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秘密結社の勇者様  作者: 龍華ぷろじぇくと
エルフ王女 → 第四世界
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首領出現

 エルティアと共に王利はカーテンの奥へと進んだ。

 中に入ると、壮麗なベットに入ったまま上体だけを起こした少女がいた。

 二人揃って少女の容姿に思わず戦慄する。


 ただの少女といえばどこにでもいそうな女の子。

 服装も、ゴシックロリータという名前の黒い服。多少特殊な服装だが、それでも普通に見れはする。

 艶やかな髪は短髪で、華奢な身体は色白。どことなく造り物めいている。

 だが、これも普通の少女といえば言えなくもない。


 ただ一点、ソレを少女と呼ぶには異常な点がある。

 たった一点だ。たった一つの特異点により、少女であるはずのモノが得体の知れない異物としか認識できなくなってしまう。


 少女の目が、あり得ない程飛び出ていた。

 脈打つように目元から目先へと緑と白の入り混じったようなカラフルな色が蠢動している。


「お、おおお、王利さん、こ、この人……」


 あまりの恐ろしさにエルティアが侮蔑を込めた言葉を吐きそうになるが、少女いや、首領は不敵な笑みを浮かべ封殺する。

 エルティアが息を飲んだ。


「初顔合わせだなエルフの王女よ。我がインセクトワールド社の首領、レウコクロリディウム女である」


 レウコクロリディウム。

 それはカタツムリに寄生する吸虫である。


 寄生されたカタツムリは目が肥大化する。

 芋虫に擬態させたその眼で鳥の餌に見せ、カタツムリを発見されやすい場所へと操作し、最終宿主となる鳥の餌としてカタツムリを食べさせてしまう悪魔のような寄生虫。

 鳥の中で成虫となり、排便から新たな生息域でカタツムリに寄生する。

 首領の場合はカタツムリではなく、人間が寄生対応種なのである。


「この容姿が恐ろしいかな?」


 意地の悪い笑みで聞いてくる首領に、エルティアは嫌悪感で何も言えない。


「ふふ、我に寄生されると漏れなくこの目になる。次はエルフの身体も、ありよなぁ?」


「ひぃぃッ」


 震えあがったエルティアは王利の後ろに隠れてしまう。


「冗談だ。今はこの身体が気に入っているのでな。やはり寄生するならば若い娘に限る」


 気味悪く笑うと、首領がベットから這い出る。

 エルティアも若い方ではあるが、どうにも首領の好みは十代以下の女性らしい。

 エルティアは対象外。200年以上生きた自分に賞賛を送るエルティアだった。


「そのブレスレットの使い方は?」


 ここで王利に話を振る首領。首領の容姿に呆然としていた王利は我を取り戻し慌てて報告を始める。


「あ、はい。ここの摘みを回すことで別世界に行けるようです。二十六のメモリがありますので、その分の世界があるかと。ここは第四世界。エルティアの世界は第十七世界でした」


