VS ゼルピュクネー2
正直、自分はこの世界で殆ど活躍できていない。
バグパピヨンは自身の今までを振り返り苦虫を噛み潰した顔をしていた。
本来、彼女の能力は毒による鱗粉攻撃で相手の動きを阻害し、弱った敵を狩る暗殺タイプの怪人である。
飛行特性こそあるが、相手が毒の効かない機械族相手では大して活躍できないのは仕方の無いことではあった。
それでも、バグレンジャーの一人として無様な戦いだけは出来ない。
それは王利の彼女となった今でも変わることの無い彼女のプライドだ。
対峙するゼルピュクネー05は地上に降り立ったバグパピヨンを見て怪訝そうな顔で首を捻る。
羽が生えていることから、当然攻撃の際は飛行しての急襲だと思っていたのだが、当てが外れた状態だ。
ただし、問題は無い。
飛行が得意な相手がわざわざ地上戦を行おうとしているのだ。
余りに愚か。
ゼルピュクネー05は相手に対する矛盾点を考えないようにしてレーザーサーベルに腕を変更する。
バグパピヨンは手にしたサイズを構え、相手の出方を窺うように腰を落とす。
一撃で決まる様な戦いではない。
ただ、初手の一撃がその後の流れを作るのは確かな事実だ。
確実にそこだけは自分が取る。
二人は少しづつ足を近づけていく。
中距離まで近づいた時だった。
ゼルピュクネー05が動く。
ただし、剣を振うのではなかった。
逆腕を銃器に変化させ、マシンガンが一気に火を拭く。
即座に羽ばたいたバグパピヨンが空へと逃れ、それを追って弾道が上空へと移動して行く。
羽ばたくごとに死へと至る鱗粉が舞い散る。
その度にエスカンダリオが操る風により鱗粉が運ばれていくが、二人が気にする事ではなかった。
U字を描きゼルピュクネー05の背後から襲いかかるバグパピヨン。
距離が縮まるごとに彼女と銃弾の差が縮まる。
旋回しながら上下左右に飛びつつ、ゼルピュクネー05の肩口をサイスで切り裂く。
しかし、浅い。
交錯する二つの視線。
ゼルピュクネー05が放射したままにレーザーサーベルを頭上に押しだす。
丁度交錯際に返しのサイズが襲いかかった所だった。
サイスはサーベルに阻まれ、二度目の攻撃を行うに至らず、レーザーサーベルはバグパピヨンにダメージを与えるには至らなかった。
互いに思わず舌打ちする。
舌打ちを行ったことに気付き、ゼルピュクネー05は今の、人間っぽかったな。と思う。
バグパピヨンは即座に柄を捻り、レーザーサーベルを受け止めている鎌とは反対の鎌をゼルピュクネー05へと振り下ろす。
着脱式で二つに分かれると思っていなかったらしいゼルピュクネー05は慌てて回避をするも、その装甲を浅く裂かれてしまった。
思わずマシンガンアームを相手に向けて放つが、時すでに遅し、バグパピヨンは空高く舞い上がってしまっていた。
これでは彼女をハチの巣にできない。
ゼルピュクネー05は周囲に視線を走らせる。
相手を倒すのに使えそうな武器を探るが見当たらない。
仕方なく、ブースターを噴かせ空へと舞い上がる。
次は空中戦だ。とばかりに上空へ向うゼルピュクネー05。
しかし、そのブースターがボフッと不自然な音を響かせた。
? と自身のエラー状況を調べる。すると、ブースターに何かが詰まっているのがわかった。
それだけではない。全身くまなくエラーが出ている。
慌ててブースターを切って地面に着地する。
これでは飛べないと、彼はブースターに挟まる遺物を調べる。
それは、鱗粉だった。
バグパピヨンとエスカンダリオの風を操る操作で、かなりの鱗粉が彼の様々な部位に隙間を詰めるように流れ込んでいたのである。
エラー状況こそ軽微だが、全身の繋ぎ目に入り込んでいる鱗粉はこれ以上増えると余り無視できる状態ではない。
しかし、現状彼が繋ぎ目に入ったゴミを何とかする方法は無かった。
だから、一瞬でも早く殺害対象を破壊しなければならない。自分が動かなくなる前に相手を破壊する。
未だに使っていなかった全ての砲門を開く。
ターゲットはバグパピヨン。
肩部追尾ミサイル。腕部マシンガン。頭部眼、口からのビーム。後部多角弾頭ミサイル。
全弾放射。
バグパピヨンはランダムに飛行しながら最初に到達したビーム砲三連を避ける。
追撃の様に迫りくる弾幕を急旋回で回避しマシンガンの掃射を寄せ付けない速度に加速する。
しかし追尾ミサイルだけは避けきれていない。
寸分違わず彼女の動きを追跡し、徐々にその距離を縮めていた。
足先まで近づいてきたミサイルを一つ、再びくっつけたサイスで切り裂く。
空中で爆発が生まれ、その横では撃破を免れたミサイルがバグパピヨンに迫る。
返しの一撃で撃破しようとしたが、ミサイルは無駄に左右にぶれてこれを回避する。
バグパピヨンの焦りが下にいるゼルピュクネー05にも良く見えた。
さらに返しの一撃。しかしミサイルは刃を躱し、その柄に着弾した。
焦るバグパピヨンを巻き込み、盛大な爆発が起こる。
ゼルピュクネー05は思わずニヤつく。
爆風の中から傷付いたバグパピヨンが落下して行く様を見届け、残りの敵に向おうとブースターを点火。
その瞬間、点火した炎を起点にし、集まった鱗粉が燃え上がる。
彼の気付かない内に、彼を包み込むように無数の鱗粉が舞っていた。
予想だにしなかった大音量の粉塵爆発が巻き起こる。
ゼルピュクネー05は何が起こったかすら理解しないまま、木っ端微塵に吹き飛んでいた。