ラナリア浸食中3
「えー、それでですね、日本政府としましては……テロリストに屈する気はないといいますか、いえ、ラナリアがテロ組織ではない事は十分に理解しておるのですがね、そのぉ……」
本日、ラナは日本政府からの使いを名乗るラナリア親善大使とかいう人間との会談に臨んでいた。
会議室に通した彼は、少し小太りのおじさんで名を但馬 意次と言った。
脂汗なのか冷や汗なのか、とにかくタオルで汗を拭きながら必死に分かりにくい言葉でのらりくらりと説明をしてくれていた。
幾つか問題発言もあったが、ラナとしては問題が無いのでスルーしている。
「わかりますよ但馬さん。つまり、国民の声が必要なのでしょう。このような決断、政府が出せる訳がない。よって議論ばかりで先延ばしになる事は想定しております」
「それは助かります、ですので我々としましては心苦しいですがラナリアを悪の組織として正義の方々とその……」
「あなたでは話にならないことがわかりました。なので、国会に出席することをお許しください、そこで発言致しましょう。我がラナリアがどんな組織か。実際に国会で話させていただきます」
「な、何をいいますか。国会とは議員が話し合う場です、あなたは国民ではあれど議員では……」
「『但馬意次。私を国会に、連れて行きなさい』」
「はい。必ずや!」
良い返事だ。そう思いながら立ちあがった但馬と共にラナは動き出す。
ここからがラナリアの本番だ。
国会に辿りついた時、ラナリアは日本の機構に組み込まれる。
日本はラナリアを肯定する。
それはすなわち、悪から外れ表舞台の企業として認知されるのである。
正義からの討伐対象から外される。
日本政府公認結社なのだから、それを討伐するのは正義ではない。それは政府に盾付く悪である。
バグレンジャーはラナと休戦をしているから手を出せないとやきもきしているだろうが、もう、こちらはチェックメイトまで後少しなのである。
そしてラナリアが日本政府に認められた時、ラナリア改めインセクトワールド社は正義の味方から攻撃をされることなく日本を掌握した初の秘密結社となるのである。
但馬の後を歩くラナは、フード付きのローブを纏う。フードを被り、口元をにやりと歪ませた。
その日、国会中継はあり得ない議題とその可決を全世界へと放映した。
議題を述べる存在に、なぜか国会に出席しているラナリア首領。
そして告げるのだ。
ラナリアを日本政府公認にすることを今ここで決めてもらうと。
「では、『この場の全員』に告げる『ラナリアを公認して』も良いと思う者だけでいい。『立つがいい』」
結果、ラナリアを全員が公認して立ちあがるという反対票ゼロの異例の可決がなされた。
これがどれほどおかしなことであれ、法案として可決してしまえばそれが法律となる。
衆議院でも、参議院でも同じことが行われた。
結果、いつもねじれるはずの国会に置いてこの可決だけは早急に決まったのである。
あり得ない。そう思う者が多い中、誰も彼もラナリアが日本公認となる事実を止められないでいた。
これを知った正義の味方は皆ハンカチを噛んで口惜しがる程だったが、すでに日本公認組織となったラナリアを襲撃するわけにもいかなくなった。
そして、悪のあぶれた怪人たちの多くがラナリアへと入り、急激に規模を大きくさせて行った。
粛清は殆ど行わなかった。
首領の圧倒的な力を恐れ、誰も彼女が告げる禁忌を犯そうとしなかったのが原因だ。
確かに、一部血気盛んな怪人たちが反乱を起こしたりもしたが、まさに一瞬で鎮圧され、それが全世界に放映されるとあっては、もはや首領に逆らおうとする部下は存在しなかったのである。
ラナリアは、おそらく今の世界で最強の悪の組織であった。
否、正義の味方が手を出せない上に、民衆からも人気の高まったその結社を悪と断じて良いのかどうか、しかし、確実にラナリアが行う仕事には悪と呼べるものが存在していた。
それでも裁くことは出来ない。
日本政府が告げてしまったのだ。
ラナリアを政府が擁護すると。彼らの必要悪を認めると。
正義の味方がかの結社を攻撃することを禁じると。
彼らが気付いた時には、既に日本は掌握されていた。
ラナという名の一人の少女によって、知らない間に征服されていたのである。
だが、それを覆すこともできない。
ラナリアを断罪する事はすなわち、日本から犯罪者として断罪されることを意味しているからである。
正義の味方が悪と断罪される。
これほど屈辱的な事は無い。
怪人であるのにラナリアの怪人たちは正義の味方から殺されることが無いという免罪符を得たに等しかった。
ラナはそこまでの仕事を終え、ようやく一息ついたと自室で椅子に背持たれた。
ふぅと息を吐きだしクルナを見る。
「私、がんばるよクルナちゃん。世界を征服してでも、クルナちゃんを救って見せるから」
そう、告げながら、しかし口元は微かに笑みを浮かべていた。




