第二十五世界
ついに、来てしまった。
王利は世界転移を終えたその場で周囲を見回す。
ここもまた不思議な世界だ。
というか、見覚えのあるモノしかない世界観だった。
自分の足元に雲がある。
雲の上に立っている。
まぁそういう事もあるだろう。
異世界なのだ。雲の上を歩けても別段おかしなことはない。
が、直ぐ真上に天井のように海面があれば別である。
もはや意味不明の世界観に倫理観が崩壊しそうだった。
地面の部分に空があり、空の部分に海がある。
自分の真下を太陽のようなモノが六つ程あって眩しく照らしてくる。
正直眼を開けていられないくらい眩しいのだが、眼が眩むほどではない。
「ここも空気があるのか?」
「ないと思うよ。王利のしてる腕輪の御蔭で私達は普通に動けてるだけみたい」
どうやらこの周囲には空気が無いらしい。
真空状態、つまり宇宙と一緒なようだ。
やはり今までの世界も腕輪の効果で皆が動けていたらしい。
「しっかし、また辺鄙なところだね?」
「この雲、途切れてる場所は歩けると思うか?」
「私は浮いてるから問題無いけどそれは知らな……ほわぃ!?」
突如、世界がぐるりと回った。
驚く王利たちを取り巻く環境が一気に変わっている。
真下に広がる暖かな草原。
雲は跡形もなく消え去り緑の大地が彼の足に踏まれていた。
なんなんだ? と混乱しつつ上を見上げれば、先程の大海が消え去り遥か頭上に見える一面の銀世界。
しかも吹雪いているようで、王利の場所にまで雪がちらつきだした。
「なんだかすごい環境の変化だね~」
「俺はもう驚かない。この世界はきっと何でもアリなんだ」
被りを振って王利は歩きだす。
しばらく歩くとまた世界がぐるりと回る。
空に宇宙、地面に塩田。凄く神秘的な世界になった。
「これは……すごい」
「あは。やっぱ付いて来て良かったよ。こんな世界を見るのは初めてかも」
綺麗な世界だと思わず見とれる王利とエアリアル。
自分の姿が写り込む塩田は空の瞬きを反射していっそ全てが宇宙空間の様な世界を見せていた。
月光が優しく王利たちを照らしている。
「月光? 月がある……」
「おお、アレが知識にあった月? ってここ地球じゃないよね?」
エアリアルがどうでもいい疑問を口にした瞬間、またも世界が変化した。
地面は鬱蒼と茂る密林。空には噴火中の活火山と流れる溶岩流。
噴煙や噴出したマグマが密林の木々に燃え移った。
「って!? この状況はヤバいだろ!?」
突如火の粉で燃え上がる密林。
一気に火が付き燃えるジャングルへと変化した。
慌てて駆け出す王利とエアリアルだが、密林全体が燃え上がった状況では逃げ場などなかった。
灼熱の業火に焼き尽くされ、密林に巣くっていた全ての生命が死に絶える。
世界が変化を迎える。
じりじりと世界を焼く様な熱砂地帯の大地。
空に輝く凍結世界。
吹雪すら凍りついた絶対零度の世界を見たエアリアルは、はっと気付いて隣の王利を見た。
「王利、大丈夫だった!? 今の炎私は平気だけど下位世界のあなたは……ほわぁっ!?」
そこには、王利は存在していなかった。
かさかさに干からびた樽の様な何かが風に吹かれて転がっている。
「お、王利が死んだぁぁぁ!?」
慌てて駆け寄り砂漠を転がる王利だったモノを追うエアリアル。
熱い砂漠の熱も絶対零度の上空に冷やされ少しずつ過ごしやすくなって行く。
「えっと、王利の記憶じゃこれは死んだことにならないんだよね。水があればいいんでしょ。でもでも水なんて……そういえばさっき海みたいな天井あったよね。ってことはそういう世界になったら王利が自動で甦るわけね!」
エアリアルは王利を見失わないように風で移動する王利を追いながら変化を待つ。
世界再び変化。
地面が宇宙空間に。空が鍾乳洞見たいな天井に。
宇宙空間を漂うように漂流しだした王利の乾眠体にへばりつきながらエアリアルはただただひたすらに変化を待った。
しかし、次の変化も、その次の変化も王利を救う世界にはならない。
自分が水を操れる概念を持っていればと悔やむエアリアルだったが、次の瞬間、ついに待ちに待った世界が出現した。
地面、川? 空、暗黒。
どこからどこまで続いているのか視界一面川になり、流され始める王利。
水を取り込んだ彼は即座に乾眠から目覚めるが、いきなり足も付かない水攻めに会っている自分に気付いて慌てて身体をばたつかせる。
「王利、捕まって!」
小さな身体で王利に近づいたエアリアルが王利の指を掴む。
「私の能力でどこまで通用するか分かんないけ……どぉっ!」
風を操ったように王利の身体がふわりと浮き上がり川の上空へと引き上げられる。
「おお、やはり概念が風精霊だから風を操るのは上手く行った」
「さすが高位存在。でも助かった。ありがとうエアリアル」
「んっふっふ。もっと褒めるがいい。悪くない気分だよ」
得意満面に言いながら、エアリアルは空を見る。
そこには何も映さないただ黒い世界が広がっていた。
「なんていうか、全ての世界を詰め込みましたって感じだね」
「目まぐるし過ぎて付いて行けそうにないよ。早く管理者って奴に会いに行こう」
エアリアルの能力で浮遊しながら王利たちは管理者を求め世界を彷徨うのだった。




