バグソルジャーラナリアと対話
「チッ。普通に話し合いか」
「なんだバグアントよ。我々が裏切った方が都合が良かったとでも言いたそうだな」
「こんな鮮烈デビューしやがったクセによくいう。裏切れば確実に正義の味方を引き連れて大殲滅作戦でも出来たんだがな」
「これはまた酷い作戦だ。休戦をしている我等に戦闘をするよう仕向けるとは、正義の味方とは思えん方法よな」
「ぬかせ」
やってきたのは二つのソファが存在する部屋だった。
会談用の部屋なのだろう。長いソファが机を挟んで対面するように置かれているだけのシンプルな部屋だった。
バグソルジャーの面々としては裏切られる可能性を感じていただけに肩透かしを喰らったようだった。
「それでは、改めて初めまして、不肖私めがラナリア首領を務めております。インセクトワールドの首領さんには私のサポートをお願いしました」
「はっ。物は言いようだ。ラナ。何故お前がラナリア首領になっているのかは知らんが、そこの悪に何かしらの弱みでも握られているのだろ。クルナと共に元の世界に戻ればいいだけのお前がここに居ること自体、そいつの陰謀以外に見えやしない」
「クク、信用が無いな」
「当然だろう? 貴様に信頼というモノが寄せられる訳がない」
「おやおや。これでも数千数万の人材を束ねる首領なのだがね。我を信頼する者は多いよ?」
「悪のカリスマか。だがそれで全ての人間が貴様に尻尾を振るとは思っていないだろう」
首領はくくっと笑みを零し深く腰掛けた。
両手を組んで片足をもう片方の足に乗せる。
その姿にバグカブトが非難の視線を向けたが彼女は気にしなかった。
「まぁ、そんな事はどうでもいいさ。お前達がここに来たのは、ラナリアがインセクトワールドとどう関係するか、そしてお前達との休戦協定について、であろう?」
「チッやはりすでに想定済みか」
「でなければ首領などやっておらんよ。その程度のことを想定出来ずなんとする?」
「本当に食えん女だ。いや、貴様の場合女かどうかすらわからんな」
「女だよ。今はな」
にやにやと笑う首領にいらだちを見せるバグアントとバグカブト。
できるならその首を今すぐに圧し折ってやりたい。そう思うが二人はぐっと堪える。
今、それをすればバグソルジャーの名に泥が塗られる。
自ら休戦協定を持ちかけソレを破る訳にはいかない。
一度してしまえば、悪の秘密結社たちは正義の味方も行うからと遠慮なく休戦協定を結んでは破るという行為を平気で行ってくるだろう。その切っ掛けをバグソルジャーが作ってはならない。
正義の味方全体に被害が及んでしまう。
人々から疑惑を持たれ悪と断罪されればいかな正義の味方とて力を振いにくくなる。
「まぁ、お前達も理解しているとは思うが、休戦協定を行ったのは私が首領に返り咲くまで。つまりインセクトワールドが再興されるまでだ。で、ラナリアの首領は私ではなくラナである。ようするにインセクトワールドとバグソルジャーとの休戦は継続中だ。私はあくまでラナに悪の秘密結社はどういう事をするのか、部下にどう命令するのかを教えるだけだからな。この秘密結社をどうするかはラナの一存だよ」
「だといいがな。だが、今の言葉、言質は取った。つまりラナリアとインセクトワールドは関係ない。そういうのだな?」
「確かに、インセクトワールドとラナリアに関係は無いよ。だがバグカブト、ラナは私の部下だ。つまりはインセクトワールド社員ということになるのだが、この場合はどうなるのかね?」
ニヤついた笑みで首領が告げる。
やはりそう来たか。バグアントはギリッと歯を噛みしめて相手を睨む。
「私としてはラナリアを今までの秘密結社とは違う存在にしていきたいと思っています。だからバグソルジャーの皆さん、見ていてくださいませんか? 私は悪の秘密結社を立ち上げましたけど、決して正義の味方に倒される様な悪どいことはしないということを」
「ラナちゃん?」
「私は確かに、秘密結社の首領なんてしたくないですし、弱みがあるのも否定しません。でも、今回のこれは自分の意志でもあるんです」
ラナの言葉に今まで首領を見ていたバグアントとバグカブトがラナに視線を向ける。
「今、クルナちゃんはゲルムリッドノートという未知の魔道書に翻弄されてます。私はクルナちゃんを救いたい。その為に、このラナリアを立ち上げました。この世界の情報を掴むには悪の結社として多少法を潜り抜けた情報収集が必要だと首領さんに教わりましたから。フォローもしてくれますし、正義からの断罪を受けるような町を破壊したりなどはさせないつもりです」
クルナを助けるため。
そんな決意を聞かされれば、バグパピヨンとバグリベルレが反対など出来るはずがなかった。
やり方は間違っている。そう思うが、悪の秘密結社として情報を探れば、表には出ない様なさまざまな闇の情報も手に入れられる。
効率が普通に情報を探るよりも段違いになる。
彼女の目的を聞いてしまえば、確かに納得する。そして手伝ってしまいたくなる。
だが、その横で不敵に微笑む首領が存在すれば、ラナのその思いすら彼女に誘導させられた結果でしかないのだと思わされる。
そしてバグソルジャーの恨みは全て首領へと向うのだった。




