秘密結社の首領様1
首領はラナとふたり、旧インセクトワールド社のエントランスへとやって来ていた。
少し歩いた先に存在するエレベーター。既にそこの動きは止まっており、地上数階に停止中のエレベーターが存在するだけの吹き抜けだ。
本当ならばそこからどこかへと向かう事など出来はしない。
「ラナ」
「はい。私と菅田亜子の身体、浮け」
ラナの言葉で二人の身体が浮き上がる。
「目の前の扉、開け」
エレベーターの扉が開かれる。そこにエレベーター自身はない。
完全な黒い穴が顔を出している。
首領とラナはその穴へと身を乗り出す。
「扉閉まって。私達の身体、地下36階へ」
自動で動きだす首領たち。目的地に付くとそのままドアを開いて通路に降り立った。
「我一人だと苦労するのだがお前と一緒だと随分楽だな」
「私が来るとクルナちゃんにここバレるんじゃ?」
「それも一興。バレても問題あるまいよ。まさかあいつがここを破壊しようと目論むはずもない。むしろ、我を潰す策に組み込むだろうよ。その後は自分が有効活用するだろうさ」
「それは……」
困った顔をするラナに、首領は不敵な笑みを向ける。
「なぁに、殺しに掛かって来ない限りはこちらから奴を切り捨てたりはせん。安心しろ」
「その安心が出来ないから……あ」
話の途中で目的地についたらしい。
機械たちの手により創られる機械を見付け、ラナは口を開けて魅入っていた。
自分たちで自分たちを作る。その流れ作業が、再現されていた。
「もう、こんなところまで……」
「流れ自体は既に確立されているからな。後は人手が揃えば直ぐに量産体制に入れる。そこまで辿りつけば後はこの通り。最初の数体までだよ。我々が苦労したのは」
「ここまで来るとむしろ暇そうですね」
出来た先から行動を割り振られる機械たちを見付け、ラナは一人ごちる。
その機械たちの殆どが今は仕事が無いということで広場に整列して微動だにしなくなっていた。
「そろそろ来る頃と思っていましたマスター。そしてラナお嬢様」
「あなたは、確かなんとか03」
「はい。ですが今の名称はインペリアと呼ばれています」
「インペリア?」
「インペリアルナイト。近衛兵を捩った名前だ。我直属の奥の手だからな。これからはインペリアとよんでやってくれ」
「はい。それでいいなら」
「で、インペリアよ。こちらに来たからには何かがあるのだろう?」
「はい。マスターに言われておりました待機ロボの機数が目標値に達しました。また集まってきた怪人たちの数も予定数を越えましたので伝えに参りました。召集を掛けますか?」
「ふむ。よい機会だ。決起集会と言うべきかな。新生インセクトワールドいや。この際新しい名前にしてしまうか。なぁラナよ」
「え? 変えられるんですか?」
「秘密結社……そうだな。ラナリアとかどうだ?」
「ちょ、それ、どうみても……」
「ふふ。面白そうだろう。なに、我が居ない間はお前が首領代理だからな。W・Bが戻って異世界に向う際にはお前に任せようと思っている。言わば影武者と言う奴だ」
「今の状態でよく言えますね。ですが、私に拒否権ないみたいだし……」
「ではラナリアで行こうか」
「それでは招集を始めます。準備が完了しましたらお呼びいたしますのでそれまでごゆるりと」
「よかろう。場所は前に伝えておいた場所に集結させておけ。機械部隊は隠せよ。こいつらを気付かせるのはまだ先だ」
インペリアが去って行く。
その後ろ姿を流し見てラナは首領に視線を向けた。
「これから、どうするつもりなのですか?」
「今はまだ、隠れて動くさ。インセクトワールドの怪人を名乗ればバグレンジャーも感づくだろうが、新たな秘密結社であるならばラナとラナリアの関係性から我に辿りつくまでしばらくかかるだろう。あるいは決起集会に来ているやもしれんが、問題は無い。地域密着型で動くさ。クロスブリッドの二番煎じだが、アレはイイ手だ。日本も秘密結社の一つ位許容するだろう。それに、その頃には……いや、これは言うまい」
「でも、本当に私が影武者なんかやれるでしょうか?」
「問題あるまい。我がフォローするのだ。お前は成れるさラナリアの真の支配者にな」
「はぁ……って。首領さんが真の支配者ですよね?」
「ふふ。さぁてな」
意地の悪い笑みを浮かべ、首領は用意を行いにラナと共に通路を進む。
忙しなく動くロボ達を掻きわけ、エレベーターに入ると別の階層へと移動する。
地下一階。地下にある新しく造られたエレベーターで向える一番上の階層だ。
エレベーターから通路を歩く。怪人たちは旧インセクトワールド社近くの廃ビルにある隠し通路からここに来る手はずになっている。
ただ、怪人が多数出入りするのでやはり感のいい秘密結社のスパイや、正義の味方が潜入している可能性も高い。おそらく襲撃もあるだろう。
喧騒が支配する巨大ホールの裏側へと二人は向かって行った。
そこでラナは全身を隠せる外套を着込む。
そして、首領はその場で両腕組んで待機を始める。
「全ては我に任せよ。プロデュースはお手の物だ、お前はただ身を任せていればいい」
「は、はい。……どうしようクルナちゃん。私、もう引き返せない場所に来ちゃったみたい」
ラナは呟きドアを開く。
小さな個室に入ると、その目の前には薄い布が存在していた。
その薄い布の先は怒号渦巻く巨大ホールに繋がっている。
「はぁ……ふぅっ」
大きく息を吐いて気合いを入れ直し、ラナは処刑台の様な道を一歩、また一歩と歩み出す。
ここから先は、きっともう引き返せない。
クルナとは道を違えてしまうだろう。そう思いつつも歩みは止まることはなかった。




