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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
聖女 → 魔法
234/314

黒の聖女

「お待ち……しておりました。王利さん」


 その声は、余りにも歓喜に満ち溢れていた。

 王利がここへ辿りつくことを既に知っていて、約束の期日がようやくやってきた様な、ついにこの日が来たという感嘆を交えた喜び。


 そのローブの女性は、王利より背が高く胸も大きい。

 だが王利はその人物を知らない。

 聖女がそのフードを取り去る。


 黒髪の綺麗な女性だ。

 幾度もの試練を越えたのか、精悍とも呼べる顔付きに、希望を見出した瞳。

 なにより王利への信頼感が見て取れる。

 けれど、その姿に見覚えのある人物は無かった。

 だが、目を見張るものがある。


 右腕に付けられた腕輪。それは、王利が今している腕輪と同じモノだ。

 異世界転移の腕輪。それが今、王利の腕、新しく作られた腕輪、そして聖女の右腕の三か所に同時に存在していた。


「驚いていますね。ええ。そうです。これは正真正銘、王利さんがしている腕輪です。別の腕輪ではありません。私は……森本王利からこの腕輪を託されし者。今はカチョカチュアと名乗っています」


「カチョカチュア? 聞き覚えは無いな。それに俺から託されたって……」


「はい。私は未来から、全てをやり直すためにやって来ました。こうして再びあなたに会える日を、ずっと、ずっと待ってました。今、この時、この場所にあなたが来てくれるのを、そしてこれから先、私の知らない未来を、私が体験した絶望から救ってくれると期待しています」


「買い被りすぎじゃないか? 俺はただの秘密結社の怪人だ。誰かを救えるような存在じゃないぞ?」


「存在なんです。あなたは。あの時、私を救ってくれました。もう、死を覚悟した私を、そして、クルナちゃんを救おうと、最後まで一緒に努力してくれたのも、あなたでした」


「クルナ……ちゃん? おい、お前まさか……」


「改めて初めまして。カチョカチュア、いえ。ラナと言った方が分かりやすいでしょうか」


 そう言って近づいてきたカチョカチュア、いやラナはばっと、王利に抱きついた。

 彼の胸に顔を埋めるようにして、そのまま泣きだす。

 いきなりのことにどうしていいか分からない王利とエアリアル。

 エアリアルも止めに入るべきかどうなのか、少女の思考が読めないだけに困った顔をしている。


「しばらくそのままにさせてやれ。そいつは今まで一人でこそこそ動いていたらしいからな」


 もう一人のローブの人物が告げる。

 その声は凛々しいながらも女性の声だった。

 この人物こそ聞き覚えが無いので王利は首を捻る。

 が、こっちは自己紹介をするつもりすらないらしい。


「あなたはなんなのよ? 聖女に従者がいるとか聞いて無いんだけど?」


「私は契約者だ。ある目的をこなす代わりにカチョカチュアの手伝いをする事にした。気は進まんがお前らを護衛してやる。ありがたく思え」


 エアリアルの質問に上から目線のローブの女。

 エアリアルがいけすかないとか喚きだしたが、女はふんと鼻を鳴らすだけだ。意に介していない。

 少し落ちついたのだろうか? ラナが王利から身体を離す。


「え、えぇと、とりあえず色々聞きたいことはあるんだけど、確か一目見たラナは黒髪じゃなかった気が……」


「染めました。クルナちゃんと同じ黒髪です。クルナちゃんを忘れたくなかったから……」


 ふっと、影を落とした聖女の顔に、クルナとの間に何かがあったと察する王利。

 しかし、面識が余り無い王利としては二人に何があったのか理解は出来なかった。


「未来から来たって言ったよな。えと、どうやって……」


「それも含めて、今からご説明します。私がこの時代に戻ってきた理由。そして行いたいこと。やらなければならないモノ。だから王利さん。お願いします。クルナちゃんを、ゲルムリッドノートから救ってくださいっ!!」


 ふかぶかと頭を下げる聖女様。

 王利は未だに理解が追い付いていなかったが、相手がラナだと言えば顔見知りだ。

 さらに言えば自分の上司である首領のせいで人生を誤らざるを得なかった少女なのだ。

 同情とか以前に罪悪感が一杯だった。


「まぁやれるだけはやるけどさ。俺にできるかどうかは……」


「大丈夫です。その為に私は今まで生きて来たのですから。そして、出会えた。私の勇者様に」


 そう言って微笑む聖女は、なるほど、確かにラナの顔によく似ている。

 いや、同一人物らしいのだが、王利が一度見たラナの顔とそっくりに見えたのだ。

 けど、納得いかない女が一人。エアリアルが誰の勇者だと憤慨しながら聖女に向って行く。


「ちょっとあんた、聖女だかラナだか知らないけど私を放置して王利に……」


いくさに行くさ」


 が、エアリアルが何かをしようとするより早く聖女から洩れた謎の言葉。


「……いくさに、いくさ? ぷ……ぶふぅっ!?」


 なぜかエアリアルのツボに嵌ったらしく笑い転げるエアリアル。

 呆れた顔の聖女は王利に向き直る。


「第二十三世界の住民は笑いに飢えているのでこんなもので笑い転げます。さぁ、彼女の邪魔が入らない内に話させていただきますね」


 エアリアル取り扱い説明書でも持っているかのような鮮やかな手並みでした。

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