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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
ラナ → ラナリア
223/314

ある怪人の転換期

 その男は、小さな秘密結社の怪人だった。

 初の戦闘で正義の味方と引き分け、なんとか生き延びた彼は、少しづつ闘いに慣れていき、撤退方法を学んで行った。

 だから、生き残ることに関してはその結社一となっていた。


 先輩怪人が、後輩怪人が正義の味方に倒されて行く中、彼だけは必死に撤退し、生き延び、やがてその結社の最古参になっていた。

 だが、そんな彼も危機は訪れる。

 ついに秘密結社の本部がバレたのだ。


 逃げ場のない本拠地へとやって来る正義の味方。

 次々に彼らに挑み破れ去って行く仲間たち。

 その悲鳴を聞きながら、彼は首領の直ぐ隣で、ただただ正義の味方が死んでくれるのを祈っていた。


 しかし、その願いは聞き届けられなかった。

 災厄の悪夢とされる仮面ダンサー。

 そのセカンドとされる仮面ダンサードゥが彼の居た小さな秘密結社に襲撃して来たのだ。

 当然、ほぼ確実に壊滅へのカウントダウンを始めた彼らの前に、災厄の正義の味方はゆっくりと近づいて来ていた。


 その時は彼にも洗脳が掛かっていたので必死に首領を守ろうと思っていたのだ。

 しかし、彼が突撃した瞬間、彼の意識は一瞬で消えた。

 敗北したのだと気付いた時には、身体の半身がもがれた後だった。

 首領が殺され、必死に逃げ延びた彼は、別の秘密結社に身を寄せる。

 改造メンテナンスを行ったおかげで一命を取り留めることに成功した。


 が、身を寄せた彼自身が正義の味方の案内役をしてしまい、その秘密結社もライドレンジャーと呼ばれる正義の味方に蹂躙され、滅亡した。

 ぎりぎり改造手術を終えた彼だけが生き延びた。


 幾つかの秘密結社を転々とし、時に結社が滅亡し、時に派閥争いで逃げ出し、やがてパステルクラッシャーという新興勢力に身を寄せた。

 しばらくはここでメンテナンスを行えたが、彼とは毛色が合わなかった。

 パステルクラッシャーがやる悪事と言えば、怪人として出現しながらやることは女性のスカートを捲る。あるいは男性のアレを鷲掴む。尻を触る。無理矢理キスをせまる。である。


 正直辟易しだした頃、別の怪人が彼の尻に狙いを定め始めたのでさっさと逃げ出してきた。

 もう二度とあの秘密結社とは関わるまい。そう肝に銘じ、彼はこの近辺では巨大秘密結社の一つであるコリントノヴァへの面接に向ったのである。


「野良怪人を雇え? オスは足りてるよ。メスなら用途は多様だけどなぁ」


 と下卑た笑いを浮かべる試験官を相手にへこへこと媚び諂う結果になった。

 最近の秘密結社も極論を言えば女性優位だ。いや一部男性優位でその下に女性、他の男はむしろ死ねの風潮が強い。

 いつの時代も選ばれた男共に女が虐げられ、他の男たちがそれを見つめるしかない状況になっている。


 悔しかったが彼は改造人間。定期的にメンテナンスを受けなければ身体に変調をきたしてしまう。

 なんとかここで食い込みたい。

 そんな想いで必死に頭を下げた。


 そんな彼と試験官の元へ、報告に来た部下らしき怪人が、試験官に洩らしたのだ。

 インセクトワールドの首領が復帰するらしい。

 怪人を集め、明日決起集会をするらしい。と。

 彼を切り捨てる気満々だったコリントノヴァの試験官は、彼にニヤつく笑みを向けつつ言ったのだ。


「そうだ。君、スパイをしてみないかね。明日行われるインセクトワールド再決起集会に向い奴らの動向を逐一報告してくれ。それならば雇ってやっても良いぞ」


 当然。却下に決まっていた。

 彼はコリントノヴァに見切りを付けてインセクトワールド決起集会とやらに参加したのである。

 場所を調べるのは簡単だった。

 ネットで調べれば普通に見つかったのだ。

 これは確実に正義の味方に嗅ぎつけられるだろ。と思いながらも、彼は一縷の望みを掛けて向ったのである。最悪、その結果をコリントノヴァに報告すれば下っ端として入社を許可されるだろう。

 使い潰される可能性はあるだろうが。


 そして、今――――


「怪人になってこんな事をすることになるとはなぁ……」


 救助隊の車の上に乗るダンゴロワムワは空を見上げながら溜息をついていた。

 思えば遠くに来たものだ。

 改造されて数年。とにかく生きるために足掻いていた。

 悪行を重ねに重ね、これからも正義の味方と闘うだけの人生なのだと絶望していた。


 だが、ラナリアに入った彼に初めて下された任務は、土砂崩れで封鎖された道の開通。そして救助隊と協力して限界集落の救助保護である。

 まず怪人がやる様な事ではない。むしろ正義の味方がやるべき案件だ。


「救助隊への説明、御苦労さまでるダンゴムシ」


「一応訂正しますが、ダンゴロワムワっす。えーっと、ハルモネイアさんでしたっけ? 本当にこんなことしてていいんすか? 普通秘密結社って破壊活動の方なんじゃ?」


「土砂を破壊してまる。これも立派な破壊活動でる。何か問題が?」


「いや、そうじゃなくて、あぁと……なぁ、あんたもそう思うだろピグミーモグラス」


「そう? 洗脳解けてからは悪行するの好きじゃなかったから私はラナリアの方針好きよ?」


「いや、確かに俺もこういうのの方が割に合ってるけどさ。秘密結社としてどうなのよ?」


「いいんじゃない。こういうのが一社くらいあっても。あの首領さん、私は好きだけどなぁ。……っと、そろそろ集落ね。しっかり人助けしとかないと、監視されてるらしいしね」


「ま、やれるだけやってみるか」


 見え始めた集落に視線を向けて、ダンゴロワムワはふぅっと気合いを入れる。

 今までの生活と比べると少しだけ、生きているという実感が持てた様な気がした。

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