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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
エルフ王女 → 第四世界
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特別編 森本王利改造秘話

 ふいに森本王利は意識を取り戻した。

 強い光を感じ、目蓋を開く。

 余りに強い光により、開いた視界がホワイトアウトを起こすが、それも一瞬。

 徐々に白い天井が見えた。


「ここ……は?」


「気付いたかね」


 声を出すと、横から返答があった。

 聞き覚えの無い声にそちらを向く。

 白い服を着た手術中の医者といった姿の老人がいた。


「あんたは?」


「うむ。君の担当整備ドクターに任命された。ドクターマニングと呼んでくれ」


 ドクターマニングは軽い自己紹介を終え、話を続ける。


「ふむ。安心したまえ、手術は無事完了した」


「手術?」


 言われて、記憶の片隅にあったものが湧きあがってきた。

 王利は意識を失う前、秘密結社に捕まり、改造手術を受ける事になったのだ。それに対し、自分からぜひともこれに改造してほしいと提案までしていた。それが、クマムシである。


 クマムシのことを知らなかったらしいドクターマニングたち科学者は、困った顔で顔を見合う。仕方ないので王利は自分の知識を語って聞かせた。

 曰く、クマムシは地上最強の生物であると。


 キチン質の厚いクチクラに覆われた硬い装甲。

 頭部1環節に胴4環節、歩脚は丸く突き出て関節は無く、先端には4~10の爪がある。また粘着性の吸盤組織もあるという。

 透過性のクチクラ全体で呼吸を行う。


 脱皮を繰り返す事で成長する。

 151℃の高温からほぼ絶対零度の0・00075ケルビンの極低温まで生存可能。

 真空から75000気圧の高圧まで耐えられる。

 放射線も57万レントゲンまで生き残る。ちなみに人間の致死量は500くらい。

 さらには宇宙でも生存可能なのである。


 そして、生命の危機に陥ると、水分を吐きだしクリプトビオシスと呼ばれる乾眠状態にはいるという。

 その乾眠状態時に水を与えると、蘇生するのである。


 王利は得意げに話した。

 ドクターマニングたちは、大いに歓喜した。

 そんな超生物がいたのかと。

 悦んで王利の改造を始めたのである。


「ってことは、俺は……」


「うむ。手術は成功じゃ。しかし……」


 言いにくそうにドクターマニングは口ごもる。


「まず、君の身体に付いて説明しよう」


 咳を一つして、ドクターマニングが説明を始めた。


「まず、我々は、君に言われた生物クマムシを調べてみた。確かに君の言った通りだ。この虫を元にして君の身体を改造させてもらったよ」


 ドクターマニングの説明によると、改造人間は元の生物の特性を人間に移す事により能力を倍加させることができるそうだ。

 だからこそドクターマニングたちは王利をクマムシ男に変えた。


 しかし、ここで問題が起こった。

 思う様な能力が得られなかったのだ。

 話し合った結果、彼らは持てる技術を総動員して超生物の再現を行った。

 下手をすれば失敗して素体である王利自体が使用不可となる可能性もあった。


 絶対零度で動けるようにすると、熱耐性がなくなり、高圧に耐えるようにすると真空で潰れ、放射線への耐性など絶望的に思えた。

 宇宙空間で生きるなどもってのほかである。


 しかし、しかしである。

 彼らは狂気に塗れた天才科学者だった。

 造り上げてしまったのだ。


 絶対零度とまでは行かずとも1ケルビンまでならば通常活動が可能な改造人間を。200℃までなら行動可能な肉体を。

 気圧も真空から75000まで耐えられるように、それを可能にするために装甲を極限まで硬く軽くした。

 放射線も指定の57万とまではいかないが、20万レントゲンに耐えうるように、宇宙でも一日だけなら生存可能な身体に。

 さらに、一瞬で体内の水分を吐きだし乾眠に至れるように。

 乾眠状態であれば10000000℃から絶対零度まで耐えきれるようになった。宇宙でも10日は蘇生可能である。

 

 そして、知った。

 王利が語ったクマムシの特性は、全てメディアの過剰表現でしかなかったことに。

 改造を終えて一息付き、不備がないかとクマムシについて調べ直した時、知ってしまったのだ。


 クマムシに、そんな超能力は存在しない事に。

 確かに、言った通りの状況でも生存はできる。

 しかしだ。それは乾眠状態である。という条件が付く。

 生身のクマムシは湯を掛けるだけで死ぬし、圧力にも弱い生物だったのだ。


 さらには乾眠に移るにも十数時間を要し、急激に温度を変化させたりすると、乾眠に移る前に死ぬと言う。


「つまり、君は情報を誤認していたわけだ」


「マジっすか……」


 これを聞かされた王利は何も言えなかった。


「ま、まぁ、我々としても、結果オーライというべきか。君の希望通り改造は行ったのだ。幾分、元の生物より強くなってしまったが、そこはむしろ悦ぶ事だろう。我々としても出来たことが驚きだ」


 生物を元にして改造人間を造る。をモットーにしていた科学者たちにすれば不満はあるが、強い改造人間が自社に入る事に関しては文句はない。


「先程、首領より君のコードネームが与えられた」


「コードネーム」


「クマムシはウォーター・ベアと呼ぶそうだ。これを略してW.Bと呼ばせてもらう」


 こうして、天才でありある意味バカな科学者たちにより、生存にのみ特化した改造人間クマムシ男が誕生したのだった。

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