VS タイプε3
戦艦の外装に取り付けられた無数の銃器は一時間もの戦闘で軒並み破壊され尽くしていた。
安全を期してバグレンジャーの面々が虱潰しに一つ一つ潰していたのだ。
何故面倒なことを行うかと言えば、破壊し残したモノが一つあれば誰かを殺す事が出来るから。
とりあえず危険を全て薙ぎ払っておいてから甲板で一息つこうという腹積もりだった。
少し落ちついて作戦を練ろうと言うのだ。
なにせこの戦艦内部に存在するゼルピュクネー01を破壊するには敵の体内に入り込まねばならないのだから。
下手に侵入して返り討ちに遭いましたでは意味が無い。
やるからには確実に破壊して悪の芽を潰す。それが正義たる者の使命である。
とバグリベルレが講釈を垂れ流していたが、バグカブトたちとしては急ぐ必要が無いので一つ一つ確実にゆっくり潰して行こう。というだけの行動だった。
「さて、これから内部に侵入する訳だが……まずはW・Bお前が行け」
「ちょっ。アント! なんで王利君なのよ!」
「パピヨンは少し黙れ。お前はW・B優先で大した作戦は考えられまい。いいか。こいつが悪だから先に偵察させて殺させておきたいと言う訳ではない。こいつの生存能力の高さを把握しているからこそまかせるのだ」
バグアントの言う事には、王利ならどれ程危険な罠があってもクリプトビオシスで乗り切れるはず。
ならばこそ、先陣切って内部に向い、相手の罠にワザと掛かってほしい。
ということである。
それ、下手したら死ぬよね? なんて王利が言葉を洩らすが、一番堅実であることも確かだった。
バグパピヨンたちを危険に晒すよりは王利の方が安全と言えば安全だ。
しかし、だからと言って危険地帯に自ら足を運ぶ度胸が在るかといえば王利にはない。
周囲を見渡す。じゃあ俺が。などと立候補して来るような奴はいない。どうぞどうぞのギャグをすることすらできないようだ。シャレのわからない面々だと王利は嘆息する。
さすがに言霊が使えるからとクルナに行かせるのも酷だと王利は選択肢が無い事を知る。
溜息を吐いてハッチの方へと歩きだした。
「んじゃ、ちょいと行ってくる。エルティア、水魔法の用意よろしく」
「はい。お任せください勇者様!」
そしてハッチを開いたその瞬間、真上にバーナーを向けているロボを見付けた。
開かれたハッチから火柱が噴き上がる。
まさかの奇襲に対応すらできなかった王利は一瞬でクリプトビオシスを発動しており、わらわらと溢れ始めるロボに紛れて行った。
「チッやはり楽には中に入れんか」
穴のあいた金属筒をバグカブト達に向ける作業用機械の群れ。
ブースターを噴かせて甲板へと上がって来る。
バーナーによる火炎放射が一斉に噴かれる。
慌てて空へと逃げるバグカブトたち。
紅蓮の炎が空気を焼き尽くす。
燃える上がる甲板。足場が潰されたことにバグカブトが舌打ちする。
これでは足の踏み場が無い。
さすがにこの炎ではロボたちも無傷ではないようで、足元を融解させながら動き始める。
無傷なのは樽型のカサカサミイラだけである。
「王利さんどうしましょう!?」
「あの炎を鎮火してロボを殲滅した後だ。今は放置しろ。どうせ奴は生きてる」
確かに殺そうとしてもまず死なないだろうと皆が納得して王利は放置されることになった。
炎に包まれる乾眠状態の王利を見ながら、バグパピヨンが不安そうに頷く。
ただ、彼らに炎をどうにかする術などエルティアの水魔法くらいしかなかった。
「それじゃ、連続で魔法を……」
「必要無いわ。私に任せて『炎、消えて』」
クルナが魔法を唱えようとしたエルティアより早く言霊を発動させる。
余りに無茶振りな内容だ。ただそれを言うだけで炎がどうにかなる訳が無い。
そう思ったバグアントだったが、目の前に広がっていた炎が風に吹かれもしないのに鎮火を始めてしまう。
明らかに戦艦を火達磨にしかねない程の火の海になっていたのが一瞬で消え去ったのだ。
今更ながらに言霊の脅威を思い知らされた気分だった。
そして思う。このクルナという少女がインセクトワールド側に居ると言う事実。おそらく、元の世界に戻れば最大級の脅威となるだろう。
隙を見て、暗殺しなければならない。
世界を救うためにも、インセクトワールド再建を阻むためにも、罪は無いだろうクルナを、確実に葬り去っておかねばならない。
でなければ、第四世界はインセクトワールドに滅ぼされる。
バグアントは消えた炎を見続けるクルナを横目に見る。
今はまだ、利用せざるを得ない。しかし、この世界でのごたごたを片付けたならば、彼女は人知れず殺さねばならない。これは絶対の確定事項だ。
ただ、今は、眼下でバーナーを掲げるロボたちを破壊するのが先だろう。
炎をまた打ち出される前に全て倒しきる。
バグアントはバグカブトと視線を交わす。
「行くぞカブト」
「当然だ。全員、突撃!」
バグカブトの号令で全員が急降下して襲いかかる。
噴き上がる炎を潜り抜け、ロボ軍団の蹂躙を始めた。