ラナリア浸食中2
奉禅寺 鐶は本日、ラナリアの怪人が一人、怪しい動きを始めたと仮面ダンサースワンから連絡を受け、単独行動を行っていた。
バグレンジャーは休戦協定を継続しているためラナリア首領には手を出せず、その組織であるラナリアを警戒こそすれ放置状態なのだが、新人である彼女にはその制約は無いと言っても良かった。
仮面ダンサースワンと組ませて貰っているので新人の独断と言ってしまえば言い訳が立つのだ。
とはいえラナリアからも叛逆した怪人については討伐しても構わないと言われているのでそこまで正義の味方としての規範を問われる警戒はしていなかった。
「スワン先輩、アレ、ですか?」
「ええ。さっきからずっと、あんな感じよ。ダスト・ブリンガー。もともとベストフレンズ社に所属していた……おそらくスパイね。血の気の多い奴だから嫌気が差したみたい。先程通信機にどなり散らしていたわ」
彼女等の視線の先には男が一人。
ダスト・ブリンガーと呼ばれる廃材を元に作られた怪人だった。
ゴミを集める能力を買われてよくゴミの集配業者に指名依頼を受ける彼は、やはりそういう仕事が嫌になったようだ。首領に直談判してつい先ほど、好き勝手やらせて貰うとタンカを切った所だった。
「さて、裏切りを行ったからにはラナリアから刺客が来るだろうが、それまでに奴がやらかすはずだ。先に潰させて貰おう。ラナリアを悪の結社だと断罪する言い訳になる」
「はぁ。でもいいんですかね。折角良い道を歩きだした結社ですし、むしろ放置していた方が世のためになるんじゃ……?」
「確かに、ラナリアは凄いわ。超人的な力を持つ怪人をヘルパーとして雇う人材派遣。それはもう重宝するでしょうね。でも、落とし穴があるの……解るかしら?」
「え? 落とし穴ですか?」
「怪人を雇うっていうのは人を雇うのとは違う。しかもタダで雇えるなら雇い主からすれば怪人を雇って人よりも良い働きをして貰った方が大助かり。でも、その分働き手が無くて良くなる。ならあぶれた人手はどうなるの? 確かに業者には大助かりね、でもその下働きにとってはどう? 自分たちより超人的な存在が、賃金の必要無く自分たちの仕事を取って行く。それって、お払い箱よね?」
「怪人たちに全て任せてしまえば仕事がなくなる? それじゃ……」
「怪人派遣が主流になればなるほど一般人の生活が困窮していくわ。そこが麻痺すれば企業にダメージが跳ねかえる。あぶれた人は仕方なく生活をするためラナリアで怪人になる。ラナリアの社員が増えさらに人材派遣の需要は伸びる。そのうち日本はラナリアに屈服せざるを得なくなる。そうなった時、ラナリアは本当の姿を現す。私にはそう思えてならない。だから、いくら慈善事業に見えてもラナリアは立派な悪の組織。迂遠な行事だからなかなか気付けないけど、狙っているのは日本転覆か、世界征服か。どっちにしろ厄介な敵ね。断罪のタイミングを間違えると民間人を、世論を敵に回しかねない」
そこまで考えてるのかな? 鐶は首を捻りながらもスワンの言葉に同意しておく。
「!? 待って、今、何時の間にあのローブは現れた?」
それはおそらく瞬きの間だった。
気が付けば、ダスト・ブリンガーの目の前に、ローブ姿の人間が一人、立っていた。
彼も気付いて無かったようで、目の前に出現したそいつに驚いている。
「て、テメェ!? いつの間に現れた? まぁいいどうせラナリアの先兵だろ。変身しちま……」
「『唐住隆志……爆ぜろ』」
それは女の声だった。
冷徹に、なんでもないように、たった一言言葉を発す。
刹那、ダスト・ブリンガーの身体が膨れるようにして、弾け飛んだ。
その光景を、鐶はただただ呆然と見ているしかなかった。
一瞬後、用事は終えたとばかりにローブの何者かの姿が消え去る。
街中の一角の出来事だった。
人通りは少なかったがまばらに存在し、全ての人間が狐につままれたようにその光景を魅入っていた。
皆、しっかり目撃していたにも関わらず、目の前で起こったことが信じられずに呆然としている。
スワンですらも、一歩も動くことすらできていなかった。
唐突に現れたローブの誰かは、たった一言で反乱者を鎮圧して見せたのである。
鐶は思わず自分の頬をつねる。痛かった。
「スワンさん、私、白昼夢見ました?」
「いや、現実だ。バグレンジャーなら聞いているだろう。ラナリア首領の能力を」
「じゃ、じゃあ今のって……首領自ら?」
「らしいわ。おそらく見せしめね。これ以上ラナリアを裏切るならこうなるということを、自ら動いて実践した様ね」
鐶は先程の現象を思い返す。
言葉一つで爆殺させる言霊という秘術を持つラナリア首領。
アレが本格的に敵対行動を取った時、自分は、正義の味方は、彼女を倒す事ができるのだろうか?
戦慄に汗が伝う。鐶は自分が選択した正義の味方の過酷さを改めて認識させられたのだった。




