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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
怪人 → 帰還
245/314

壊れゆく少女1

 少女は絶望の中に居た。

 折角救えたはずの親友を、悪の首領の道に向わせてしまった。

 自分が愚かな選択をしたばかりに。


 別世界で手に入れたゲルムリッドノートの情報が、この世界で手に入るはずもない。

 それなのにラナは、無意味な情報集めを行いながら、ラナリアを肥大化させている。

 ベットに三角座りをしながら、クルナはその姿を眺めていた。


 連絡用のコンピューターをいじりながらモニターに忙しなく視線を動かすラナ。

 用事がある時以外はだいたい自分で作業して逐一指示を飛ばしている。

 彼女が見ていない時はここには居ないインペリアという名前の誰かが見ている。

 話を聞く限り、レウコクロリディウム並みにラナが頼りにしている存在のようだ。

 彼女にとっても右腕かそれに類する存在なのだろう。


「ふふ。クルナちゃん。凄いよ。正義の味方もかなりラナリア所属になった。日本政府も隷属させた。これなら世界を征服するのも近いかも」


「世界? そんなもの手に入れて、どうするの?」


 思わず、冷めた声で聞いていた。

 いつの頃からだろうか? ラナはクルナの情報について口にしなくなった。

 そして代わりに彼女の口から洩れるのは、世界征服までの道のり。

 何かがおかしい。まるで手段と目的が入れ替わったようだ。


「ラナちゃん。もう、いいよ。もう、やめよ?」


「何を? 大丈夫だよ。クルナちゃんはそこにいて。私が世界を征服して、必ずクルナちゃんを救うから!」


「世界を征服して、私を救う? おかしいよラナちゃん。そんなことしても、ゲルムリッドノートは引きはがせない」


『そうだぜぇ嬢ちゃん。俺様がこんなチンケな世界でくたばるもんかよ!』


「こいつの生まれた世界に行けば情報もあるだろうけど、無理でしょラナちゃん。だから、もう無意味なことは止めよう。一緒に帰ろ? 元の世界へ。村で過ごそ?」


「ダメだよ。世界を征服しなきゃ。クルナちゃんを助けるんだ。私が」


「だからっ。なんで世界を征服しなきゃならないの!? おかしいよっ。正気に戻ってラナっ。私、私もう、ゲルムリッドノートは使わないから。精一杯生きるから。お願いっ。一緒に、一緒に静かに暮らそう。ラナちゃんッ」


 泣きながら、クルナは身体を縮込ませる。

 もう、限界なのだ。

 これ以上、クルナには耐えられない。

 ここに居たらラナがおかしくなってしまう気がして、クルナはラナを止めたかった。


「あ。そろそろ会議の時間かぁ。じゃあインペリア、後頼むね。それじゃクルナちゃん、私行ってくるね」


「待ってっ、ラナちゃ……」


 クルナが思わず身を乗り出し手を伸ばすが、ラナは気付かず部屋を出て行ってしまう。


「壊れてく……なんで。どうして? 首領を殺せば終わりじゃないの? 平和な元の世界に帰って幸せに暮らせるんじゃないの?」


『そりゃあ無理な相談だぜぇクルナァ』


「黙れッ。黙ってよッ! 誰もアンタに話しかけてなんてないんだからッ」


『つれねぇこと言うなよマスター。俺様とクルナちゃんは今繋がってんだぜ?』


「気持ち悪いこと、言わないで」


『俺様の白紙じゃねぇ最後のページ、見てみなぁ』


 ゲルムリッドノートの言葉に、クルナは何があるのよ。と猜疑心を持ちつつ開いてみる。

 そこには、魔法の記述が合った。

 書きかけ・・・・の魔法の記述が……


「こ、これって……」


『理解、できるよなぁ? 何せ、お前の魂使って書かれてんだからよォ』


 それは、クルナにだけ理解出来るモノだった。

 自分の存在を使って書かれた魔術の使い方。

 名前も、効用もまだよくわからない。でも、確実に少しづつ。穴あきで白紙が黒い文字に浸食されている。

 それが、自分が失った何かである事を、クルナは本能で感じ取った。


「……返して」


『無理だぁ。こりゃあ魔法の代償に俺が貰ったもんだからなぁ俺様のものだ』


「返してッ! 私を返してよッ。いや。こんなの嫌ぁッ!!」


『ヒャハハハハハハ。なーにもう幾つか魔法使やぁそんな思いもしなくてよくなんぜぇ。それに偉大な魔道書に記述されし新たな魔法の一ページを担えんだ。感謝してほしーくれぇだね!』


 ぽたり。魔導書に雫が落ちた。

 クルナの瞳が涙で滲む。

 こんな結末、望んでいなかった。


 助けたかった。助かりたかった。首領の束縛から抜け出し、ラナを救って、元の世界へ戻る。

 そこで、静かに暮らす。

 それだけが望みだった。


 高望み等ではないはずだ。

 ただ静かな暮らしに戻りたい。それだけの、そんなささやかな願いなのだ。

 でも、もう、それは叶わない。


 親友はこの世界の秘密結社の首領となり、少しづつ変わっている。

 自分も、邪悪な魔導書に誘惑され、徐々に魔法に変えられている。

 このままいけば、きっと自分たちには絶望しかなかった。


「助けて……誰でもいいから……誰か……お願い……――」


 少女は一人、慟哭する。

 その悲痛な声を聞く者は、誰も、いなかった。

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