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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
エルフ王女 → 第四世界
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魔王四天王、炎鳥トリルトトス・後篇

 トリルトトスはその場にいる誰彼関係なく、大きく息を吸い込み、炎の吐息を吐き付けた。

 幸い、距離の離れていた首領とエルティアは範囲から逸れていたが、それでも熱気だけは避け切れず、暑さに悲鳴を漏らす。


 リベルレとシャークも範囲に入ってはいたが、リベルレが即座にシャークを連れて緊急回避をしていた。

 歴戦の猛者であった彼らにとってこの程度の不意打ちなど回避するのはたやすかったのだ。

 結果、直撃だったのは王利だけだった。


「ふはははは、我が6000℃にも及ぶフレアブレス、ひとたまりもあるまい」


 得意げに高笑いを浮かべるトリルトトス。

 灼熱の炎にあぶられる王利は、しかし、思わず安堵の息を吐いていた。

 確かに、普通の人間ならば死んでいただろう。


 元になった生物でさえ摂氏150℃程度しか生きられない。

 しかし、そこは改造人間なのである。

 元の生物と人間とを掛け合わせることでその何倍の温度まで耐えられる身体を手に入れている。


 特に王利を改造した連中は天才的で、あまりにも間抜けだった。

 確かに、今の王利の身体でもこの温度で生き残るのは不可能だ。

 なればこそ、生命の危機を感じ取った身体は、自動的に生命維持を選択する。


 体中の水分を一瞬で吐き出し、王利の意識は途絶えた。

 これこそが王利の怪人としての真骨頂である。

 乾眠≪クリプトビオシス≫と呼ばれる生存能力の発動だった。

 自らの体内にある水分を極限まで放出する変わりに、通常活動状態では生存できない環境であれ生き残る形態。俗に言うミイラ化である。

 ただ……乾物化してしまったので、これでは自力で動けない。

 水が無ければ雨が降るまで干からびたままなのである。


「おい、エルフの娘」


「は、はい?」


「水を出せるか?」


 王利に吹きつけられた炎を見て、首領は即座に判断した。

 エルティアの魔法に賭ける。


「水……ですか? そのくらいなら……」


「炎が消えたらW・Bに水をかけろ。即座にな」


「わ、分かりました」


 炎が消える。

 いまだ大気は揺らめき、地面は焼けているが、その中心にあるカサカサに萎れてしまった樽のような物体を見てトリルトトスは笑った。


「所詮はその程度か、我が出張るまでもなかったな」


 嘲笑を続けるトリルトトス。

 周囲に視線を走らせ、先程焼き殺した者と同じような容姿の二人に目を止めた。


「次は貴様らだッ」


 息を貯めるトリルトトス。

 バグシャークは舌打ちすると自分を抱えるバグリベルレに視線を向ける。

 即座に交わされるアイコンタクト。

 炎が吐きだされる瞬間、バグリベルレは急上昇。

 トリルトトスよりも高く舞い上がる。


 バグリベルレは蜻蛉の改造人間だ。

 その特性にとって最も脅威なのは、急上昇である。

 普通、飛ぶという行為は、自らの身体を風の道に乗せる行為である。


 吹く風の通り道に身体を浮かせ、上昇気流を見つける。

 そこから先はその気流に乗る事で、旋回しながら上昇するのである。

 これは鳥が飛ぶ時に行う行動で、急激に真上に飛び上がるという動作は殆ど見られる事はない。

 その急上昇を行えるのが、昆虫にして空のハンターと呼ばれる蜻蛉なのである。

 

