VS ゼルピュクネー3
バグリベルレが得意とするのは空中戦である。
空の捕食者として名高いトンボ種の改造人間にとって、空はまさに独壇場だった。
彼らの羽は素早い動きだけでなく上下左右自由に移動可能のホバリング機能付きの羽なのだ。
他の昆虫と違い高性能な羽をもっているのである。
そんなバグリベルレに挑むのはゼルピュクネー06。
バーニアを吹かしブースターを点火して、ようやくバグリベルレに追走できるかちょっと遅いかといった具合である。
もちろんバーニアとブースターの点火方法によって急停止やホバリングを可能とするが、自由自在に動き回るバグリベルレと比べると若干のもたつきが見れた。
ゼルピュクネー06も自分の飛行性能と相手の飛行性能の差を鑑みて、飛行戦は不利であると気付いてはいるのだが、どうにもアドヴァンテージを手に入れる事が出来なかった。
なんとかバグリベルレのスピードについて行っているというのが現状で、ミサイルを幾度か放ったが、全て躱されてしまっていた。
ただし、一つだけ、彼には奥の手がある。
ワイヤーアームである。
ある一定距離にまで近づければ、その一撃でバグリベルレの身体を掴み、唯一の機動性を殺す事は可能なのである。
ただ、その一定距離に近づけないのが現状だった。
それでも機械的に動くゼルピュクネー06は奥の手を放つチャンスをただひたすらに待ち続けていた。
ほぼ100%の確率で捕まえる事の出来る最高の瞬間が、必ず来る。
バグリベルレの動きを見つめていたゼルピュクネー06が確信したことだ。
ランダムに避けようとはしているようだが、バグリベルレの動きは一定のリズムを刻んでいる。
そのパターンが間もなく解析される。
その時こそが彼にとっての反撃の狼煙を上げる時間だ。
今はただ地に伏して天命を待つ。
そんな面持ちだったゼルピュクネー06は、ついにバグリベルレの移動パターンを解析し終えた。
このデータならほぼ確実に次の激突で捕えられる。
捕獲出来ればそのまま殺すこともできるし、他の奴らの人質に使える。
そんな打算じみた答えを持って、ゼルピュクネー06は手ぐすね引いてその時を待っていた。
そして、その瞬間は、たった一瞬、必然的なタイミングで訪れた。
待っていたゼルピュクネー06が見逃すはずもない。
交錯したバグリベルレの足に向け、一気にワイヤーアームを発射する。
絶妙な一撃に気付いた時には、バグリベルレの足にゼルピュクネーの腕が絡みつき、ピィンと張ったワイヤーにより、二人の距離が一定以上離れられなくなった時だった。
「ちょ、そんなのありですかっ!?」
「死んでいただく!」
自身を思い切り引き寄せワイヤーへの力を加える。
慌ててバグリベルレも急上昇を行い抵抗するが、ゼルピュクネー06の腕力の方が強かった。
グンと引かれたバグリベルレは退避空しく地面へと叩きつけられる。
いつもならば自分が行っていた敵を高所から落として倒す技を自分が掛けられたのだ。
さすがに防御はしたものの、かなりの衝撃に腕が曲がっていた。
羽も折れ、衝撃のダメージは全身に広がっている。
それなのに、ゼルピュクネー06はさらにワイヤーに力を入れ、今度はバグリベルレを真上へと引き上げる。
腕力に引かれ高く舞い上げられたバグリベルレはそのまま半円を描き逆方向の地面へと叩きつけられる。
今度は防御すら満足にできなかった。
顔面に受けた衝撃で一瞬意識が飛ぶ。
曲がって無かった腕がベキリと鳴った。
折れたと気付いた一瞬後、意識が覚醒する。
次いで全身の痛みが襲いかかった。
しかし、悲鳴を上げる隙すらない。
ゼルピュクネー06はさらにワイヤーを引き上げ、再び振り下ろす。
三度目の落下はもはや身体を守る物がない。
両腕が使えない、翅が折れて飛べもしない。
朦朧とした意識の中、バグリベルレの複眼が迫りくる地面を嫌にゆったりと見つめていた。
まさか自分がこれ程良いようにやられるとは思いもしていなかった。
高く上げられた一瞬で見えたのは他の面々の戦い。
その殆どが善戦している。
バグカブトは既に対象を撃破し、粉々ししている所。
バグパピヨンは敗北したかと思ったが丁度ゼルピュクネーの方が爆死していた。
相討ちだ。アレはかなり危険ではあるがまだ生きている。エルティアの魔法で直ぐに回復するだろう。
でも、自分は違う。
完全な敗北だった。
振り子のように天高くからワイヤーに引かれて落下して行く自分の身体が、地面に激突するのが容易に想像できる。
そしてきっと、これが最後の一撃になるだろう。
あの地面と接触した瞬間、自分の身体の折れてはいけない部分から音が鳴るのだ。
決して鳴ってはいけない致命的な音が。
その瞬間、バグリベルレという個体は、望月真由の人生は、終わる。
ああ、またバグレンジャーに欠員出ちゃうな……そんな想いと共にバグリベルレは地面に激突……しなかった。
激突の瞬間、刹那的にバグリベルレと地面の間に黒い何かが割り行った。
「……なんだ、王利さんじゃないですか。助ける相手……間違えてません?」
「間違えてねぇよ。後は俺に任せて休んでろ」
予想もしていなかった相手に助けられ、驚きつつもバグリベルレは意識を手放す。
既に彼女の身体は限界に近かったのだ。
ダメージ値が限界を超えたのか勝手に変身が解除される。
生身の真由を抱きとめた王利は、彼女の足を掴んでいるゼルピュクネー06のワイヤーアームを鉤爪で握り潰す。
「さて、次は俺の相手をして貰おうか」
満身創痍の真由を地面に横たえ、クマムシ男が立ち上がった。