爆散
「離れろ! 墜落するぞ!」
バグアントが叫びながら跳ぶ。
思わずキャッチしたのはほたるんだ。
他の面々も戦艦から距離を取る。
炎と煙に包まれながら少しづつ高度を下げて行く戦艦。
それを遠くからロクロムィスが眺めている。
ロクロムィスの内部で大きく開かれた口から顔を覗かせるのは、首領とゼルピュクネー03、そして、ラナだった。
ラナは糸の切れた人形のように虚空を見ている。
ゼルピュクネー03が彼女の背後から彼女を抱えてこの場に連れて来たのだ。
首領はその横で、墜落して行く戦艦を見ていた。
「ふむ。ゼルピュクネー01を手に入れる事は出来なんだか。まぁいい」
「よいので?」
「うむ。お前さえいれば問題などないからな。向こうに帰ったら忙しくなるぞゼルピュクネー03。お前には秘密裏にやって貰いたいことが山のようにある。それとラナ。喋れんだろうが良く聞いてくれ。お前の存在が明るみに出た以上、お前の身体を直すことは確定した。渋ればバグレンジャーとの休戦もご破算になるだろうしな。だからだ。しばらくの間、身体を借りるぞ。今、お前に元の世界に戻られては困るのでな。クク、ハーッハッハッハッハ」
首領の高笑いが響き渡る。その刹那、地面と接触した戦艦が地面を穿つ。
船体が衝撃を殺しきれず半ばで折れ曲がり、動力部の重要機関が損傷した。
次の瞬間、音が消えた。
収縮から一瞬で広がる眩しい光。
衝撃波が周囲を破壊し、地面を削り木々を消し飛ばす。
風が渦を巻き悲鳴をあげて真空波となり周囲を切り飛ばす。
遠く離れたロクロムィスは、首領たちを守る様に口を閉じ地面へと潜った。
だが、爆心地から退避していたバグレンジャーたちは悲惨だった。
ハルモネイアとタイプγが咄嗟にバリアを展開し、クルナが言霊の防壁を張り巡らすも、余りに速く到達した衝撃波と爆風に成す術なく吹き飛ばされる。
誰も彼もが死を覚悟した。
吹き荒れる風が彼らを前後左右に揺さぶり地面に叩きつけようと吹き荒れる。
だが、突如その風が彼らを救いだす。
地面に落下仕掛けていたバグリベルレを上昇気流が吹上げ、
岩肌へ激突しそうなバグパピヨンを優しく着地させる。
無数の風が唸りを上げ竜巻が発生し、さらに風が集まり竜巻を温帯低気圧へと変化させる。
すべて、風の邪精霊エスカンダリオによって行われたものだった。
仲間が全員安全に着地したのを見計らい、爆風と熱波を全て上空へと押し上げる。
そしてしばらく、盛大な爆発の被害が収まった頃を見計らい、ようやく風が鳴り止んだ。
「さすがに肝が冷えたぞ。風に吹き殺されそうになったのは初めてだ」
エスカンダリオが呟きながら降りて来た。
そんなエスカンダリオの元へと皆が集まっていく。
その中に、戦艦に入った約一名が居ないことに、エスカンダリオも気付いた。
「むぅ? 勇者はどこに行った?」
「あっ。そうです勇者様に早く水を掛けないと!」
「王利君ッ!」
エルティアの言葉より早くバグパピヨンが大空を舞う。
未だ放熱しきっていない爆心地は熱で揺らめき残骸から炎が噴き上がっていた。
だが、改造された彼女ならばその灼熱の地でもなんとか活動で来た。
爆心地に近づきながらあの樽の様な生物を探す。
しかし、見当たらない。
目に見える場所にその存在が見つからなかった。
「王利くーんっ!」
「王利さーん。どこで干からびてますかーっ」
いつしかバグリベルレも捜索に加わっていた。
ハルモネイアもやって来て、機械特有の操作法で探しだす。
サーモグラフィ。周囲が熱過ぎて使えない。
エックス線。そもそも意味がない。
いろいろな視覚で捜索するハルモネイアだったが、結局王利を見付けるに至らなかった。
数時間後、ようやく大地も冷えて来たのか人が入れるくらいには冷まされていた。
首領もここで合流だ。
ロクロムィスから出て来た菅田亜子は、同じくやってきたクルナに視線を向ける。
「言霊でW・Bを呼んでみろ。多分すぐ見つかるだろう」
「……いいの?」
「何がだ? さっさとしてやれ、アレが壊れかねんぞ?」
泣きそうな声で探すバグパピヨンを横目で見る首領。
それを見たバグアントとバグカブトが頭を抱えている。
クルナも困った顔をしつつも言霊を使うことにした。
「『W・Bさん、ここに来て!』」
出来るだけ声を上げて言霊を使った。
だが、何も近くにやってくる気配がない。
もしくはW・Bでは彼の真名にならなかっただけかもしれないが。
つまり、そういうことだ。
「さっきの爆風で遠くに飛ばされたらしいな。範囲を広げようか?」
「それか、消し飛んだかだな」
バグアントの言葉にバグリベルレが頭を叩く。
不用意発言ですっ。と怒る視線の先には、今の言葉を聞いていなかったバグパピヨンが未だに必死に捜索していた。
今の発言をバグパピヨンが聞いていたのなら、あまりのショックで気絶していたかもしれない。