「小癪な」


 吐きだされた炎はバグリベルレを追い空中へと散布され、しかし、バグリベルレを焼くには至らない。


「精霊の水流ソウル・スプラッシュ


 不意にトリルトトスの耳に、声が届いた気がした。

 しかし、炎を掻い潜り近づくバグリベルレを落とす方が先決だった。

 さらなるファイア・ブレス。それを紙一重で避けるリベルレ。

 トリルトトスに肉薄した刹那、抱えていたシャークを投下する。


「クタバレクソ鳥野郎ッ」


 大きく口を開いたシャーク。

 眼前へと迫った鮫のアギトに、トリルトトスは声にならない咆哮を上げる。

 炎を吐いた直後だったせいもあり、ろくに防御も回避もできず、顔面に喰い込む鏃のような牙の群れ。


 肉に喰らいつく無数の歯。

 鮫のソレは口内に無数に存在し、何度折れても替えが利くよう予備の歯が折れた先からせり出す。


 トリルトトスの体表は灼熱に包まれ、シャークの歯でさえ耐えきれるものではなかったが、全ての歯が溶けきるより、トリルトトスの顔半分を千切り取る方が早かった。


 肉を引き裂く嫌な音。頭蓋を噛み砕く音に。思わずエルティアが目を背ける。

 灼熱の皮膚で自身が焼けるより早く、シャークは食いちぎった肉片を吐き飛ばす。


「グ……オオオオオオオオオオオオオオオッ!?」


 落下するバグシャークがバグリベルレによって受け止められた頃、ようやく襲って来た痛みにトリルトトスが絶叫を迸らせる。

 やりましたね兄さん。と地上に着地した時だった。

 トリルトトスの身体から炎が噴き出す。


 怒り心頭のトリルトトスは、咆哮と共にバグリベルレ目掛け急降下。

 慌てたバグリベルレが高速移動で回避するも、上昇と落下では加速度が違う。さすがのバグリベルレでも回避は間に合いそうになかった。

 そして、おそらく体当たりを喰らった時点でバグリベルレもバグシャークも身体が焼かれるような衝撃を受けるだろう。


 もちろん、彼にとってバグリベルレたちが危機に陥ろうが関係ない。

 そう、森本王利にとってそれはチャンスでしかない。


 それでも、トリルトトスを潰す機会は今が一番だといえた。

 地表に近づくトリルトトスに、影もなく忍びよる。

 燃え盛る体表目掛け跳びかかると、鉤爪をがしりと腹に喰い込ませた。


 驚いたのはトリルトトス。

 高熱を発する彼の体に、組みついてくるモノ好きな奴が居るなど予想外だったのだ。

 王利はそのまま鉤爪を突き刺しトリルトトスの体をよじ登る。


 鳥の外表を持つトリルトトスは、高温であるからこそ接近戦対策は全くしていない。

 確かにトリルトトスの身体は高温で、常時100℃を越えている。

 しかし、それは王利が乾眠化するほどの温度ではなかった。

 組みつかれれば払い落すことなど不可能だった。

 さらに相手が自らの肉体に楔を打ち込み固定されてしまうと、もう相手が成すがまま、トリルトトスに反撃の機会は無くなってしまっていた。


「は、離れろ貴様ァッ」


 トリルトトスは降下を止め、慌てるように上昇する。


「喜べ鳥野郎。このままお前の首を掻き切ってやる」


 少しずつ、着実に。

 空へ逃れるトリルトトスの喉元へと登山を開始する。


 王利に改造人間や魔物と戦える攻撃力は殆どない。

 それでも、相手の喉元を掻き切るくらいはできるのだ。

 それはまさしく寄生虫のように、ゆっくり、ゆっくりと相手の命を刈り取る。

 逃れようと、のたうとうと、確実に、辿りつく。


 トリルトトスが彼の攻撃を逃れるためには、それこそ自らの命を絶つくらいでなければ倒せない。

 身体を地表にぶつけて相手を押しつぶそうにも、既に喉元近くを昇っているのだ。そんな場所を地面にぶつけようとしても、トリルトトスの方がダメージが大きすぎて無謀だった。

 だからこそ、空中で激しく暴れる以外に彼が打てる手はなかった。


 しかし、鍵爪によりトリルトトスの肌に食い込んでいる王利にとってはその程度の振動で振り落とされることなどなかった。

 やがて、王利はトリルトトスの当然の如く喉元へと辿りつく。

 その道程には、点々と付き刺された後からトリルトトスの血液が滴っていた。


「魔王四天王、二体目撃破だッ」


 丁寧に、的確に、トリルトトスの命を刈り取る。

 気管を裂かれ、声にならない叫びを漏らす。

 王利を未だ張り付けたまま、トリルトトスは急速に落下を開始する。

 血泡を吐き散らすトリルトトスはすでに事切れ、体勢を整えることもなく、大音響かせ地面と激突した。


「やりやがったあの野郎……」


「懐入られたんだから当然です兄さん」


 安全を確認して再び地上に降りたバグリベルレとバグシャーク。

 地面に大穴を開けたトリルトトスに警戒の視線を送る。

 しかし、すでにトリルトトスが起き上がることは無いと、同時に確信していた。


「あの巨体と地面に挟まれても、無事なのよね……きっと」


「勝てると思うか?」


「パピヨンが居てくれたらなァ。それかアントでもいいけど。硬過ぎて兄さん食べられないでしょ」


「おそらくな。まぁやってみんとわからんが」


「一度引きましょ。対策を考えなくちゃ」


「クソッタレ。俺が引くとか逃走の時以来だぞ」


「相手は腐っても首領と側近。簡単にいかないわ。それより、今の状況を調べる方が先ですよ」


 何かを勘違いしているバグリベルレはバグシャークを連れて再び上昇。

 王利たちに気づかれないうちに撤退を開始した。

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