VS タイプε8
「来たのですか……」
無数の管に繋がれたゼルピュクネー01。
無感情に王利たちを見た彼は溜息混じりに虚空を見上げる。
何らかの思いを断ち切る様に、すぐに首を王利たちに再び向けた。
「私を破壊するのですね」
「まぁ、そうなるだろうな。悪いが後顧の憂いを断たせて貰う」
「残念ですが、私を倒した所で我が意志を継ぐ者が次の……」
「それはありませる」
ゼルピュクネー01の言葉を遮る様にハルモネイアが告げる。
否定されたゼルピュクネー01は怪訝そうにハルモネイアを見た。
「あなたの次に全ての機械に指令を送るのは私でる。すでに皆の意志も確定させましる。反論はなく変更もありませる。あなたが破壊されればそこで終わりでる」
「なっ!? バカな。そんなはず……」
ここで初めてゼルピュクネー01が狼狽する。
慌てて確認するように虚空に視線を向けた。
顔を青くさせる。
「ありえない。更新をして意識を保つ? なんだこの感情プログラムは? 我々にはないモノだ。なぜ貴様がこの様な……アクセス不可!?」
「私が代表となった時に解放されまる。皆、マザーの求めた感情を手に入れたいと私の台頭を心待ちにしてくれていまる。よって、あなたの死は急務とされまる」
「……なるほど、私は邪魔者ですか」
くくっと笑うゼルピュクネー01。
それに合わせ、動力室のドアが自動で閉まる。
思わずそちらを振りむいた王利たちの目の前で、ドアにカギが掛かる音がした。
さらに、動力となるゼルピュクネー01の左右上方からレーザー銃のような管が鎌首をもたげる。
その数六対。
さらに床に流れ出す何かの液体。
空中に散布され始める謎の靄。
「『この場の全員の体内に入った異物を無毒化!』」
咄嗟にクルナの言葉が響き渡る。
ソレに遅れて視界を濃霧が遮り始めた。
下に流れる液体は酸や塩基物ではないらしい。
王利は少し安心したように息を付く。
一応、飛べる面々は下の水に浸からない様クルナやエルティア、ドクター花菱を連れて宙空にホバリングしたようだ。
これでタイプγとマンティス・サンダーバードが戦線離脱扱いだが、そこは問題無いだろう。
レーザー銃から赤い線が延びる。
濃霧に紛れてレーザーが拡散しているが、少しづつ動き王利にポイントが合わさる。
刹那、殺気を感じた王利は即座に飛び退いた。
数瞬遅れて発射される高出力の水。
水圧により鋭い刃と化したそれが王利の装甲を浅く貫く。
腕の一部に小さな穴を穿ち、水の刃は床の水へと溶け消えた。
が、それだけではなかった。
攻撃を喰らった王利も、そして床に足を付けていたバグカブトとバグアントも、等しく悲鳴をあげて痙攣する。
何が起こったか理解できず、内側を焼けるような痛みが走り、彼らは水の流れる床へと倒れ伏す。
なんとか片膝だけで耐えきった王利は、自分が受けた攻撃に焦りを浮かべていた。
装甲が、破られた。
それだけじゃない。今の感覚、体中を走ったのは電気だ。
つまり、今の一撃は、電撃を含んだ水の刃。
ただ当るだけでも危険だが、床に流れる水に当るだけでも危険だ。
いや、今はまだいい。
濃霧となっている空気を伝いだせば、全滅も遠くない。
「エルティア、バグアントとバグカブトの回復を! 絶対に床の水に触れるな! クルナ、自分たちに濃霧と水と……電撃が来ない様言霊で頼む!」
「で、電撃!?」
さすがに今の一撃だけでは何をされたのか理解できていなかったらしい。
慌ててエルティアが魔法を唱え、クルナもまた自身の防備を整え始める。
そして動き出すほたるんとハルモネイア。レーザーサーベルとカノンに腕を換装し、王利より先にゼルピュクネー01へと向かう。
バグパピヨンが鎌で、バグリベルレが突撃で、ハルモネイアたちに遅れて動き出す。
だが、接近すら出来なかった。
水の刃が咲き乱れる。
逃げるだけで手一杯だ。
さらにいえば狭い室内。
外れた刃は床に当り、内包する雷撃を王利やバグカブト、バグアントへと放電させる。
その度に王利の悲鳴が響く。
泣きそうになりながらエルティアが回復を行うが、三人が一度にダメージを喰らうので回復が追い付かない。
王利は咄嗟にバグアントを掴み上げクルナを持ち上げたままのタイプγへと投げ飛ばす。
クルナの命でバグアントを受け取ったタイプγはすぐに彼を雷撃の床から離れた空中へと退避させる。
次はバグカブトなのだが、さすがにこの巨体を持ち上げるのはキツイ。
四苦八苦していると、見かねたほたるんがバグアントを引き上げてくれた。
これで王利以外床にいる存在はなくなったものの、ほたるんが戦線から離脱してしまった。
バグパピヨンがそれに気付いて王利に近づく。
彼を抱え上げ最後の一人を救いだしたものの、これでは戦いもままならない。




