VS ゼルピュクネー8
さて、どう料理してやるか。
首領が考えていたのはその言葉に尽きる。
ロクロムィス内にいる彼女は、まさに鉄壁と言ってもよい動く城に囲まれている。
いかなゼルピュクネー二人掛かりといえども、重厚な岩石の塊であるロクロムィス相手では有効打などそう打てるものでもない。
彼らにとって勝つ見込みがあるとすれば、それはロクロムィス内にいる首領を殺す事しかない。
しかし、彼らはロクロムィスが別の生物に操られている屍であることを知らなかった。
ロクロムィスはこういう生物である。
そう認識している彼らは、外装を切り裂いてなんとかダメージを与えようと無駄な努力を行っていた。
そしてロクロムィスの巨大な腕から繰り出される打撃を受けて自分たちばかりが壊れて行くのだ。
もはや勝ち目などあるはずもない。
しかし、彼らにとってあくまでロクロムィスは倒すべき相手なのである。
例え破壊されようともなんとか自爆で相手を。とさえ考えるゼルピュクネー02と03は、しかし自爆でロクロムィスに大ダメージを与えられる確証が無かった。
絶妙なタイミングも場所も算出出来ていない今の状態では下手に自爆しても効果は得られない。
ならばその行動は最終手段として取り置いて、今はあらゆる手段を模索すべきだ。
その為、彼らは途中からあらゆる方法を試し始めた。
頭上から、側面から、腕の破壊、背後の急襲、ありとあらゆる方法をとるが、どれも有効打になり得ない。
何度も何度も繰り返し検証する。
その度に避けきれなかったダメージが蓄積し、容姿がいびつに歪み始めるが、それでも彼らは止まらない。
まさに命がけで首領攻略を行おうとしているのである。
対する首領は余裕だった。
何しろロクロムィス内にいれば相手の攻撃など全く喰らわないのである。
楽をして敵を殲滅させる。
なんと理想的な戦い方か。
自分からの攻撃は一撃一撃が致死量の重撃。
敵の攻撃は堅い岩盤に阻まれ、あるいは幾ら欠けても地面に接地してさえいれば敗北は絶対にない。タイプδを屠った彼女にとって、もはやゼルピュクネーたちは消化試合のようなものだった。
空洞の目にゼルピュクネー02がレーザーサーベルを突き入れる。
だが、やはりロクロムィスは意に介さず拳を振り抜き、ゼルピュクネー02の脇腹を圧し折った。
とてつもない音が響いて文字通り真っ二つに折れ曲がるゼルピュクネー02。余りの衝撃に彼は左に折れ曲がり、右のわき腹が千切れてしまった。
内部に見える幾つかのコードが漏電を行っている。
これはマズいと見たゼルピュクネー03が突撃体勢から慌てて距離を離して警戒する。
今、自分が接敵しては彼の二の舞いを演じることになる。
それはマズい。
無防備になったゼルピュクネー02にさらなる追撃が襲う。
破壊されたわき腹が邪魔になり回避すらできなかったゼルピュクネー02は巨岩の一撃をまともに食らい四肢を飛び散らせて地面に激突する。
あれではもう戦えまい。
ゼルピュクネー03は02を戦闘不能と判断し自身のみでロクロムィスと戦う事を決意する。
しかし、彼には有効な手段が見当たらない。
このままでは確実に負けるのは確定していた。
周囲を見渡す。
自分以外の機体もほぼ追い詰められている。
このままでは主人からの指令を完遂できない。
考える。
生まれて初めて自分の意思で彼は考えた。
アレを倒すにはどうすればいい?
レーザーソードもダメ、マシンガンもレーザービームも効果はない。
切り刻んでもすぐに周囲の地面から身体を作りだし再生してしまう。
外装が堅過ぎて内部まで届かない。
……内部?
ふと、電撃が走るような感覚を覚えた。
ゼルピュクネー03は改めて目の前の敵を見る。
全身余すことなく見続けていると、自分の考えが少しづつ形を成して行くのがわかった。
あの無防備に開かれた口、あの内部に入り込めば内部から崩壊させられないだろうか?
生物というものは内部から破壊されることを想定して造られてはいない。
これは機械族にも言えることではあるが、幾ら外装が堅く回復してしまう化け物であろうとも、その内部からの攻撃まで想定されているのだろうかと。
その答えに辿り着いたゼルピュクネー03はブースターを点火する。
攻略法の最有力候補が見つかったのならば、行くしかない。
超高速でロクロムィスの口へと飛び込む。
迫りくる巨岩の拳を掻い潜る。避け損ねて米神あたりに掠ったりもしたが、ゼルピュクネー03は気にせずロクロムィスの口内へと飛び込んだ。
ロクロムィス内に入り込んだゼルピュクネー03はその内装に驚き目を見張る。
それは生物の体内ではありえない構造だった。
家だ。この生物は体内に部屋がある。
「くくく。ようこそゼルピュクネーとやら。歓迎するぞ」
そしてこの部屋の主、幼い少女に擬態した悪魔が不敵な笑みを湛えてゼルピュクネー03を出迎えていた。