第二十六世界
「ここが?」
そこは、見覚えのある風景だった。
王利もエアリアルも、周囲を見回し、自分たちが第二十六世界に本当に来たのか思わず首を捻る程だった。
「王利、ダイアル本当に二十六? 実は四になってない?」
「いや、ダイアルはあってるみたいだ。なんで……インセクトワールド社本社が存在するんだ?」
王利の踏みしめているのはアスファルト。目に見える範囲では1km程は続いている。
が、そこで途切れて先は見えない。虹色の空間がその先を覆い隠している。
まるでインセクトワールド社周辺のみをこの世界に区切り取っただけのような世界観だ。
あとは虹色の空間に阻まれ消えている。
空は、青い。
第四世界のように青く澄んだ空に幾つかの雲が流れている。
が、それも区切られた地上の区画と同様、一定の場所まで行くと虹色の靄の様な物に隠れて消えている。
「うーん。とりあえず、第四世界でないことは確か、かな?」
「第五世界とも違うな。なんだろう? ここだけ存在する意味は一体何だと思う?」
「分からないけど、入ってみたら分かるでしょ。向こうは待ってるんでしょ? だったら罠は無いと思うけど?」
一応、警戒しながら、本社へと入る。
驚いた。
人がいたのだ。
見知らぬ人だが、無数にいた。
怪人だって歩いていた。
二人組のサラリーマン風の男と羊型怪人が談笑しながら王利の横を通り過ぎ、エアリアルに追突。
そのままエアリアルを透過して入口から外へと出て行ってしまう。
「なんだ、今の?」
「投影……これは多分、今現在第四世界で動いてる人たちの影を投影してるのよ」
「なんだそれ?」
エアリアルは自分だけ納得いったように頷く。周囲を飛び回り、幾人かの人々に突撃して行く。
全てすり抜けて行くエアリアルは、一通り飛びつくすと王利の元へと戻ってきた。
「つまり、この世界は映像よ。第四世界の情景が流されているだけ。わかる。テレビを見ているようなものよ。体感型だけどね」
つまり、最近話題のリアル体験型MMORPGとかいう奴の触れられないバージョンという奴か?
王利がそう聞いてみると、まぁ似たようなモノよとエアリアルが可哀想なモノを見る目で告げた。
「さぁ、こんな映像見るために来た訳じゃないでしょ。行くわよ」
「あ、ああ。でもどこに?」
「ボスと煙は高い場所よ!」
「そんなもんか?」
と疑問を呈する王利だが、実際問題首領の部屋も高い場所にあった。
そうだ。首領の部屋。あそこが怪しい。
王利はふと思ったのだが、同時にもう一つの可能性も思い出した。
「確か中間の場所に謁見の場があったな。あっちの可能性もあるか」
「じゃあ近い方から行こう」
「まぁ、いいか」
王利とエアリアルはエレベーターに乗り込む。とりあえず目指すは謁見の間。
さて、何が出て来るか。と不安になりながらエレベーターで二人階層表示だけを見つめる。
やがて、懐かしい音と共に王利たちはその階層へと到達した。
少しある廊下を歩いて荘厳な扉を前に深呼吸する。
扉の前には二人の戦闘員。
共にここを守護している栄誉ある戦闘員だ。もちろん幻影だけど。
ぎぃっと音を立てて王利は扉を開く。
赤い絨毯が敷かれた大広間。
目の前には三つの段差があり、その先に荘厳な椅子が一つ。
椅子の手前にはカーテンが二つ敷かれており、この二重カーテンで首領のシルエットだけが映る仕組みになっている。
そんな仕組みのカーテンに人影。
誰かが座っている。
その横にはもう一人、誰かが居るのが分かる。
そして、影じゃない。息遣いが聞こえる。
「お、おお。ビンゴっぽいよ王利」
「らしいな。行くぞエアリアル。いつでも逃げられる準備はしといてくれ」
「おけい!」
王利とエアリアルは赤い絨毯を歩いて行く。
気分は魔王に挑む勇者。あるいは悪の首領に立ち向かう正義の味方か?
王利の役柄から言えば全く間逆の状況だ。
「ふふふ。よく来たな愚かなる下位存在の者よ。我はインセクトワールド社首領である」
「い、いきなりなんか言ってるよ王利、どうするの?」
「三文芝居は止めてくれ。首領はそんな言葉使いはしない。インセクトワールド社の社訓として死亡フラグを言ってはならないという絶対条件がある。それに首領の場合、そこはふふふではなくクククだ!」
刹那、声が止まった。
気分を害したのか、それからずっと動きが無くなる。
どうしたものかと思った王利だが、仕方なくさらに近づくことにした。
カーテンの前に立つ。相手の動きは無い。
カーテンを掴み、一気に開く。
そこにはもう一つのカーテン。
そしてその先に、二人の人物。
王利は二つ目のカーテンを掴み、開いた。
現れる二人のローブの人物。その姿を見て、王利は思わず息を飲んだ。