「ふむ、扱いは簡単だな」


「ええ。もしあいつらの手に渡れば平行世界とやらがどうなることか……」


「ふふ。面白い。我も使ってみたいぞW・B」


「そう言われましても……」


「取れぬならその腕を引きちぎればよかろう」


 ぎょろりと動く目のせいで分かりづらいが、ニタリと笑っているような表情の首領。

 おそらくジョークなのだろうと、王利は大げさに驚いて見せる。

 本気だったらゾッとしない言動だが、仮にも悪の首領なのだ。本気で王利の腕を引きちぎりかねない。


「そ、そんなご無体なっ」


「クックック。冗談だ」


 案の定冗談だったことに安堵して、王利はカーテンの外を覗き見た。

 先程まで随分賑やかな音が響いていたようだが、今は不気味な程に静かになっている。

 敵を倒したのならそろそろ怪人の一人くらい帰ってきそうなものだが、その様子は全くない。


「声がやんだようですけど……どうなったんでしょうか?」


「さてな……もしもの時は任せるぞW・B」


 何を? かと思ったが、首領の顔を見てなんとなく察する王利だった。

 つまり、自分が最終防衛ラインに抜擢されたのだ。


「わ、わかりました」


 空気が変わった。

 そんな気がして、王利は生唾を飲み込む。

 謁見の間の向こうから、ゆっくりと誰かがやってくる。


 首領とエルティアを残し、警戒しながら王利はカーテンの外に出た。

 逃げ出したい気分だったが、さすがに首領の目前で敵前逃亡など自爆装置を押して下さいと言っているようなものだ。

 進むも地獄、戻るも地獄。ならば戦って打ち勝つ方にかけるべきだろう。


「さすがに、三人で潰すのはきついな」


 やってきたのはバグカブト。

 すでに変身を終えていて、カブトムシの厚い装甲を持った怪人が、王利の前に立ちはだかっていた。


「幹部どもはなかなかに骨だった」


 さっき出て行った幹部たちがどうやら全滅したらしい。

 それでも、バグカブトの容姿は傷を負っているようには見えなかった。


「ふむ。先に行ったあいつらよりも、一階を掃除していた俺が先に着くとはな。まあいい。首領はそこか小僧」


 独り言をつぶやいていたかと思えば、王利に視線を向けてくるバグカブト。その容姿は圧倒的強者を彷彿とさせ、王利に恐怖を呼び起こす。

 しかし、後ろからはそれ以上に危険な圧力がかかっていた。

 何しろ王利の後ろに存在するのはインセクトワールドの首領なのである。

 ここで恐怖に負けて逃げ出したり、敗北を認める訳にはいかない。

 もしも、少しでも、罠だとしてもそういう態度を見せた時点で、王利の胎内に内蔵された自爆装置がその効力を存分に発揮するだろう。


「だったらなんだ?」


 だから、バグカブト相手に気丈に立ち向かう。

 口ですら負けを認める訳にはいかないと、せめて憎まれ口を意識する。


「なぜ人間形態なのかわからんが……お前は洗脳を受けていないらしいな」


「だから、それがなんだってんだよッ」


「インセクトワールドはもう終わる。ムダに死ぬことは無いと思わないか? リベルレから聞いた。お前だろう、パピヨンの思い人とやらは。こちらに来い、パピヨンも喜ぶ。同郷のよしみでもあるしな」


 その誘いに、王利は答えなかった。代わりに、


「flexiоn!」


「なるほど。それが答えか」


 眼前に現れた奇怪な怪人に、バグカブトは拳を握り込む。


「いいだろう。後悔しろッ」


 その言葉が戦いの開始だというように、王利が駆ける。

 大ぶりのバグカブトの右腕を掻い潜り、懐目掛け鉤爪を振う。

 しかし、バグカブトが左腕でガードすると、その装甲に傷一つ付けることなく弾かれてしまった。


「変わった外装だな。その姿、動植物ではあるまい。何の虫だ?」


「言ってやる義理は無いだろッ」


 余裕のバグカブトに猛攻を繋げる王利。

 その威力は哀しい程にバグカブトに効いていなかった。

 バグカブトの外骨格はあまりに強固で、王利の力ではその装甲を破りダメージを与えることなどできなかったのである。


 きっと、他の幹部たちもこの骨格に阻まれ、バグカブトを傷付けることなく倒されたのだ。

 一度でも攻撃を受ければ死すらありうると、バグカブトに攻撃させないよう王利は持てる全ての力でバグカブトの体勢を崩しにかかる。


「おいカブト、何遊んでやがる? 代わってやろうか?」


「力不足ですねぇ。もう諦めたら?」


 王利は絶望した。

 バグカブト一人でも重荷だというのに、バグカブトの背後からさらに二人のバグソルジャーがやって来たのだ。

 相手二人は未だ人間形態だが、敗北は必至だといえた。


「コイツは俺に任せろ。それよりあそこに首領がいる。そっちを頼む」


「ふざけるなッ」


 首領に向かい進みだした少女と青年に、慌てて止めに入る王利。


「お前の相手は、こっちだッ」


 注意が逸れたのを好機と、バグカブトの渾身の一撃が炸裂。

 バギャッと何かがへしゃげる音が響き、王利の身体が吹き飛んだ。

 背後のピンクカーテンへと飛び込み。巻き込みながらベットに落下する。


「なるほど、さすが甲虫王カブト男よな。我が元にいればまさに最強だったろうに」


 千切れたカーテンの間から、姿が露わとなった首領が感心する。


「うっわ、キモッ」


「な、なんだありゃ?」


 首領の容姿にさすがのバグソルジャーたちも驚く。

 その一瞬の停止が、王利にとってのチャンスといえた。

 むくりと起き上がると、エルティアと首領の前に飛び出す。


「首領、跳びますッ」


「よかろう、この窮地、越えて見せよ」


 首領の赦しを得て、王利は右腕のブレスレットの摘みを回す。

 とたん、王利から漏れ出た光に、カブトが叫んだ。


「マズい、何かする気だッ」


「任せてッ」


 バグソルジャー最速を誇るバグリベルレこと真由が走る。

 その後ろに境也が続き、遅れてバグカブトも王利向けて走り出す。

 王利を中心に光が溢れる。


 真由も境也も王利に届くことは無かった。

 しかし、光が収まった時、その場にはバグカブトだけが取り残されていた。

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