手に入れたコレ
「ところでコレ、なんですか?」
王利は女性型発光体からいつの間にか自分の手に移された物体を見て思わず聞いていた。
しかし彼らの誰も知らないようで、コレって何? やら名前がコレなのか? とかどうでもいい疑問ばかりが氾濫し始めた。
王利の手にあるのは黒いキューブだ。
正四角形の立方体であるその黒いキューブは、どの面を見ても艶々とした光沢を放っている。
見た事も無い存在だ。王利の知っている知識でいうならば、モノリスというのが一番近いだろうか?
未知の物質で出来た黒い色の何かというのが一緒である。
「渡せばわかるとか言われたけど、コレ、わかんないよね?」
「まぁ、わからないですね」
「だが、コレとやらには我等も未知の素材が使われているように見えるな。おそらくさらに高次元で造られたものだろう」
ここよりもさらに高次元の物質。
それが渡されてわかる……はずがなかった。
王利はもう一度キューブを見つめる。
きっと、これは聖女からの何らかのメッセージなのだろう。
こうやって集めて行けば何かが分かるかもしれない。
王利はキューブをしまおうとして、ふと気付く。
今の自分は怪人状態だったのだ。
つまり、これを入れる様なポシェットはない。
仕方ないので変身を解くことにした。
さすがにこの世界は安全だろうと思ってのことである。
「flexiоn!」
光を発した王利に周囲がざわめく。
それも一瞬。
次の瞬間、王利の身体が人になっているのを見た神々は驚きを露わにしていた。
「おおおおおおっ。凄いぞ。下位の存在よ。姿を変えられるのか!?」
「我等は固定化していないと直ぐに世界と同化してしまうからなァ。素晴らしい。実に素晴らしい」
なぜか周囲から褒められる王利。
気恥かしさを覚えて苦笑いを返しておいた。
彼らの感心する場所はイマイチ良く分からない。
「いいな。いいなぁ。ねぇねぇ王利だっけ? 私も変身したい!」
と、他の皆より少し小さな発光体が近づいてきた。
眩しいので目がくらむ。
「変身したいと言われても……」
「イメージして! 王利が可愛いと思う何か、幻想的なのを! そのイメージを姿に転写してみるから!」
意味は分からなかったがとりあえず可愛いと思うモノを連想する。
葉奈さん? いやいや、さすがに葉奈さんに姿を変えられても困る。
いろんな意味でアウトだ。
じゃあ犬とか猫か? 可愛いけど彼女が求めるのは女の子っぽい可愛さだろう。
ふむ、小さくて可愛い。幻想的……妖精とか?
と、思い付いた途端だった。
「あは。それいいかも」
一際眩い光を放ち、そいつの形状が変化して行く。
「お、お、おお――――っ!?」
光が収まると、その中心に少女っぽい発光体は存在していなかった。
代わりに、片手に乗りそうなくらいの手乗りサイズな少女が一人羽を羽ばたかせて宙に浮いていた。
少女は自身の身体を見て感嘆の声を上げる。
「皆見て見て! フォールダウンっぽいけど姿変えられた!」
「いいね。次俺、俺の名前みたいにロキっぽい姿にしてくれ!」
いきなりロキっぽくとか言われても困る。
そのロキの姿などろくすっぽ知らずにいる王利にとっては意味不明の読経を覚えるよりも難しかった。
とりあえず勇ましそうな男をイメージしてみる。
といった具合にいつの間にか全員の姿を王利が決めることになっていた。
自分たちの姿を変えて大丈夫なのかと思ったが、本人たちが喜んでいるのだし問題は無いのだろう。
アークもなんやかんやで乙女系恋愛ゲームのメインターゲットみたいな凄いイケメンになってるし。
その姿に他の面々が狙い過ぎとか笑っていたけど、彼自身は満足そうだったので問題は無いと思いたい。
そんな感じに彼らの姿を変え終わると、王利は次の世界へ向う事にした。
この世界でやれることは大体終わったと思う。
聖女がここで王利に向けたメッセージは既に受け取った。
今は分からないがこのキューブが後々なんらかの重要な道具になるのだろう。
どうせ答えはすぐに出るのだ。王利は流されるままに次の世界へ向えばいい。
答えは自ずとわかるのだから。
問題は、流され過ぎてメッセージを見逃さないようにすることだ。
いや、それだけじゃない。こうして流されて来た王利だが、聖女が自分の味方であるという確証はまったくないのだ。
下手をすればこれが首領と自分を引き離し王利にとっての災厄を運ぶモノである可能性だってあるのだから。
細心の注意を払ってダイヤルを回す。
周囲でアーク達が見守る中、王利は一人光りに包まれ次の世界へ……
ひょこりと、王利の服から飛び出る妖精さんが一人。
悪戯っぽい笑みを浮かべて王利と共に消え去った。