監視者
「め、目ん玉が喋った……」
エアリアルが思わず呟く。
王利も同意したい気分だった。
ぎょろりと王利たちに向けられるのは一つだけの目玉。
「あんたが、この世界の住人?」
『否ぁなぁなぁ。我は観測する者であるあるある。全ての世界を観測しぃしぃしぃ、監視しぃしぃしぃ。調律する者であるぅるぅるぅ』
「ああもう、もうちょっと喋り方なんとかしてよ。エコー掛かってわずらわしいっての!!」
『……』
エアリアルの叫びに押し黙る目玉。
ちょっとエアリアルさん、相手格上。と王利が目で訴えるも彼女には届かなかった。
「これで、どうだ?」
何も無い地面から唇が生えた。
その唇が動き声が生まれる。
今度はエコーなく王利たちに伝わった。
「あ、今度は普通に聞こえます」
「それはよかった。では改めて。汝ら世界ではラプラスの魔物。あるいはアンゴルモア。監視者と呼ばれる存在である。全ての世界を見。監視し、調律する者である。我は主よりこの世界に産み落とされた管理システムである。我は己が触手を無数の世界に伸ばし逸脱が起きぬよう監視している」
「逸脱が起きない様監視?」
「逸脱? って何を持って逸脱?」
「ある世界では高位次元への強制侵入を行おうとしていた。よって世界ごと消した」
「それって……」
王利は第二十二世界のことを思い出す。
彼らが触れた神の怒り、それはこいつだったのではないだろうかと。
「ある世界は起点に向おうとした。よって世界を初めに戻した」
「うーん。抽象的で分かりにくいよ。具体的に説明してほしいな。その世界が起点? に向ったのはなぜ? そして初めに戻すとはどういう事?」
エアリアルのぶしつけな質問にしばし沈黙するラプラスの魔物。
少しして、再び口を開いた。
「世界の起点とはゼロ地点。全てがあり全てが無い。否。その世界は0である。それ一つで完結した世界。故に何も生み出さず。何ものもそこから出ることはない。故にそこを目指すは愚か。よって世界を一度破壊し初めからやり直させた。今は原始時代くらいであろう。森元王利。お前の持つ腕輪の第十世界。そこに当る」
言われて王利は転移の腕輪を見る。第十世界。確か魔法を使う恐竜たちの世界だったはずだ。
「世界にはそこに対応した自浄機能がある。しかしそれで対応できない事例は発生する。それが世界の危機だ。無数にある世界には、稀に起こる。故にそれを正す機能が必要になる。正さなければ他の世界を崩壊させる。嫌だろう? 別世界の身勝手な理由で自分の世界が無くなるのは? 己の世界のことは己の世界で。ある程度は別世界に影響を及ぼす事を許容している。これもまた世界同士を守る機構の一つ。我はその全ての世界に致命的な傷が出来ない様監視し取り除いている。今も一つ。我の御使いたる者が自浄を始めんとしている。彼が機能すればそれでよし。無理であるならばまた我が世界を一つ消す。それだけだ」
「要するに、世界一つ一つじゃなくて全ての世界で傷が広がる様な危険があれば処理してるけど、基本は監視してる存在。ってことでいいの?」
「良。エアリアル。23の次元に立つ者よ。汝がここへ来たも我が主の導き。黒き勇者と共に主に眼通りするといい」
「主……か。あんたの主ってのはどこに居るんだ?」
「ソノ腕輪でいうならば第二十五世界。管理者の世界と呼べるもの。世界の知的生命がいる最先端である。否。全ての世界の最高峰。我らが主の御座である」
ついに、会える?
そう思いつつも王利はふと疑問に思う。まだ、第二十六世界が残っている。
最後の世界で待つという聖女。果たして次の世界で会えるのだろうか?
「あ、そうだ。この箱について何か知りませんか?」
第二十三世界で手に入れた黒い箱を取り出す王利。
「知っている。しかし我は答える解を持たぬ、主に会え。そこで全てが解かれる」
「もったいつけてやーねー。ねー王利」
「いや、まぁ、だいたい予想は出来てるよ。大切なことは大抵最後まで温存されるもんだ」
「せいぜいたらい回しにならない事を祈っとくよ。にしても……動けないよね目玉。これなら私倒せちゃうんじゃない? 第二十四世界とか高位でも何でもない様な……」
「ちょっ。エアリアルっ!?」
「無謀。無価値。無能なり。一つ上の世界がどれ程隔絶されたものか知るといい」
「え? ちょ、なにこれぇ!?」
ふわりと音も無く浮き上がるエアリアル。
止せばいいのに上位存在に軽口叩いた結果だ。
王利は止める気はない。というか止めようとして巻き込まれてはたまらないので放置せざるをえなかった。
エアリアルの全身に波紋が揺らぐ。
慌てふためく彼女は必死に王利に手を伸ばす。
どうしていいか戸惑う王利だったが、決断を下す前にエアリアルが波紋が広がる様に拡散してしまった。




