第二十一世界
王利は一人、新たな異世界へと来ていた。
第二十一世界。
その世界は今までと違い、暗黒に支配された世界だった。
いや、そもそも足場がない。
視界も効かない。
ただただ黒いだけの世界である。
空気が在るのかどうかすら定かではないが、きちんと生存していられるのだから一応、それらしきモノは存在するのだろう。
一応、用心して変身をしておくことにする。
すると、クマムシ男になるのだが、周囲の暗闇と同化してしまい、自分がどこに居るかすら分からなくなってしまった。
身体を動かして見てみても黒い身体が暗闇に解け込んでイマイチ分かりにくい。
なんとなくそこに存在するという感覚はあるのだが、なんとも不思議な状態だった。
地面もあるのかないのかよくわからない。
何かを踏んでいるというわけではなく、ただただその場に存在するという状態で、歩こうと思えば歩ける。
しかし地面を踏んでいる感覚は無い。
でも宙空でもない。
身体が進んでいるのが知覚できるのだ。
やや戸惑いながらも進む。
とにかく人、あるいはそれらしいモノに出会わなければ話にならない。
この世界がどれ程の次元に位置するものなのかもわからない。
わからないだらけの世界で、とにかく手探りで前進していく。
恐怖はあるが、立ち止まっているわけにもいかないのだ。
道を切り開けるのは自分だけなのだから。
だから勇気を持ち、前に進む。
前人未到の場所を勇気を持ち進む者。それを勇ある者、勇者と呼ぶということを、王利は全く気付いて無かったが、そんなことは彼にとってはどうでもいいことだった。
しばらく前に進んで行くと、何かの声が聞こえた。
誰かがいるのがわかる。
それだけじゃない。自分が認識できる言葉だ。
日本語ではないのかもしれないが、日本語として認識できる言葉だった。
「ほれ、そこじゃ、そこ、おおおおおおっ!? これは予想外じゃわい」
「あはは。相討ちになってるし」
「いやー、やっぱ一騎打ちは見モノだな。最近こういうの見てなかったから久々に熱くなるぜ」
声のする方向に明かりがあった。
近づけば近づくほどにその明りに灯されて何がいるのかが明確に見え始める。
ちゃぶ台があった。
そしてスクリーン投影中の映像があった。
それを囲む数人の生物が存在していた。
どうやら何かの映像を見ているらしい。
やんややんやと騒ぐその姿はただのへべれけどもにしか見えない。
しかし、その姿は異常であった。
銀色の素肌を持つ巨大な目を持つ生物。……グレイだ。
他にも青い炎の人型男。液体で出来た女。エスカンダリオのように顔だけ存在する女。この暗闇だと緑色に光って見える。
バグアントのように流線型のスマートな体躯の黒い男。暗い世界だというのに、彼が黒い色をした生物であるのが見えるのが不思議だ。
そして、彼らの上座に座る禿げた羽の生えた老人。
皆酒の様な物を飲みながら目の前に映された映像に魅入っている。
映像は幾つもあり、その全てが別々の場面を映している。
巨人と機械兵器が闘っている所とか、正義の味方が人波をかき分け走っている所、あるいは物語の勇者として出てきそうな女性が二つの剣を手にして空飛ぶ猫と闘ってる……あれ? あいつに見覚えあるの気のせいかな? と目を擦る。
待て、あそこの気持ち悪い生物が映ってる映像。あの生物を、王利は知っていた。
「フィエステリア……?」
「ん?」
思わず呟いてしまった王利に六人は即座に反応していた。
無数の瞳に見つめられ思わず焦る王利。
しばし見つめ合う。
相手は六人、下手に攻撃しても返り討ちに合うのは明白だ。
どうする? 決まってる。緊急回避を取ればいい。
だが、それは杞憂に終わった。
「おーう。誰かは知らんがそんなとこ居らんとこっちゃこい」
「あはは、真っ黒生物二人目来たしー、あんたの知り合い?」
「知らんよ。だが危険な奴ではなさそうだ、折角ここに来たのだ飲んで行け」
……え? いきなり宴会参加ですか?
王利は思わず目を点にする。
転移用のダイヤルに伸ばされた手が固まった気がした。
「ほれほれ、さっさと来んかい。裁判長の酌が飲めんのかぁ?」
「ええと……」
「裁判長、酔っぱらうと絡んで来るので諦めてください。ほら、こちらどうぞ」
「はぁ……」
グレイモドキの生物に促され、座布団に座る。
羽の生えた老人に継がれた酒をどうやら飲まなければならないらしい。
「あの、俺未成ね……」
「何を言うか、そんな姿しておいて未成年も何もあるもんかい。ありゃあ一部の時代の人間の常識じゃ。駆け付け三杯行ったらんかい!」
「あ、君安心していいよ。それ、酒じゃなくてアシク茶っていうお茶みたいな奴だから」
どうやら飲んでも酔わないものらしい。
なので遠慮なく飲むことにした。
というか、本当に三杯飲まされる王利だった。