バグカブトの憂鬱
誰もいなくなったインセクトワールドの首領の間で、バグカブトは自らの腕を見つめていた。
「ここに居たかカブト」
背後からかかった声に、弾かれたように振り向く。
「なんだアントか。遅かったな」
「パピヨンが見当たらなくてな。放置してこちらに来させてもらった」
やってきたアントは、カブトの姿を見て、思わず目を見開いた。
「お前、何と戦ったんだ?」
「……ああ、これか。俺以上の防壁を持つ奴だ」
振って見せるバグカブトの右手は、無残な程に破壊されていた。
自らの打撃の衝撃と、相手の硬さに自壊してしまったのだ。
まさか自分の腕がこんな事になるなど、全く思いもしなかった。
さすがのバグカブトもこれからは武器でも手にするかと考えさせられる失敗だ。
「攻撃力が無いと甘く見ていたが……全力で殴ったらこちらの拳が壊された」
「そんなことがあり得るのか」
「あり得たからこうなったんだ」
肩を竦めてカブトはため息を吐く。
「しばらく、休養が必要らしい」
このままでは戦闘にも支障が出るが、回復は可能である。
バグレンジャーにもドクターはいるのだ。
秘密結社の敵には気付かれていないが、バグレンジャーたちはドクターの手によって第二の改造手術を受けており、その身体能力を高めている。
それこそがバグレンジャーを正義の味方たらしめている。
だからこそ、ドクターならば壊れた部位を程度にもよるが治療可能なのである。
「分かった。その間は他の皆で……」
「いや、おそらく、リベルレとシャークは次元を超えた。パピヨンも先に飛ばされた可能性がある」
「では、インセクトワールドを潰し切れたわけじゃないのか」
バグアントの言葉に頷かず、バグカブトは彼の隣を通り過ぎる。
「アント、調べて欲しいことがある。奴の能力が知りたい」
バグカブトは始め、相手の姿を見た瞬間予想が付いていた。
ドクターが持っていた本を試し読みした時に見つけたモノと似た容姿を持っていたのだ。
しかし、その特性が全く違う。それが不思議だった。
攻撃した相手の拳を破壊する程の物理防御力など持っているはずがない生物なのだ。
「その奴っていうのは何の怪人だ? さすがに何も分からないでは調べようがないぞ」
「奴か? 奴は……クマムシだ」