バグソルジャーラナリア首領との邂逅
「おお、一著前に殺気だってやがる。だが前のインセクトワールドの方が殺気は上だったな」
「さてさて、実力はどうなのだろうな? 同程度では楽に殲滅してしまうぞ?」
「貴様等ぁッ」
「言わせておけばッ」
「殺してやるッ」
一斉に変身を始めるラナリアの怪人たち。
余裕を持ちながらもバグアントは皆に視線を向ける。
耕太はニヤリと笑みを返し、葉奈と真由は溜息を返した。
「向こうがやる気なら仕方ない。flexiоn!」
「はぁ。結局こうするわけですか。Nepemeha!」
「首領の思うつぼにならなきゃいいけど……wechsel!」
バグレンジャー変身を終える。
その時には既にバグレンジャー向けて飛びかかる怪人たち。
迎撃に移るバグレンジャーと怪人たちの攻撃が届くその刹那、声が響いた。
「『全員、止まれッ!』」
びくん。とまるで首根っこをひっつかまれたように空中で止まる怪人たちがその場に落下する。
迎撃しようと拳を突き出していたバグアントも、角に光を宿したバグカブトも、宙空に浮こうとしていたバグパピヨンとバグリベルレも、等しくその動きを止めていた。
「ふんっ。早い到着だなラナリアの首領さんよ」
「そちらこそ、随分と荒い挨拶をするものだ。我等はまだ発足して数日と経っていないのだ。部下の教育が行き届いていないことには眼を瞑ってもらうぞ」
「ところで、インセクトワールドの首領まで一緒とはどういう風の吹きまわしだ? 貴様、確か名誉顧問とか言っていたが、その姿を晒しておいていいのか? 仮にも元首領だろう?」
「ふふ。今は彼女がこのラナリアの首領だよ。我がインセクトワールドはまだ潰えたまま。折角なので我が手腕を教えてやろうと思ってな。彼女も秘密結社を動かすのは初めてなので教えがいがある。なかなか楽しいぞ」
「口調も首領さんを真似ています。あ……いや、真似ている。余り似てないかもしれんがな」
「通りであなたにしては傲岸不遜な態度でおかしいと思いました。しかし、本当に自ら首領をやっているようですね。なぜこんな事を? 元の世界に帰りたいとは思わないのですか?」
「そういった込み行った話をここでするのはどうかと思うがな。我はこれでも謎の首領でやっているのだ。個人情報を洩らされても困るよ正義の味方。ああ、それと……いや、この話も込み行っている、付いてきたまえ。邪魔の入らぬ場所で話すとしよう」
とローブを翻し歩きだすラナ。小さく『解除』と言霊を発した瞬間、周囲の怪人とバグレンジャーが動けるようになった。
さすがに一声掛けられるだけでこれ程の大人数を動けなくさせられると知ったバグレンジャーの顔は苦い。
ラナの真意がわからない以上彼らはラナに付いて行くしかないのだが、この先どんな罠が待っているのか気が気ではなかった。
そして、そんな中バグリベルレとバグパピヨンは自分の状態に戸惑っていた。
ラナの言葉に驚いて動きを止めたものの、彼女等にラナの言霊は効いていなかったのだ。
それはつまり、別の言霊により、他者の言霊により行動を左右されなくなるといったような意味の言霊を付けられていることを意味する。
クルナの言霊以外では、彼女たちは既に暗示に掛からなくなっていたのである。
つまり、自分たちだけならラナを止めることが出来るという事に他ならない。
バグリベルレとバグパピヨンは互いに顔を見合す。
このことは、ラナと首領にバレては行けない。
つまり、相手の言霊に掛かったふりをしておかねばならないのだ。
このカードは切り札になる。二人は互いに頷き合うのだった。
戸惑う怪人たちをその場に残し、バグレンジャーはラナと首領の後を追う。
もともと彼らに会うのが目的だったのでこれ以上暴れても意味は無いのだ。
そもそも、今回の挑発もラナがどう出るかを見るためのモノであり、間に合わずに乱戦に突入しても、先に攻撃を仕掛けたのがラナリアである以上ラナリアとの戦闘を開始、そしてインセクトワールドの関与次第では首領も巻き添えに倒す算段だった。
しかし戦闘自体が未然に回避され、個室に呼ばれてしまってはわざわざ問題を起こす意味もない。
暴れてしまうと、大義名分が無くなってしまう。
ただ、施設内で暴れるだけであれば、それは悪側の存在だ。
同じ暴れるにしても相手から攻撃を受けた、あるいは相手が明確に悪いということを証明してからでなければならない。
そういう理由では、ラナの方が一枚上手だったと言えなくもない。
が、バグレンジャーにしてみれば想定内であることは確かだ。
問題はここから先である。
ただ、いかな罠が待ち構えていようとも、ラナの言霊にかからないと知れたバグリベルレとバグパピヨンの気分は少し落ちついていた。




