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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
ラナ → ラナリア
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秘密結社の首領様3

「ラナリアの首領、覚悟ッ!」


 興奮冷めやらぬ怪人たちの合間を縫って、変身ヒーローが一人飛び出した。

 無防備に壇上に立つラナ向けて踊りかかる。

 が、手にした剣はラナに触れる直前で止まった。


「これは!?」


「正義の味方共よ。伝えるがいい。秘密結社ラナリアは本日を持って地上に打って出る。……まぁ、最初だしな大したことはせんよ。ラナリアでは地域密着で根ざしながら徐々に浸透させるつもりだ」


「抜かせ!」


 剣が煌めく。

 しかしどれ程の斬撃を与えようとラナには剣先すら触れられない。

 怪人たちがさらにヒートアップする。

 手も足も出ない正義の味方に自分たちの首領の凄さを感じ取る。


「クク、『吹き飛べ正義の味方』」


 掌を前に向けた瞬間、ラナの前で剣を振っていた正義の味方が吹き飛んだ。

 まるで衝撃波でも喰らったように一撃を、空中で回転してなんとか着地してダメージを殺す。

 自分がどんな攻撃を喰らったのか計りかねているようで、戸惑いを浮かべている様子だった。


「さぁ、他に我に異を唱えるものは居らんか? ラナリアが設立されてしまうぞ? 不甲斐ないな正義の味方。お前達等この程度なのか?」


「言ったなラナリアの首領。怪人共には手を出させないんだったな。一対一の決闘を申し込む」


 隠れていた正義の味方の一人が外套を取り去り拳を握る。


「よかろう。だが、決闘というのは同じ程度の実力者相手のモノだろう? ハンデをやろう。我をここから一歩でも下げれば貴様の勝ち。我はラナリア設立を諦めよう」


「なんだとっ!?」


 正義の味方ばかりか怪人たちからもどよめきが起こる。

 それは簡単に諦めると宣言したからか。それともそれほどの自信と実力を持っているが故か。計りかねているのだろう。

 だが、その挑発は正義の味方の心に火を付けた。


「見くびられたもんだな。覚悟しろよ。このブルーザー・ベアルの一撃は重いぞ?」


「ほぅ。聞いた名だな。随分な大物ではないか。これは我が実力に箔が付く。怪人共よ我を見よ。このブルーザー・ベアルの一撃を我が耐え抜くか。耐え抜いた時、貴様等は真に尽くすべき相手を知るだろう。座して見よ。我が威光をその目に焼き付けるがいい」


 そう告げて、ラナは壇上から歩み出る。

 壇の切れ目ぎりぎりまで前に出ると、ブルーザー・ベアルを見下すように両腕を組んで仁王立ちする。


「いつでも来い。我をここから動かせるものならばな」


 皆に見やすい位置にワザとやってきたラナに、ブルーザー・ベアルは反応すらせずに拳を高く振り上げる。

 拳から光が溢れだした。

 光は次第膨れ上がる様に光量を増し、橙色の光を纏いだす。


「真正面から受ける気か。上等だ首領さんよ。このブルーザー・ベアルのベアハング、受けて生きていられたならあんたを最高のライバルと認めてやるぜ」


 極限まで高めたらしい最強の一撃。

 怪人たちも彼の名は知っている者もいるらしく、中には怯えている者もいる。

 皆が生唾飲み込み魅入る中、ブルーザー・ベアルはおごそかに告げた。


「ベア・ハング!」


 音も無くダッシュ。拳に光を灯したまま、ブルーザー・ベアルは一気にラナとの距離を詰める。

 正直、ラナは震えていた。自分が悪の首領として正義の一撃を受けることになるなど予想すらしていなかったのだから。

 自分でない自分の底で彼女は震えていた。


 実際、今彼女の身体を動かしているのは彼女ではなかった。

 首領が入っていた。

 脳内の一部に巣くい、ラナの身体を動かしているのだ。

 脳は全く喰われていない。でも一度喰われたせいか内部に入った首領はラナの身体を自在に操れていた。


 だからラナの身体は震えない。

 不敵な態度で渾身の必殺技を真正面から受ける。

 振り抜かれた拳に光が尾を引く。

 あり得ない程の衝撃音が響いた。

 まるで何かが砕けた様な致命的な音だ。


 見ていた殆どの者がラナの顔が砕け散ったと思った。

 だが、次の瞬間ラナが不敵に微笑むのを見て驚く。

 ラナは宣言通り、微動だにしていないのだ。それに気付いた怪人たちが思わず感嘆の息を洩らした。


「ぐ、あああああああああああああああああああああああああああ!?」


 ブルーザー・ベアルの悲鳴が突如響き渡った。

 渾身の一撃を放ったはずの正義の味方は、その拳を破壊され悲鳴を上げていたのだ。

 変な方向に曲がった腕を押さえて叫ぶブルーザー・ベアル。

 首領が何かしたのかといぶかしむ怪人たち。


 だが、直ぐに理解する。

 ラナリア首領、ラナは何もしていない。

 本当にただ立っていただけだ。

 正義の味方の渾身の一撃をただただ無防備に喰らっただけなのだ。

 そして、正義の味方の方が押し負けたのである。


「ら……ラ・ナ・リ・アッ!」


 一人の怪人が叫ぶ。

 それは次第に伝播してラナリアコールが始まった。

 うずくまる正義の味方を見下すように、怪人たちはラナリアを謳う。


「クク。終わりか正義の味方。ほれ、我は一歩たりとも下がっていないぞ? ククク、ハーッハッハッハッハ」


 正義の味方たちも、他の秘密結社のスパイたちも驚愕の面持ちで見つめるしかなかった。

 この首領をどうにかする手段は自分たちにはまだない。

 彼らは唇を噛みしめつつ、ラナリアの設立を見ているしかなかった。

 ただ、首領の高笑いとラナリアコールだけが響き渡る。膝を折りうずくまるブルーザー・ベアルの姿が、正義の敗北を訴えているようだった。

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