VS ゼルピュクネー5
ゼルピュクネー08と戦うことになったのはエルティアである。
彼女はエルフ族の王女であり、戦闘訓練などといったことをしている人物ではなかった。
魔法を幾つか覚えているが、実際の戦闘など殆どした事はない。
回復魔法はそれなりに得意ではあるし、補助魔法は一般的にエルフは得意なのでエルティア自身も一番得意な程には習っている。
ただ、今回の戦いにおいて使える魔法はと言えば、反射の盾と光の聖剣だろうか? あとは牽制用に使える雷の魔法矢あるいは風の魔法矢ぐらいだろう。
この中で機械であるゼルピュクネー08に効果が望めるのは光の剣と雷の魔法矢。
自前の弓を取り出し構えるエルティアは、対峙しているゼルピュクネー08を見定めながら考える。
果たして、自分が戦って打ち勝つことが出来るのだろうか? と。
始めに動いたのはゼルピュクネー08。ブースト移動で一気に距離を詰めて来た。
すかさず弓で対抗するエルティアだが、そのことごとくがゼルピュクネー08の装甲に弾かれていた。
普通の弓では効果が否めないと早々見切りを付けて弓を投げ捨てる。
移動の邪魔になる矢筒も投げ捨て、同時に唱えたのは光の聖剣。
自身の腕に灯った光の刃で、接近して来たゼルピュクネー08の一撃をぎりぎり受け止める。
非力なエルティアではその重い一撃を受け切れず、剣に弾き飛ばされた。
「筋力強化!」
飛ばされた先で後転して即座に起き上がり、強化魔法を掛ける。
ただし、顔をあげた先には既に目前まで迫っていたゼルピュクネー08がレーザーソードを横薙ぎに振った所だった。
ぎりぎりで受け止める。
今度は剣撃に負けて吹き飛ばされる事はなかった。
魔法により強化された筋力でゼルピュクネー08の動力と拮抗する。
剣では切り裂けないと踏んだゼルピュクネー08は逆の手をマシンガンへと換装する。
エルティアはソレを見ると同時に慌てて魔法を詠唱した。
「反射の盾!」
マシンガン乱射と同時に張られた攻撃を反射する魔法の盾により、銃弾がゼルピュクネー08へと跳ね返る。
しかし、ダメージは与えられない。
全てがカンカンと外装に弾かれる。
この攻撃も効果はないと知るや、ゼルピュクネー08は目からのビーム攻撃に変更。
発射されたビームが反射の盾に反射され、彼自身の胴を穿った。
ここでようやくゼルピュクネー08は反射の盾の効果を立証する。
迂闊な攻撃はマズいと知った彼は即座にエルティアから距離を取ると、警戒しながら相手の能力を検証し始める。
対するエルティアも自身の攻撃力の無さを恨みつつ、相手をどう圧倒するか考え始めていた。
長い、膠着状態の始まりだった。
エルティアは自身の使える魔法を吟味する。
果たして何が効果があるだろうか?
こんなことになるのなら攻撃魔法のレパートリーを増やしておくべきだった。
ダークエルフ族なら攻撃特化の魔法もかなり覚えていただろうにと後悔する。
不意に、視界の片隅で王利が二対一で戦っている姿を見かけた。
確か、勇者様も攻撃能力は余り無いと言っていなかったか?
ふと沸き上がった想いに、なら攻撃手段を捧げてみようと思い至った。
自分の戦いもまだなのにそんな事をしていて大丈夫かとも思えるが、反射の盾はまだ作りだしたままだ。相手の不意打ちさえ気を付けていれば何とか防御だけはできる。
だから、光の聖剣を王利に使っておいた。
どうやら丁度いいタイミングだったらしく、彼は敵対者の剣撃を光の聖剣で受け止めていた。
思わずこちらにありがとうとアイコンタクトをしてくる。
そこでふと、エルティアは思い出した。
重要なことを言っていた。
それは勇者が魔王を倒す時の一幕だ。
勇者の体内に爆弾とやらが存在し、それを手に入れたいが勇者を死なせたくない。
どうすればいい?
という状況だった。
その時、彼らは知らなかったのだ。
だから、エルティアは言った。それでしたら、私がその自爆装置とやらの時間を止めましょうか? と。つまり、異世界の、魔法が存在しない場所では、時を止める(・・・・・)魔法を解除する魔法が無いのである。
「時止める空間!」
気付くと同時にエルティアは魔法を放った。
その瞬間、確かに、確実に、対象となったゼルピュクネー08の身体が固まった。
エルティアは警戒しながらも近づく。
動く気配はない。
完全に、完璧に魔法に掛かっている。レジストすら出来ていない。
再び光の聖剣を宿し、エルティアは無防備に佇むゼルピュクネー08の首を切り飛ばした。
壊れたゼルピュクネー08の首に身体にライトニング・アローをしこたまブチ込み完全に破壊しておく。
多少時間はかかったものの、エルティアは怪我もなく無事に勝利したのだった。




