最後の一人
秘密結社の勇者様、今年最後の投稿です。
次回投稿は1月1日午前0時。新年挨拶と共に投稿予定です。
「被害状況はどうだ?」
「ふむ。実質的被害はエルティアさんが回復してくれてるから無いといった方がいいか? むしろ回復の効かないほたるんが一番被害甚大かね」
首領の言葉にドクター花菱が応える。
王利はエルティアが回復魔法を掛けているのを傍目にしながら、ほたるんをみた。
まさに満身創痍である。
「ご安心くださいマスター。私はまだ稼働しております。メンテナンスを行えば直ぐに戦線復帰できるでしょう」
「それをやるのはドクターなのだがな。それより、向こうも終わったらしいぞ」
近づいてきたバグアントが上空へと視線を向ける。
タイプγに連れられたクルナとハルモネイアに連れられたヘスティがこちらに向かって来るところだった。
「おい。なんであのロボが一緒に来ている!?」
バグカブトの言葉に首領が軽く嗤った。
どうやら首領だけは気付いたようだ。
クルナが言霊を使いあの機械を無力化しただけでなく仲間に引き入れたのだろう。
これは素晴らしい。意図せずインセクトワールドの戦力がアップしたということになる。
「少し時間かかった」
「構わん。全員無事なら問題はないしな」
着地したクルナがロクロムィスを見上げて言うと、首領はクックと笑って言った。
その嫌らしい笑い声に一瞬顔を顰めるクルナは、無言で頷くとロクロムィスの体内へとタイプγを連れて消えていく。
「無事かヘスティ、ハルモネイア?」
「問題無いでる。ヘスティの体内に毒が残っている可能性はありまる。治療の優先をお願いしまる」
ヘスティはまだ気絶中なのかぐったりとしている。いや、違う。寝ている。
ヘスティの口元がむにゃむにゃと動いたのを見た王利は、心配して損したと思いながらエルティアの元へと案内する。
エルティアは丁度二人の治療を終えて、次に重傷のマンティス・サンダーバードの治療へと入った所だった。
直ぐに魔法を唱えて解毒を始める。
マンティス・サンダーバードには少し悪いが待って貰うことにした。
「しかし、コックル・ホッパーはどこにいるのだろうな?」
「ここまでやれば出て来てもおかしくないのだが……まさか逃げたか?」
「そいつなら、死んでるわ」
皆が驚く言葉を告げたのは、再びロクロムィスから出て来たクルナだった。
すぐ後ろから菅田亜子の姿で首領も現れる。
どうやらもうクルナを隠すつもりはないらしい。
「初めまして。アヴィニア村のクルナと言います」
しっかりとした挨拶と共にお辞儀をするクルナ。
その態度からは少し大人びた印象を受ける。
いや、むしろ大人びざるを得なかったのかもしれない。
相手が首領なので何かされたんだろう。と王利はクルナに同情の視線を向ける。
「ちょいと首領さんよ。この子は一体どうしたんだ? 言霊使ってたことから見て第二十世界の住人だとは理解したが? まさか拉致してきたんじゃ?」
「それについては既にバグカブトに伝えたさ。彼が我を殺していない。それが全ての証明でいいだろう?」
つまり、何度も説明する気はないからバグカブトに聞け。ということらしい。
クルナとバグカブトがその会話に無表情の視線を送っているが、王利しか気付いていない様だった。
ドクター花菱が憮然とした顔で会話を終える。それを引き継ぐようにバグアントがクルナに言葉を投げかけた。
「まぁいい。それよりクルナだったな。コックル・ホッパーが死んだというが、どうやって知った?」
「……タイプγから。蠅に殺されているのをゼルピュクネー01が発見。彼の意思を引き継ぎゼルピュクネー01が今は機械族を総括しているそうよ」
「となると、そいつさえ倒せば俺達の勝ちになるのか?」
「そうなると思う。それに……」
バグカブトの質問にクルナが答えていた時だった。
クルナの言葉を引き継ぐようにハルモネイアが遠く離れた空を見上げる。
「奴が来る……」
ハルモネイアの言葉に王利たちは彼女の視線の先を見る。
そこに、確かに何かが存在した。
空を飛ぶ巨大な鉄の塊。いや、それは鉄ではない。巨大過ぎる体躯を持った空に浮かぶ戦艦だ。
「タイプε……」
「ε!? タイプシリーズはまだ存在するのか」
「アレが今出来ている最後のタイプシリーズ。動力源は……ゼルピュクネー01」
クルナの言葉に王利たちは誰ともなく生唾を飲む。
最後の戦いだと言う事を、知らず誰もが理解していた。
アレさえ倒せば、この戦いも終わる。
ただ、その巨大戦艦はあまりに巨大で、あまりに遠い空の上だった。
チカリと、赤い光が漏れた気がした。
その瞬間、王利は思わずクルナを突き飛ばす。
首領がクルナの襟首掴みロクロムィスに退避した。
首領共々ロクロムィス内へ消え去ったのを見届けた瞬間だった。
赤い破滅の光の筋が地面を走り、王利を巻き込み遥か遠くへと過ぎ去って行った。
意識を取り戻したばかりの葉奈の悲鳴だけが響き渡った。