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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
勇者 → 高位世界
213/314

抗えぬ断罪

「エアリアル!?」


「安ぜよ。彼女は今、我に敵対した場合に辿るであろう15293877291230通りの死に様をコピー体を殺す事で見せているだけだ」


 コピーとはいえ自分に似た存在が殺される姿を延々見せられるとか、むごすぎる。


「コピー体は涅槃寂静秒前のエアリアルをコピーした者であるため9.9999999999……%の確率で本人との一致が見られる存在だ、下位存在であればその程度までのコピー体を作るのに造作はない」


 要するに、その時間帯から先は違う人生を歩み出してるので本人とはちょっとだけ違うが素体構成や考えから記憶まで全て一緒の存在が一瞬で創りだせるのだという。

 まさに神の所業だが、王利にとってはすでにエアリアルが神の域。神を作りだせる神を果たして何と言えばいいのだろうか。


「しばし待て。エアリアルが戻るまでは暇になるだろう。今のうちに一つ、我から問いかけをしておこう」


「問いかけ?」


「黒の勇者。決められた道は存在しない。決まった運命など一つも無い。未来は常に無限に広がり、過去もまた無限に広がる。ならば今、そこに居るお前は一つだけか? 否、否否否。それもまた無限に広がっている。なればこそ、運命を導く聖女伝説は別の意味を露わにする。それが、わかるか黒の勇者?」


 意味不明でした。

 王利が言葉に詰まっていると、再び監視者は口を開く。


「己に運命を課すのは愚問。汝は常に自由。縛られていると思うのは自ら縛っているのみと知れ。そして、先の未来を言い当てるものはその未来を知る者と知れ。さすれば答えは自ずと出よう。聖女など幻影。アレはただの女。助けを求める女に過ぎん。勇者よ。自由たれ。行く末は無限に広がっている。汝が取るべき未来は決まってなど居らぬ」


 なんとなく。王利は自分に対して心配してくれているのだろうかと思う。

 意味は理解できなかったが、監視者は王利に何かのアドバイスをくれたような気がした。


「ぎゃあああああっす」


 王利が考えていたのに、いきなり無粋な声により現実に引き戻された。

 気が付けば、エアリアルが復活している。


「ぎゃあぁ、ぎゃああぁ。もぉいやあああああああああああああああああっ」


 頭を抱えて空中を身悶え王利の周りを飛び回る。

 はっきり言えばウザい。

 最後は王利の頭の上に飛び乗りぐてっと力尽きたエアリアルだった。


「王利ぃ、私は生きてる? コレ現実? 私は何回死んだのかな?」


「よくわからないけどお帰りエアリアル」


「うん、ただいま……もう二度と、上位存在に逆らおうとは思いません」


「そうしてくれ、俺が巻き込まれたら一瞬で消し飛ぶし」


 何を体験して来たのかは聞かないでおくことにした王利だった。


「それで、次の世界行くの? 直ぐ行こう。ね、早く行こう。監視の邪魔しちゃ悪いし早く、ね? ね? ね?」


「そうだね。ついにこの機械を作った相手に会えるかもしれないし」


「あ、でももうチョイ待って、私、精神的にまだきつい……」


 本当に何を見て来たんだ。と思わず王利は聞きたくなったが、恐い思いをしそうだったので押し黙る。

 もうしばらく暇になりそうなので、何とは無しに管理者に視線を向けた。

 もう話す事はないようで、目を瞑った状態になっている管理者。

 時折目を開いてぎょろぎょろと色々な角度を向いている。


 ラプラスの魔物。

 どこかの学者が提唱した宇宙の遥か先に存在し、全ての事象を知り、全ての事象を管理する存在。

 本当に、居たのだ。

 最も、宇宙など及びもつかない遥か異世界の先の先ではあったが。


 そんな管理者は、かっと目を見開く。

 なんだ? と思っているとその目に光が集まり、どこかへ向け一条の光を撃ち放った。

 光は遥か遠くへと飛び退り、光の尾を引いて虚空の先へと消えていく。


「今のは?」


「歯車の狂った世界を一つ滅ぼした。それだけだ」


 なんでもないように告げる管理者。

 それは恐ろしいことだった。

 彼の胸三寸で世界が一つ、一瞬にして滅ぶ。


 なんとか抗いたくとも、彼が居るのは第二十四世界。二十四の未知の軸が存在する、まず人間などが手の届く位置に存在しない生き物だ。

 抗う間もなく訳も分からず世界を滅ぼされる。


 それは、余りに理不尽で、そしてあまりに無慈悲、しかし、あまりにも、幸福である。

 なぜなら自分の世界が滅びることすら気付くことなく消えることになるのだから。

 ただある日、ある瞬間、何の理由かすらわからない内に世界諸共消し去られる。


 一人の人間の意志など関係なく、消える。

 王利はそれを恐ろしく思い、自分の世界がまだ残っていることに安堵する。

 首領が世界を征服するとやっきになっていることすら、王利にとっては子供の児戯にしか思えなくなってきていた。


 彼女が幾ら足掻いても、その世界が歯車からずれたその瞬間、意図せぬ遥か彼方の異世界から一条の光が飛んできて、積み上げた全てのものを一瞬で消し去るのだ。

 ならば、世界を征服する、いや、たかだか地球という名の辺境星一つ支配する事のどれほどちっぽけなことか。

 それにやっきになる首領を手助けしようとする自分の何と空しいことか。


 再び目を瞑った管理者を見つめながら、王利は何とも言えない空しさを感じていた。

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