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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
怪人 → 帰還
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壊れゆく少女5

「ゲルムリッドノート……あいつがをラナから引き離す魔法とか、ないの?」


 油断なくラナを見つめながら、クルナは小声でゲルムリッドノートに聞く。


『ねぇなぁ……あ。待てよ。良いのがあんぜ。クヒャ。ヒャハハハハハ』


 何を見付けたのかゲルムリッドノートが奇怪な声を出し始める。

 怪訝に眉を顰めるクルナに、ゲルムリッドノートは陽気に告げた。


『あったぜ、他人の身体を操る寄生虫や似たモンを身体から引き出すヤツ、304ページだクルナぁ。こいつはちぃとばかり消費がはげしぃ・・・・・・・けどなァ』


 言われた304ページを開く。

 そこに書かれていたのは状態異常を回復させる魔法だった。

 迷うことなくクルナはその魔法を唱える。


「我は乞うた。世界よこの理不尽を取り除く力を。我が願う。我が命尽きるともこの願い叶うことを。娘よ生きよ。我が寿命尽きるとも、お前の命は救って見せよう。あらゆる病魔よ、寄生する悪魔どもよ。等しく我が娘の身体より出でよ。【我が娘だけ救わバルバロッサ・れればいいローグレイ】」


「ぬぅ!?」


 その魔法は、たった一人の父親の願いから生まれた魔法であった。

 その当時、その世界では不治の病とされていた病気、それが病原体によるものか、寄生虫によるものかすらわからぬ奇病。

 打つ手のない男はひたすらに伝手を頼った。


 有名な医者、悪名高い闇医者、祈祷師、神父、ありとあらゆる有名な人物を呼び、娘の病を治そうとした。

 だが、一向に良くならない。

 何かないか。誰でもいい。どんなことでもする。

 だから、神でも仏でも悪魔でも構わない。

 娘を救ってくれ。お願いだから……


 そして男はソレに出会った。

 ゲルムリッドノート。

 そいつは告げた。

 その力が世界に存在しねぇなら、お前が作ればいいじゃないか。と。


 男は縋った。悪夢の魔導書に。

 そして生まれた。それがこの魔法。

 術者の存在を使い作られた全ての病魔を取り除く万能状態異常回復魔法。

 その情念があまりに強く、概念を捻じ曲げ創られたがために、彼の名が魔法名として刻まれたのである。


 男は魔法となり、娘は救われた。

 次のゲルムリッドノートを扱いし男の妻の手によって。

 だから、そこから3ページ、家族の魔法が連なっている。


 娘を救うために己の命を魔法に変えた、バルバロッサ・ローグレイ。

 娘に魔法を掛けて命を散らした妻、ハーレグウェイ・ローグレイ。

 そして、全てをなげうって消えた両親を救うため世界を旅し、命を掛けて世界を救った聖者、カタニア・ローグレイ。


 その魔法は対象に潜むそのものにとっての害悪全てを表に引き出し剥がし取る。

 当然、ラナに潜む首領といえど、その魔法に抗う術は持っていなかった。

 さらに、その魔法によって首領に命の危機が訪れる訳もなく、クルナが首領に攻撃したことにはならない。

 言霊が有効であっても問題無く発動する魔法であった。


 ラナの口から吐き出される首領がべシャリと地面に落ちた。

 芋虫の様な小さな虫を見て、クルナはほくそ笑む。


「クルナちゃん待っ……」


「死ね首りょ……」


 再び足を振り上げる。

 この首領もあいつのように潰してやる。

 そう、思った。

 クルナは足を振り下ろす。

 プチッと押し潰す。そのつもりだった。

 首領による制約のことすら頭から消えていた。


 しかし、その感覚は少しもない。

 それだけじゃない。

 いつの間にか、動かしたはずの足の感覚もなくなっていた。


「あ、あれ?」


「く、クルナ……ちゃん?」


 驚いた顔でラナがクルナを見ていた。

 なぜか口元を両手で隠し、驚愕に瞳を見開いている。

 その異様な彼女の姿にクルナは自分の身体に視線を向ける。

 そこにあったのは……下半身から光の泡と化して消えている自分の姿だった。


「な、なに……これ?」


『言っただろうクルナァ。ちぃとばかり消費がはげしぃってなぁ。【我が娘だけ救わバルバロッサ・れればいいローグレイ】は一回使うだけでほっとんど魔法化しちまうからよぉ。他の魔法一つでも使ってたらもう、完全に魔法化だっつーのゲヒャハハハ!』


「そ、それって、まさか……」


 また騙された。これは使ってはいけない魔法だ。

 探せばもっと効率のいい魔法があったはずだ。

 そう思うが後の祭りだ。

 クルナの身体は既に光の粒子と化していき、この世界から消えている状態。

 急速に、確実に、自身の身体が光の粒子として、そして文字としてゲルムリッドノートへと焼きついて行く。

 もはや悔しげに呻くことすらできない。


 首領は床に吐き出されて、後少しで届く距離。

 ラナを救う、その状況は後ちょっと、もう一押しでできるのだ。

 なのに、クルナは既に魔法を使えない。

 悔しい。志半ばで魔法に変えられるなんて。こんな結末、許せる訳が無い。


「嫌っ。嫌よこんなのっ。死にたくないっ。ラナ、助けてっ。こんなの嫌っ、嫌だよぉっ」


「クルナちゃんっ。どうしてこんなっ。首領さん、助けてっ。クルナちゃんを救ってよォ」


 今の首領は会話が出来ない。

 だから、折角吐き出された首領を、ラナは自ら飲み込んだ。

 しかし、首領にクルナを助ける術などあるはずもない。


「無理だな。奴は救えるかもしれなかったラナの手を振り切り自ら死を選んだ。ここまで末期になられては救う事などできんよ。諦めろ」


 ああ、私が死ぬ? 魔法に変えられる? そんなの嫌だ。

 クルナは叫びながらラナへと手を伸ばす。

 ただ、昔に戻りたかっただけだったのに。


 ただ、ラナと二人、野原で遊んでいた日常に戻りたかっただけなのに。

 涙を流し、手を伸ばす。

 ラナちゃん。ずっと、一緒だよと、あの時誓ったように、また、二人で……


 手が触れ合いそうになる、その直前で、クルナの全てが光と化した。

 ラナは虚空を掴み、涙する。

 共にこの世界まで連れて来られ、互いを助けようとすれ違ってしまった、助けられなかった少女の光を掻き抱く。


「クルナ……ちゃ……」


 力なく泣き崩れたラナを見ながら、クルナの全てが呪文に変わる。

 クルナは思い描く。

 帰りたい。あの幸せだった日々に、帰りたい……

 そうしてクルナは魔法になった。世界の理を歪ませた強力な魔法に。

 過去へと戻る転移の魔法。【あの頃へ戻りたいクルティアナ】に。


 聖女カチョカチュアから聞かされたクルナの結末。

 それを、王利たちはアルと呼ばれた女性から聞かされたのだった。

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