VS タイプε10
無数の水の刃が飛び交っていた。
絶え間なく放出される水を右に左に、時に旋回して避けるのはたった一人の少女。
蜻蛉という名の因子を持って改造されし改造人間の一人。
そして、バグレンジャーという正義の味方に属するバグリベルレと言う名の少女が空中を駆ける。
背中で微振動を絶えず続ける四つの羽をはためかせ、バグリベルレが水の槍が飛び交う濃霧の中をジグザグに動く。
彼女の後を追うように飛び交う無数の圧縮水。
しかし全ての攻撃が紙一重で避けられていく。
だが余裕はない。
バグリベルレも少しでも判断を間違えれば一瞬でハチの巣のように打ち抜かれて死ぬだろう。
一度もミスの許されない弾幕シューティングゲームのような状況だ。
ただ、ゲームと違うのは当れば本当に死ぬということだ。
王利たちの誰もが気が気でない。
「ハルモネイア、あの圧縮水を出すノズルを可能な限り破壊できる?」
「了解でありまるドクター花菱」
唯一動けるハルモネイアが少しでもバグリベルレの負担を減らそうとドクター花菱の指示にしたがい圧縮水を放出するノズルを一つ、また一つと撃破し始める。
ヘスティも口からのレーザービームでフォローを行い始めた。
これで少しでもバグリベルレの突破確率が増えればいいのだが。
そんな思いから、バグパピヨンも鎌を振ってノズルを撃破する。
王利はそんなバグパピヨンに抱きつく様な格好で飛翔されるがままである。
何度も危ないところがあった。
圧縮水が無数に飛び交うのだ、時には避けられない程の密度で密集される時もある。
そこを野生の勘で早めに回避するバグリベルレ。
もしも突撃するのがバグパピヨンなら、既に三回は撃墜されているとバグパピヨンは青い顔で親友を見つめる。
後少し。
人一人通れるかどうかといった際どい隙間を潜ったバグリベルレの目の前に一筋の圧縮水。
蜻蛉の怪人であるからこその急停止。
静と動を使いこなしたバグリベルレは最後のトラップに掛かる事も無く圧縮水を突破した。
ようやく見えたゼルピュクネー01。しかし背後からは圧縮水のノズルがバグリベルレへと向きを変え、ゼルピュクネー01に近づかせないとばかりに彼女を追い詰めていく。
背後に気を付けなければならなくなったバグリベルレは先程よりか幾分苦戦気味だ。
バグリベルレにノズルが向いている分逆方向になったハルモネイアたちのノズル撃破速度は上がったが、バグリベルレの危機は増したといっていい。
何せ背後に圧縮水ノズル、前方にゼルピュクネーがいるのだから。
殺気を感じて急速落下。
刹那、頭上を通りすぎる赤いレーザー。
ゼルピュクネー01の目より放たれたアイレーザーだ。
危うく当るところでした。と思わず呟きを洩らすバグリベルレ。
自分の危機感知度の高さに思わず感謝していた。
旋回しながら上昇し、ゼルピュクネー01へと接近する。
飛び交う水がバグリベルレの脇を肩を、足元を、ギリギリの角度で通り過ぎていく。
それを破壊するハルモネイア。
彼女にも水の刃が襲い掛かるがバグリベルレへの攻撃に比べれば残りカスのようなものである。
難なくかわしつつレーザーソードで一つ一つ確実に潰して行く。
ヘスティからのレーザー攻撃が無数の水を穿ちゼルピュクネー01の肩を貫通した。
むぅっと呻くゼルピュクネー01。
ダメージを喰らったと知るや防壁を展開し自身を鉄の壁に閉じ込める。
「マジっすか。エルティアさん、用意よろっ」
「いつでも行けます!」
圧縮水の背後からの攻撃を潜り抜け、ついにバグリベルレが接敵する。
掌を真上に掲げた瞬間、
「光の聖剣」
バグリベルレの右腕が光の刃と化す。
バグリベルレは一瞬の躊躇も無かった。
防壁として出現していた鉄を切り開き、その内部にいるゼルピュクネー01に光の刃を突き刺した。
「なっ、があああああああああああああああ!?」
自身を焼く浄化の光に慄くゼルピュクネー01。アンデッド系等の種族であれば絶叫モノの一撃だが、機械族の彼にとってそれは致命傷ではなかった。
しかし、防壁を破られ一撃を入れられた事実と、全身を駆け廻る光の一撃に戸惑いと慄きの声を迸らせていた。
圧縮水のノズルが全てバグリベルレへと向けられる。
雷撃を孕んだ水の刃がバグリベルレへと殺到した。
「これを、待っていました!」
と、剣を引き抜くと同時に急浮上するバグリベルレ。
圧縮水が彼女が一瞬前に居た場所目掛けて集合する。
そう、ゼルピュクネー01が存在する動力部へと、ダイアモンドも真っ二つの凶悪な水が何の遠慮も無しに襲い掛かったのだった。
その時、ゼルピュクネー01には何が見えていたのか、王利たちに理解することなど出来はしない。
ただ、ゼルピュクネー01の最後は誘われての自爆。という味気ない最後と相成った。
最後の力を使い果たしたとばかりに安堵の息を吐くバグリベルレ。
だが、そんな彼女の目の前で、無数の水に穿たれた哀れな機械が暴走を始めていた。
膨れ出す危険な熱量にバグリベルレは慌てて急旋回。
逃走を開始する。
しかし、爆発は彼女の速度すら追い抜かす勢いで、急速に、唐突に発動したのだった。