壊れゆく少女2
助けを待っていても意味は無い。
助けてくれる正義の味方など、自分には居はしない。
そう決心するのに、それ程時間は掛からなかった。
ベットから降り、久方ぶりにクルナは自分の足で歩きだす。
久しぶりに歩いたからだろうか、少しふらついた。
ラナがよく座っていたモニター画面に辿りつく。
画面に流れている文字は良く分からない。でも、なんとなくは理解してる。
ラナがこれを見て反乱がどこで起きたとか、どこそこの依頼は失敗とか、言っているのを聞いたことがある。
つまり、ここにそういう情報が流れているのだ。
クルナにはそれを知れる動体視力はないが、今、これを見ているインペリアという誰かと話せることは確認している。
通話と書かれたボタンを押しながら、慎重に声を出す。
「インペリア、聞こえる?」
「はい。聞こえます……クルナ様ですね」
「驚いた。私のこと知ってるの?」
「声帯と容姿、能力などの情報が送られております。お久しぶり、とでも言うべきでしょうかね? EC-03 インペリアと申します」
「エクファリトス・コックル……そういえばレウコクロリディウムが一機手に入れていたわね。そう、こっちの世界に来てから見ないと思ったけど、何処にいるの?」
「ラナリア地下施設にて機械兵製造と我々のラナリアネットワーク構築を行っております」
ラナリアネットワーク? と疑問に思ったクルナだが、直ぐに気付いた。
これがラナリアが情報を素早く入手する理由の一つなのだ。
ラナリア社員の持つ会員証。
そこに組み込まれているのがインペリアが作った生体機械。つまり、あの会員証が手に入れた情報、社員の状況、事細かにネットワークに垂れ流し、それが全てラナに報告されているのである。
「凄いわね……ラナはこんな奴らまで管理してるの?」
ゲルムリッドノート一人すら管理できていない自分とは雲泥の差だ。
ラナの実力を見せつけられた気がしてクルナは自分の中に黒いわだかまりが出来た気がした。
それは、ラナ相手に沸き起こるはずの無い感情だった。
だから、クルナは気のせいだと否定する。
自分がラナを妬むなんて、そんな感情がある訳がない。
ラナは親友だ。助けるべき存在だ。
だから恨んだり嫉妬するべき存在じゃないのだ。
「ところで、この施設の地下っていったけど、どうやって向うの?」
「首領やラナ様はラナ様の言霊で移動なさっておりました」
「なるほど……」
試しに、クルナもインペリアの元へ向ってみることにする。
「『遍く全ての事象よ。インペリアの元へ私を連れて行け』」
次の瞬間、クルナは自分の足が勝手に歩きだすのを自覚した。
部屋を出てエレベーター前へ。するとドアが勝手に開く。
どうやらエレベーターは下にあるようで、コードしか見えない扉の内部に、クルナはその身を投げ出した。
自由落下は、始まらない。
宙に浮いたクルナがゆっくりと降下を始める。
上昇中のエレベーターの真横を通過してひたすらに地下へ。
しばらくたった頃だった。
クルナの身体は下降を止めて、一つのほら穴へ向けて進んでいく。
青い照明、青いタイルで覆われた通路。
そこに辿りつくと再び歩きだした。
周囲を見ながらクルナは進んでいく。
こんな場所は見たことない。
でも、何かしら異常な施設へ向っているのだけは理解できた。
『なんかよぉ、お前の言霊あれば俺様、本当に使われねぇ気がしてきたぜ』
「こんなモノ、万能でもなんでもないわ。私の世界じゃ全員使えるし」
そう、全員が使えて当たり前の能力。
それがこの世界ではチートな存在であることなど、未だに実感がわかずにいるクルナだった。
そんなクルナが辿りついたのは、蒼穹の扉。
中央に丸い青色の水晶の様な物が取り付けられた扉だ。
軽く押して見ると、抵抗感なく開かれた。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。我等機械族の楽園へ」
クルナは、扉の先に見えたそれを見て、思わず顔を青くしていた。
ブルーライトに照らされて、一番奥の機械が見渡せない程に埋め尽くされた機械族。
それらが整列してクルナを出迎えていた。
代表者のインペリアが一歩前に出てお辞儀をして見せる。
紳士的な態度に、クルナはようやく硬直から立ち直った。
そして見回す。
一体、ここにどれ程の機械兵が存在しているのだろうか?
そして、レウコクロリディウムはこの存在を秘匿して何をする気だったのだろうか?
どの道、その野望も潰してやったのだと思えばクルナにとっては笑えるものであったが。
やはりこれを何の意図で量産していたのかは気になった。
ラナは、これを知っているのだろうか?
クルナはなんとなく、ラナの態度を考える。
今まででおかしなことが無かったかとか。
多分だが、彼女も知っている。
知っていて、インペリアを使っている。つまり、この機械たちは今、ラナが扱うために存在しているのだ。
それは、何のために?
そう思うと、なぜか背筋が寒気を帯びたクルナだった。




