新生クロスブリッド・カンパニー
「そうか、奴は死んだか……」
マンティス・サンダーバードは体験した状況の報告をミカヅキ・メイフライへと行っていた。
先に帰還した彼は混乱中のクロスブリッド・カンパニーをまとめ上げ、実質首領の座へと上り詰めていたのである。
少し驚きながらも当然の結果かとマンティス・サンダーバードは納得する。
元々こうなるために起こした反乱で、本来はコックル・ホッパーが首領の座に着く予定だったのだ。
実力も発想力もあいつに及ぶ者はおらず、首領ですらも舌を巻く程の指揮を時折見せていた。
いつも最悪の事態を想定し無数の奥の手を隠し持つ彼は、しかし既に死んでいた。
自分が手を下した訳ではないが、仲違いの末に彼の死を演出した一人であることは否めないマンティス・サンダーバードは自分が首領としてやっていく気力は無くなっていた。
だから彼女は俺が首領をやることになったが、いいか? と聞いてきたミカヅキ・メイフライに、即座に地位を譲ることにしたのだ。
興味も無く野心も消えたマンティス・サンダーバードを適確に見抜いたミカヅキ・メイフライはその日のうちに自分が首領になったことを宣言して組織を取りまとめ始めた。
とはいえ、彼は元々首領を行う器ではない。
全体を彼一人で把握することも困難な状況だったため、結局はマンティス・サンダーバードも手伝っての二台首領としてクロスブリッド・カンパニーを混乱から引き摺りだしていた。
表の商社をマンティス・サンダーバードが。
裏の秘密結社をミカヅキ・メイフライが取りまとめて行く。
「そういえばマンティス。先程手紙が来ていたが、誰からだ?」
「ああ、停戦中の正義の味方だよ。こちらにとって危険な正義の味方情報を受け取る代わりにこちらの行動を教えている。まぁ、こちらの行動は主に表の商社側だがな」
「なるほど。それならばバレても痛手にはならんな。しかしいいのか?」
「嘘は書いてないんだ。問題あるまい。多少くらいは裏の事情も流しても良いか? 何、こちらの不利になるものではない。普段秘密結社の者たちが何をしているか知りたいらしい」
「普段の生活を? また変わったことを聞いてくるのだな」
「レオニード・クラブの生活模様でも送っておこうと思うのだが、どうだろう?」
「奴のか……それなら止める理由はないな。身内の恥をさらす事になるがな」
呆れた口調のミカヅキ・メイフライに同意するマンティス・サンダーバード。
自分が書いた手紙の内容を改める。
レオニード・クラブの話を書いた。そしてこんなのでいいのかと思わず迷った。
何せ奴の一日は修行に始まり修行に終わる果てしなく厳しい奴なのだから。
ちなみに、レオニード・クラブはライオンと蟹という異色の組み合わせである。
というか、失敗作である。
あまりに違う組み合わせだったせいで互いの長所を打ち消してしまったのだ。
チキン質の硬い甲羅も、ライオンの強靭な顎も無駄に逆転しているので撃たれ弱いし噛みつき攻撃も弱い。
結果、彼は異常な程に修行して己の肉体を強くする事で弱点を打ち消そうと躍起になり、気が付けば本末転倒、ひたすら己の肉体を鍛えるだけの脳筋と化してしまったのである。
気温-50℃程のロシアの一角で裸で乾布摩擦している姿はもはやキチガイとして近所でも有名であり、怪人でありながら修練しかしない彼は正義の味方からの討伐対象からはずされ、近所の人々には変わったおじさんとして受け入れられている。
いわばクロスブリッド・カンパニーのマスコットキャラみたいなものだった。
ガチムチ系のライオン頭がマスコットというのも語弊がある様に感じるが、最近では正義の味方と共に修練している姿すら見れるので、クロスブリッド・カンパニーが秘密結社であるという事に対してはある意味隠れ蓑になっていた。
「もう、この際だからクロスブリッド・カンパニーは秘密結社ですと宣言してあいつを前面に押し出して見るのもありじゃない?」
「正義の味方が潰しに来るだろ。いや、首領が消えた以上残った怪人たちが表の会社を動かしている健全な会社だと言えば……世界初の公認怪人でも目指すのか?」
「国民の理解を得ればそれなりに上手く行くんじゃない? これからの怪人化する者たちも有志を募る形にしてしまえば。ほら、日本の正義の味方バグソルジャーも公認の秘密結社みたいな売り出しで」
「上手く行けば我々だけで秘密結社と表の会社を影ながら行うよりは上手く行くか。よし、全ての怪人を呼びだし多数決で決めるとしよう」
「多数決って……いえ。とりあえずそれで行きましょう。他の意見があればその都度参考にするということで」
この日を境にクロスブリッド・カンパニーは世界初、ロシア政府公認、怪人が運営する会社として表舞台へと姿を現すことになるのだが、それはまだ、少し先の話である。




