電波ジャック
―― ザッ ザァッ……――
その日、日本に存在する全てのテレビが突如砂嵐に襲われた。
茶の間で歓談していた家族も、スクランブル交差点を行きかう人々も、皆画面に釘付けになった。
いきなりなんだ? そんな想いでテレビを見つめる人々。
そして、砂嵐は一転、一人の少女を映し出す。
背後にはラナリアとして作られた徽章が描かれた壁。
なぜか社長椅子に座るフードを被った少女が画面の外を見下すように座っていた。
椅子に背もたれ、両手を腹の辺りで組んでいる。
指同士を交差された、見るモノに苛つきを覚えさせるふてぶてしい態度である。
そんなフードの少女がニヤリと笑みを浮かべた。
『初めまして日本の諸君。私は秘密結社ラナリア首領である。本日は皆さんに大切な話があったため、日本中の情報機関をジャックさせてもらった。ああ、チャンネルを変えても無駄だ。悪いがこの時間の全てのテレビ局の電波を乗っ取らせて貰ったよ。日本政府や正義の味方の諸君、ジャミングをかけるのは勝手だが、私の話しを聞けなかった人々がどうなっても知らんよ?』
それは、日本にとって最もセンセーショナルな出来事だった。
秘密結社が、裏の世界の存在が、わざわざ日の当る場所へと姿を現した。
日本中の人々に、この日本に秘密結社が存在していたことを知らせたことにもなった。
『この度私は秘密結社ラナリアを立ち上げることになった。だが、ただ秘密結社として悪を貫くのも芸が無い。そう思ってね。我々ラナリアは政府公認結社として存在を表に出そうと思ったのだよ。ほら、つい先日ロシアでもクロスブリッド・カンパニーが秘密結社だと宣言を行い話題を攫っていただろう。日本にも同じように政府公認結社があっても良いと思ったのだよ』
突然の宣言に人々はざわつくしかない。
これが現実なのか、それともドッキリなのかと、周囲にテレビカメラがないか探ってしまう者も多かった。しかし、各所で放映されるラナリア首領の映像に、これがドッキリではないことを知る。
『我々ラナリアは旧インセクトワールド本社ビルを拠点として活動することにした。彼らの表会社も私が乗っ取らせて貰ったよ。つまり、これからインセクトワールドは秘密結社ラナリアが裏から統治する会社となるわけだ。といっても、本部が我が組織となるだけで実質な変わりはないので務めている者は安心するがいい。まぁ、悪の結社らしく逆らう者に容赦はせんがな。売上が向う先が変更になるだけで通常営業さ』
ククッと笑いながら、ラナリア首領はテレビ画面に顔を近づける。
目元が見えそうで見えない位置で止まると、ニヤリと笑みを浮かべた。
『まぁ、その辺りはどうでもいい。それより、ここからが本題だ。この電波ジャックで伝えたかったこと。それは我々ラナリアの活動についてだ。秘密結社であるだけに我が社には怪人も多く在籍する。が、基本我等は民間人を襲い町を破壊する様な活動をする気は無い。むしろ奉仕活動を行っても構わん。ラナリアでは多種に渡る怪人が在籍する。民間の者たちよ、人では行えない作業があったりはしないかね? ラナリアから怪人を派遣してその作業を代わりに行おう。言わばラナリアは改造人間による何でも屋だ。怪人専門の派遣会社だよ。君たちの困ったことを、正義の味方がやってはくれない些細なことを手伝おう。なぁに、金はいらない。それは他の事業で事足りる。君たちに怪人を派遣するに当たりラナリアが求めるのは、情報だ。個人情報、企業情報、国家機密。なんでもいい。怪人の働きに見合う情報であれば手を貸そう』
ラナリア首領は宣言する。秘密結社ラナリアは、人々を助ける結社であると。
非合法な改造手術を行う秘密結社ではあれど、その行いは人々の助けになるものであると。
本来、そんなうまい話がある訳がない。だが、ラナリア首領はさらに人心を引きつける秘策に打って出る。
『そういえば、昨日地震があったな。震源地はどこだったか? 土砂災害が起こっている地域があるだろう? ああ、これだこれ』
と、つい先ほどテレビのニュース番組が流していた映像を見せる。
崖崩れで道が埋まった道路だ。
そこに、三体の怪人がいた。
『彼らは我がラナリアに入社した者たちでね。右上の土砂に乗っているのがピグミーモグラス。モグラの獣人だ。土砂前のアスファルトに立っているのはダンゴロワムワ。まぁ見て分かる通りダンゴムシの怪人だな。そして最後に我が右腕とも呼べる機械兵。ハルモネイアだ』
少しづつ地面に近づいて行く画像が、三人の姿を映し出す。
見る者が見れば、第七世界のハルモネイアだと直ぐにわかるのだが、それを知っているのはバグソルジャーの面々しかいない。
初めて見る機械の少女に、あり得ないと呟く人々。
ダンゴロワムワは画面に向い手を振っていたが、急にその身体を丸めだす。
それを手にするハルモネイア。
思い切りアスファルトへとボーリングのように放り投げる。
高速で走り出すダンゴロワムワ。
土砂へとぶち当たると事前にピグミーモグラスにより穴あき状態だった土砂をふっ飛ばし、逆の道まで貫通して行く。
そのまま道なりに転がって画面から消え去るダンゴロワムワ。
慌てて飛び退くピグミーモグラスがハルモネイアの横へと飛び退いた瞬間、ハルモネイアの片腕が折れ、砲口が顔を出す。
次の瞬間、爆音と共に飛び出すエネルギー弾がほぼ破壊済みの土砂を一気に吹っ飛ばす。
本来なら重機を持ちより数日で開通させる道が、わずか数分で開通してしまった。
そしてその報告を道路の向こうで通行止めされていた救急隊員に告げているダンゴロワムワ。
直ぐに救助隊が開通した道を通って隔絶された村へと走り去って行く。
この映像が本物であれば、これは確かに人助けだ。
それも正義の味方の手が届きにくい場所へのあまりにも有用な手段とビジネスである。
悪の秘密結社。ソレを知りながらも、幾人かの人々はラナリアの有用さに気付き始めていた。




