やっぱり途中で投げ出すのは悪いよ。私たちはもう、W・Bさんが居ればいつでも帰れる訳だし」
「全く……」
しょうがないな。とクルナは息を吐いて王利に視線を向ける。
「ラナちゃんはもうちょっと残りたいみたいだから、私も首領が無茶しないようもうちょっと監視させて貰うわ。いいかしら?」
「俺は構わないよ。確かに首領には一人くらい監視する人が付いていた方が良さそうだし」
「オイッ」
首領が不満げに声をあげるが、王利は無視して変身を解く。
「それじゃ、二人はこのままもう少しここにいるってことでいいのかな?」
「ええ。それでいいラナちゃん?」
「ごめんねクルナちゃん。折角一緒に元の世界に戻れるようになったのに」
「いいのよラナちゃん。私はラナちゃんと一緒なら、幸せに毎日が過ごせるならどこでもいいの」
二人は互いに両手を握り微笑み合う。
何とも言えない微妙な顔で首領はそれを見ていたが、こうなった時の動きも既に想定していたようで、インペリアにさっそく指示を出し始めていた。
「ふん。ならばこの辛気臭い場所からさっさと出るぞ」
「んじゃ、さっきの最上階に向えばいいんだよね。いくよー」
首領の言葉に反応したのはエアリアルだった。
先程のやりとりで自分も何かしたかったらしい。
第二十三世界の特性を存分に使い、行きたい場所に向わせたい人物全てを送ってしまう。
突如最上階の首領部屋に移動した皆が驚いた顔をしていた。
それはそうだろう。まだ誰も言霊を使ってすらいなかったのだ。
言霊を使ったとしてもこれ程速く目的地に移動できる訳でもないのだ。
「お、おい貴様! 今、何をした!」
首領が目を輝かせてエアリアルに詰め寄る。
ああ、失敗した。
王利が思ったのはそれだけだ。
首領がラナたちを巻き込んだのは彼女たちの扱う言霊が欲しかったから。
それより上位の思うだけで全ての事象が起こせるエアリアルに興味を示さないはずがない。
もしも、もしもだがこのエアリアルさえ敵わない管理者の存在を知れば、果たして彼女はどうする気だろうか?
首領が捕まえようとしてくるので空を飛んで逃げるエアリアル。
首領が言霊を使うが上位存在であるエアリアルには効かない。
舌打ちしながら蝶を追いかける子供の如く首領とエアリアルが追いかけっこを始めていた。
「とりあえず、ラナちゃんは継続して仕事するの?」
「うん。クルナちゃんはどうする?」
「少しづつ覚える。一緒にやってもいい?」
「いいよ。一緒にラナリアを運営しよう。皆で楽しいと思える世界に、変えよう」
ラナとクルナは二人の世界に入っているようで、さっそく首領用のパソコン画面を二人で覗きながらきゃいきゃいと話し始める。
精神的に図太いなぁ。そう思いながら王利は一人、首領部屋を後にするのだった。
エレベーターに乗り込むと、アルが一緒に付いて来ていたので、二人して溜息を吐き合い、ラナリアから家へと帰るのだった。




